おさかな雑録
No.64 ススキハダカ 2012年2月14日
出そうで出なかった魚
熊野灘で操業するまき網には、しばしばハダカイワシ科魚類が混獲されます。これまでナガハダカやアラハダカを紹介していますが、じつはまだまだ多くの種が出現しています。今回はその中から、これまで出てきても不思議はなかったのに、先日はじめてお目にかかった魚、ススキハダカを紹介します。
ススキハダカ 標準体長6cm 南伊勢町贄浦産 平成24年1月10日撮影
ウスハダカ 標準体長6cm 南伊勢町贄浦産 平成23年5月25日撮影
日本近海のススキハダカ属には、これまでしばしば採集されているアラハダカやウスハダカを含む、7種が知られています。これまでススキハダカ属と思われる魚を拾うたびに、何か他の種類ではないかと期待するのですが、いつもアラハダカやウスハダカばかりでした。はじめて上の写真の魚を見たとき、体側中央に斜めに並ぶ発光器列がほぼ直線状であることからウスハダカの名が頭をよぎりましたが、何か様子が変なので研究室に持ち帰り、図鑑で調べると直ちにススキハダカと判明しました。
(左)ススキハダカ 標準体長6.6cm 南伊勢町贄浦産 平成24年1月10日撮影
(右)アラハダカ 標準体長7.2cm 南伊勢町贄浦産 平成24年1月26日撮影
ススキハダカの特徴は、鰓蓋上縁の角が角張ることで、上の写真では赤い線でその縁をなぞっています。ススキハダカはこの明瞭な特徴によってウスハダカ、アラハダカをはじめ、その他のススキハダカ属魚類とは区別できます。次に見つけたときには現場で判断することもできそうです。
ススキハダカ 上の3個体が雄、下の3個体が雌 南伊勢町贄浦産 平成24年1月10日撮影
赤丸印は雄の尾柄部背面の発光器を示す。
ススキハダカ 上の3個体が雄、下の3個体が雌 南伊勢町贄浦産 平成24年1月10日撮影
ススキハダカは、ナガハダカやアラハダカと同様、尾柄部背腹面の発光器列で雌雄の区別ができ、そして生殖腺の外見から、雄、雌、いずれもが成熟しているように見受けられました。 これまで、熊野灘のまき網で採集されたハダカイワシ科魚類の生殖腺をいくつか観察しましたが、はっきりと雄の成熟が確認できたのはススキハダカが初めてです。
さて、これまで採集されなかったススキハダカがなぜ今回採集されたのかを考えてみます。ススキハダカの混獲は、ちょうど黒潮北縁からの強い暖水波及が見られた時期に一致していることから、この暖水波及が何らかの要因になっていることが強く疑われます。ススキハダカは本来熊野灘の岸寄りには生息せず、黒潮からの暖水によって熊野灘沿岸に運ばれてきたのかもしれません。
(2012年2月14日掲載 資源開発管理研究課)