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三重県手話言語条例案

議提議案第二号
   三重県手話言語条例案
 右提出する。
  平成二十八年六月三日
提出者
芳野 正英
中瀬古 初美
山内 道明
岡野 恵美
倉本 崇弘
稲森 稔尚
田中 祐治
大久保 孝栄
稲垣 昭義
津田 健児
長田 隆尚
水谷  隆
   
   三重県手話言語条例
目次
 前文
 第一章 総則(第一条―第六条)
 第二章 手話を使用しやすい環境の整備に関する計画(第七条)
 第三章 基本的施策(第八条―第十三条)
 第四章 雑則(第十四条)
 附則
 手話は、物の名称や抽象的な概念等を手や指の動き、表情等を使用して視覚的に表現するものであり、ろう者が情報を取得し、その意思を表示し、及び他人との意思疎通を図るために必要な言語として使用されている。
 我が国の手話は、明治時代に始まり、ろう者の間で大切に受け継がれ、発展してきた。しかしながら、発音訓練を中心とする口話法の導入により、(ろう)学校における手話の使用が事実上禁止されるに至り、手話の使用が制約された時代もあった。
 三重県立(ろう)学校においては、昭和五十五年に、全国に先駆けて中学部及び高等部の生徒に対する行事等での説明の手段として手話を取り入れるなど、教育活動において手話を活用した指導及び支援を行っている。
 三重県において、このような先駆的な取組が行われているものの、手話に対する県民の理解が十分に深まっているとは言い難い。また、手話通訳を行う人材も十分確保されていない状況にあり、特に手話通訳者が安心して働くことができるよう、手話通訳者の待遇の改善等を図ることが求められている。手話はろう者にとっての声と言うべきものであり、ろう者が将来にわたって手話により情報を取得し、その意思を表示し、及び他人との意思疎通を図っていくためには、手話に対する理解を深めるとともに、手話通訳を行う人材を育成することが重要である。また、台風等の風水害や大規模な地震災害がしばしば発生している三重県においては、災害の発生時において、ろう者が手話により安全を確保するため必要な情報を十分に取得することができるようにすることも重要な課題である。
 このような状況に鑑み、手話に関する施策を一層推進し、聴覚障がいの有無にかかわらず県民が相互に人格と個性を尊重し安全にかつ安心して暮らすことのできる共生社会の実現を図ることや、ろう者がその意欲と能力に応じて活躍することのできる社会の実現に寄与することが求められている。また、手話に関する施策を推進することは、手話以外の意思疎通の手段を充実させることに寄与し、もって全ての障がい者の情報の保障を図る契機になることも期待される。
 ここに、手話に関する施策の基本となる事項を定め、手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この条例を制定する。
   第一章 総則
 (目的)
第一条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話等に関する基本理念を定め、県の責務並びに県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策の基本となる事項を定め、手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、聴覚障がいの有無にかかわらず県民が相互に人格と個性を尊重し安全にかつ安心して暮らすことのできる共生社会の実現を図るとともに、ろう者がその意欲と能力に応じて活躍することのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
 (基本理念)
第二条 前条に規定する共生社会の実現は、手話が、独自の言語体系を有する文化的所産であって、ろう者が知的で心豊かな日常生活及び社会生活を営むために大切に受け継いできたものであり、ろう者が情報を取得し、その意思を表示し、及び他人との意思疎通を図る手段として必要な言語であるという基本的認識の下に図られるものとする。
 (県の責務)
第三条 県は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話を使用しやすい環境の整備を推進し、手話を使用する上で障壁となるようなものの除去について必要かつ合理的な配慮を行うものとする。
2 県は、ろう者である観光旅客、滞在者及び来訪者が安心して観光地等を訪れることができるよう、観光地等において手話を使用しやすい環境の整備に努めるものとする。
3 県は、ろう者及び手話通訳者その他手話を使用することができる者(以下「手話通訳者等」という。)の協力を得て、教育活動、広報活動その他の活動を通じて、基本理念に対する県民の理解を深めるものとする。
 (市町及び関係機関との連携及び協力)
第四条 県は、手話を使用しやすい環境の整備及び基本理念に対する県民の理解の促進に当たっては、市町及び関係機関と連携し、及び協力するよう努めるものとする。
 (県民の役割)
第五条 県民は、基本理念を理解するよう努めるものとする。
2 ろう者及び手話通訳者等は、県の施策に協力し、基本理念に対する県民の理解の促進及び手話の普及に努めるものとする。
 (事業者の役割)
第六条 事業者は、基本理念にのっとり、ろう者に対しサービスを提供するとき又はろう者を雇用するときは、手話の使用に関して合理的な配慮を行うよう努めるものとする。
   第二章 手話を使用しやすい環境の整備に関する計画
第七条 県は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第十一条第二項の規定による障害者計画において、手話を使用しやすい環境を整備するために必要な施策について定め、これを総合的かつ計画的に推進するものとする。
2 知事は、前項に規定する施策について定めようとするときは、あらかじめ、三重県障害者施策推進協議会の意見を聴かなければならない。
3 前項の規定は、第一項に規定する施策の変更について準用する。
   第三章 基本的施策
 (情報の取得等におけるバリアフリー化等)
第八条 県は、ろう者が県政に関する情報を円滑に取得し、及び県に対してその意思を表示することができるよう、情報通信技術の進展その他社会の諸情勢の変化を考慮しつつ、手話による情報の発信等に努めるものとする。
2 県は、ろう者が日常生活において、手話により情報を取得し、その意思を表示し、及び他人との意思疎通を図ることができるようにするため、手話通訳者等の派遣及びろう者からの相談に応じる拠点の機能の確保及び拡充等を行うよう努めるものとする。
3 県は、災害その他非常の事態において、ろう者が手話により安全を確保するため必要な情報を速やかに取得し、及び円滑に他人との意思疎通を図ることができるよう、市町その他の関係機関との連携等必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
 (手話通訳を行う人材の育成等)
第九条 県は、手話通訳者等及びその指導者の育成に努め、市町その他手話通訳事業を行う者と連携して、ろう者が手話通訳者等の派遣等による意思疎通支援を適切に受けることができる体制の整備及び拡充に努めるものとする。
 (手話の普及等)
第十条 県は、市町その他の関係機関、ろう者及び手話通訳者等と協力して、県民が手話を学習する機会の確保等に努めるものとする。
2 県は、その職員が基本理念を理解し、手話を学習する取組を推進するため、手話に関する研修等を行うものとする。
3 県は、手話に関する学習が共生社会についての理解の増進に資することを踏まえ、幼児、児童、生徒及び学生が手話を学習する取組を促進するよう努めるものとする。
 (ろう児等の手話の学習等)
第十一条 県は、聴覚障がいのある幼児、児童又は生徒(以下この条において「ろう児」という。)が手話を獲得し、手話により各教科等を学習し、及び手話を学習することができるよう、ろう児が在籍する学校において幼児期から手話の教育を受けることができる環境を整備し、当該学校の教職員の手話に関する技術を向上させるために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 県は、ろう児が在籍する学校において、ろう児の保護者に対する手話に関する学習の機会を確保し、並びに手話に関する教育に係る相談及び支援を行うよう努めるものとする。
3 県は、聴覚障がいのある乳児が手話を獲得するための機会を確保し、及びその保護者に対する手話に関する学習の機会を確保するよう努めるものとする。
4 県は、前三項に掲げる施策を推進するため、市町その他の関係機関と必要な連携を図るものとする。
 (事業者への支援)
第十二条 県は、事業者がろう者に対しサービスを提供するとき又はろう者を雇用するときにおいて、手話の使用に関して合理的な配慮を行うための取組に対して、必要な支援を行うよう努めるものとする。
 (手話に関する調査研究)
第十三条 県は、ろう者及び手話通訳者等が手話の発展に資するために行う手話に関する調査研究の推進及びその成果の普及に協力するものとする。
   第四章 雑則
 (財政上の措置)
第十四条 県は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
   附 則
 (施行期日)
1 この条例は、平成二十九年四月一日から施行する。ただし、第七条及び附則第三項の規定は、公布の日から施行する。
 (検討)
2 この条例の規定については、この条例の施行の状況を勘案し、必要があると認められるときは検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
 (三重県障害者施策推進協議会条例の一部改正)
3 三重県障害者施策推進協議会条例(昭和四十六年三重県条例第二十一号)の一部を次のように改正する。
  第八条を第十条とし、第七条を第九条とし、同条の前に次の一条を加える。
  (部会)
 第八条 協議会は、その定めるところにより、部会を置くことができる。
 2 部会に属する委員及び専門委員は、会長が指名する。
 3 部会に部会長を置き、その部会に属する委員及び専門委員の互選によつて定める。
  第六条を第七条とし、第五条第三項中「会長及び委員」を「会長、委員及び専門委員」に改め、同条を第六条とし、第四条を第五条とし、第三条の次に次の一条を加える。
  (専門委員)
 第四条 協議会に、専門の事項を調査審議させるため必要があるときは、専門委員を置くことができる。
 2 専門委員は、学識経験のある者、障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者その他知事が必要と認める者のうちから知事が任命する。
 3 専門委員は、当該専門の事項に関する調査審議が終了したときに解任されたものとみなす。
 
提案理由
 聴覚障がいの有無にかかわらず県民が相互に人格と個性を尊重し安全にかつ安心して暮らすことのできる共生社会の実現を図るとともに、ろう者がその意欲と能力に応じて活躍することのできる社会の実現に寄与するため、手話が言語であるとの認識に基づき、手話等に関する基本理念を定め、県の責務並びに県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策の基本となる事項を定め、手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この議案を提出する理由である。
ページID:000219291
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