おさかな雑録
No.48 ナガハダカ 2011年6月10日
光り方で雌雄がわかります
ハダカイワシ科魚類は深海魚でありながら海底から遠く離れた海中を漂う魚で、中深層性と表現される生態的特徴を持っています。本来は黒い鱗に覆われた体に白く光る発光器がちりばめられた姿をしており、いわゆる「いわし」が属するニシン目とは全く異なります。世界中の水深200~1000mの海をすみかとし、生物量は莫大で種数も多く、海の中では大いに繁栄しているグループです。一方、体長10数cm程度の小型魚で、網にかかると鱗がはがれて「裸」になってしまうために、陸に揚がると「はだかいわし」としてひとまとめに扱われ、しかも混獲物としてゴミにされることがほとんどです。
ほぼ毎週市場調査を行い、熊野灘で漁獲されたゴマサバの胃内容物を調べていると、少なからずハダカイワシ科魚類が出現します。そして、胃内容物や混獲物を詳しく調査する中で、一見するとみんな同じように見える「はだかいわし」の中にも、いろいろな種が混じっていることがわかってきました。今回はその中からナガハダカを紹介します。
ナガハダカ 105mm雄(上)、109mm雌(下) 南伊勢町奈屋浦産 平成23年5月30日撮影
ナガハダカの特徴は、目の白目の部分に三日月状の組織がないこと、体の背縁に発光器がないこと、尾びれの直前に並ぶ発光器の数が2個であること、肛門上発光器列が強く折れ曲がること、後部臀鰭発光器の前端4~5個が臀鰭基部上にあることです。
このように、ハダカイワシ科魚類の区別には発光器の数や位置を利用します。鱗がはがれていても、発光器が残っていれば種の区別ができる可能性があります。
ナガハダカ 雄(上3個体)、雌(下2個体) 平成23年5月30日撮影
さて、ナガハダカについてはさらに注目すべき発光器があります。背面をみると、尾柄部に発光器(写真の▲印)を持つ個体とそうでない個体がありました。
ナガハダカ 雄(上3個体)、雌(下2個体) 平成23年5月30日撮影
次に腹面をみると、やはり尾柄部に発光器(写真の▲印)がある個体とそうでない個体があります。魚の並びは変えていないので、背面に発光器を持つ個体は腹面に持たないということがわかります。
ナガハダカ 雄(上3個体)、雌(下2個体) 平成23年5月30日撮影
そして開腹して生殖腺を見ると、発達した卵巣をもつ個体は尾柄部腹面に発光器を持ち、 貧弱な生殖腺をもつ個体は雄と推測され、尾柄部背面に発光器を持っていました。
魚類学の教科書には、ハダカイワシ科魚類の尾柄部の発光器は第二次性徴を表すとの記述があり、今回注目したナガハダカの尾柄部背腹面の発光器も雌雄を表していると考えられます。
光の届かない深海をもっぱら生活の場とするハダカイワシ科魚類において、発光器はコミュニケーションの手段としても利用されると考えられています。雄と雌とが異なる発光器を持つことは、子孫を確実に残すために有用とも考えられますが、実際の生態は文字通り闇の中です。
はじめにも述べたように、ハダカイワシ科魚類は広い海の中で適応繁栄し、その莫大な生物量は海の生態系を考えるうえでも決して無視できません。これからも、少しずつでも情報を集め紹介していく予定ですのでお楽しみに。
(2011年6月10日掲載 資源開発管理研究課)