おさかな雑録
No.101 ヒラマサ 2015年8月13日
御年はいかに
ヒラマサ 尾叉長約155㎝ 南伊勢町奈屋浦 平成27年4月27日撮影
活魚水槽にとてつもなく大きなヒラマサが浮いていました。何キロあるのか尋ねたところ、なんと40キログラムとのことで、毎日いろんな魚が水揚げされる市場でも、めったとお目にかかれないサイズです。魚は急激に浮上した影響でバランスが取れず、元気に泳いでいるわけではなかったのでどうにか触れそうです。といっても、手持ちの物差しは1メートルですから、肛門を境に前と後ろを測り、足し合せました。まるでマグロやカジキのようです。
ヒラマサ 尾叉長約155㎝ 南伊勢町奈屋浦 平成27年4月27日撮影
ヒラマサの特徴である、上顎上後角は丸みを帯びています。ちなみにこの画角はズームでもトリミングでもありません。あまりに魚が大きくて、これ以上小さく撮れないのです。こんなことで苦労するのも珍しいことです。
さて、ふつう活魚水槽に泳ぐ魚では思いもよらないことだったのですが、このヒラマサは元気が今一つです。いつも市場で仲買人や組合の方たちに、「この魚は何歳?」という質問を受けるのですが、今回ばかりは自分で思いました。それで、購入した方に無理を言って鱗を採らせてもらいました。
ヒラマサ鱗 尾叉長155㎝ 南伊勢町奈屋浦 平成27年4月27日採取
6月23日撮影
一般に、硬骨を持つ生き物では、季節等、成長の停滞が規則的に起こると骨や鱗の形成にも影響を与えます。このため、鱗にみられる輪紋が年齢を表している可能性があります。今回はちょっと乱暴ですが、ヒラマサでは生後1年以降、一年に1本輪紋が形成されるとして、以下の話を進めさせていただきます。
上の2枚の写真は同じ鱗のもので、下は上の左側拡大です。赤三角は年輪と推定される輪紋を、白抜き三角は上の画像ですでに数えたもの、赤×印は鱗の中心(焦点)です。上の写真で鱗の中心から左側に向かって輪紋を数えると、10本まで数えられますが、その先はよく分かりません。一方、下に向かって数えると、7本程度で限界となります。このように、鱗の成長には向きによる差がありますので、どの方向へ数えるか、あるいはいろいろな方向で共通の輪紋になっているか等、読み取りにはいろいろとコツがあります。
さて、上ではそれ以上読めない左端ですが、拡大するとあと2本、そして縁辺にはもう一本できそうに見えます。いつ輪紋が完成するのか、産卵期や個体差もあり、簡単ではありませんが、人間側の都合で魚種によってある程度決まっているのが普通です。また、輪紋はできているときには見分けにくいので、ここではもう一本できたと勘定します。すると、輪紋は全部で13本、すなわち、満13歳という年齢が推定されました。13歳というのはにわかに信じがたい数字ではありますが、あの巨体を見るとまんざらでもないように感じてしまいます。
ところで、普通のヒラマサは何歳くらいなんでしょう?後日、野締めのヒラマサを測定する機会がありましたので比較してみました。
ヒラマサ鱗 尾叉長84㎝ 南伊勢町奈屋浦 平成27年5月15日採取
平成27年6月23日撮影
このヒラマサは尾叉長84㎝ですから、決して小さい個体ではありません。鱗の輪紋を見ると左方向にも、下方向にも4本数えられ、満4歳と推定されました。この推定年齢は、近縁のブリと比べてもそう違わないので、なかなか妥当な線だと思われます。なお、輪紋が少ない場合、下方向に数えたほうが数えやすいかもしれません。
それにしても、155㎝のヒラマサと比べれば、13歳と4歳ですから、えらい違いです。単純に比較はできませんが、4歳で84㎝、もちろん成魚になっていて、それから10年近く、長さも倍近くに成長するなんて、本当に驚きです。海の中にはまだまだびっくりするようなことがたくさんあるに違いありません。
(2015年8月13日掲載 企画・資源利用研究課)