第11回
前回の棚卸資産の決算整理はちょっと難しかったと思います。さらに説明をするとかえって混乱させてしまいそうなので、「頭」が複式簿記の思考回路に慣れるまで、しばらくは、「そうするもんだ」と思っていてください。決算整理の説明をした後に「精算表」の説明をする予定ですので、その時に「なるほど!」と少しは分かってもらえる機会があると思います。
決算整理をしなければならない事項をもう一度見てみましょう。(第10回参照)
- 棚卸資産の整理
- 固定資産の減価償却費の計上
- 固定資産の育成高の整理
- 家事関連経費の整理
- 生産物の家計仕向高の計上
- 未収金、未払金(買掛金、売掛金)の整理
の6項目でしたね。
今回は二番目の「固定資産の減価償却費の計上」について説明します。「今回は納得!」ということになると思いますので安心して進んでください。
2.固定資産の減価償却費の計上
固定資産とは、建物や機械器具等のように、何年にもわたって経営に使用する資産です。これらの資産の価値は、使用し年を経るとともに減少していきます。しかし、建物や機械を毎日見ていても、いつ「値打ち」が下がったのかは分かりません。つまり、日常の取引では把握できないものなので、決算整理を行うわけです。
例えば、トラクターを400万円で購入したとします。このトラクターは今後何年にもわたって使う訳ですから、「トラクターを購入した」という費用を、今年一年だけの費用として処理するのが「おかしい」というのは「納得!」ですよね。そこで、使用し年が経過することによって「下がった値打ち」分をその年の費用として処理するわけです。
この費用のことを「減価償却費」と言います。
では、一年でいくら「値打ち」が下がるのでしょうか?。本来なら、それは使い方によって違うわけですから一概には言えません。先ほどのトラクターを20年使う経営もあれば、3年で買い換える経営もあるかも知れません。
また、購入したその年に、「あと何年使う」と最初から決まっているケースは少ないでしょう。これでは、一年にいくら減価償却費を計上すればいいのか困ってしまうので、複式簿記ではこの減価償却費を計算するルールが決まっています。
実際には、「定額法」「定率法」といわれる二種類の方法があります。農業経営では、一般的に定額法が多く使われています。(税務申告をする際には、「定額法」「定率法」のどちらかを選択することになっていますが、選択の手続きをしない場合は「定額法」を選択したと見なされます。)
ここで減価償却費を計算するのに必要な用語を少し説明しておきます。
取得価額 | その資産を取得するために要した価額で、購入手数料や運送料などがかかっていればその金額も加えて計算します。 |
耐用年数 | その資産を使用する年数のことですが、実際は財務省が償却資産の種類毎に年数を定めています。 |
残存価額 | 耐用年数が経過したときに残っている資産の価額のことです。これも、財務省が「減価償却資産の残存割合表」を示しているので、それによって決定します。建物施設、機械器具等は取得価額の10%です。 |
償却率 | 耐用年数に応じて、定額法、定率法それぞれの償却率が小数点以下第3位まで決められています。同じ耐用年数でも、定額法と定率法では償却率が違うので注意してください。 |
(償却可能限度額) | 簿記には直接関係ありませんが、税務上の用語です。耐用年数を経過したときに、その資産の価額は残存価額(ほとんどのものは取得価額の10%)になっていますが、税務上は取得価額の5%に達するまで償却できることになっています。この償却できる限度の価額のこと、つまり、取得価額の5%のことです。 |
(1)定額法
その資産の価値が毎年一定の額(=定額)ずつ減っていくと考える方法です。次の式で計算できます。
減価償却費= | 取得価額-残存価額 |
耐用年数 |
なお、税務上は "減価償却費=(取得価額-残存価額)×償却率" の式で計算します。これは、1年当たりの減価償却費になるため、年度途中に購入した場合など、経営に使用した期間が一年未満の場合は月割りの計算を行います。この場合、一日でもその月の日があれば一ヶ月と計算します。
例 11月30日(その月の最後の日)に機械を購入して経営に使用するようになった場・№ナも減価償却費の計算上は11月も一月とカウントして11月、12月分の二ヶ月分を計上します、 |
(2)定率法
その資産の価値が、その資産の価額の一定割合(=定率)ずつ減っていくと考える方法です。計算方法は、次のとおりとなります。定率法でも、経営に使用した期間が一年に満たない場合は月割り計算します。
一回目の計算 減価償却費=取得価額×償却率
二回目以降の計算 減価償却費=(取得価額-償却済額)×償却率
ここで、例を使って定額法と定率法との比較をしてみましょう。
例)
取得価額 500万円のコンバイン(自脱型)を7月31日に購入した。
この場合、耐用年数は5年、残存価額は50万円となります。
例では、定額法では45万円、定率法では92.25万円となりその差は、47.25万円の差が出ました。どちらの方法を選択するかは、経営者の判断です。どちらがいいかは一概に言えません。
定率法では、資産購入後数年は多くの費用を計上しますが、年数の経過とともに費用の計上額は減っていきます。従って、全く同じ経営内容(収益と減価償却費を除く費用が毎年同じ)であっても、最初の数年は利益が少なく、後になるほど利益が大きく計算されることになります。
また、減価償却費は費用として計上しますが、実際に経営外部に出ていく費用ではないので、一般的には減価償却費相当額が借入金の償還財源や資金繰りの財源になるので、経営を分析・診断するときには重要なチェックポイントとなります。この様に様々な要素を考慮して、自分の経営にとって有利な償却方法を選択すればいいわけです。(一部の償却資産には定率法の認められないものもあります。)
(3)仕訳の方法
上のように償却資産毎にそれぞれ計算した減価償却費を「建物施設」「機械器具」「車両運搬具」等の勘定科目毎に合計して決算整理仕訳を行います。その仕訳方法には「直接法」「間接法」の二つの方法があります。
ア 直接法
直接法では、次の様に仕訳します。
(借方) | (貸方) |
減価償却費 ○○円 | 建物施設 ○○円 |
この様に仕訳すると(元帳への転記を思い出してください)、建物施設が右側にきているため、建物施設の価額が直接減価償却費分だけ減額されることになります。
イ 間接法
間接法では、次の様に仕訳します。
(借方) | (貸方) |
減価償却費 ○○円 | 減価償却累計額 ○○円 |
間接法では、それぞれの償却資産から直接減額するのではなく、「減価償却累計額」という勘定科目を用いて処理します。この方法では、償却資産の当初の取得価額が残ったままになるので分かりやすい反面、現在の償却資産の帳簿価額が計算しないと分からないといったデメリットもあります。
直接法、間接法はどちらを使ってもかまいません。また、どちらの方法でも、利益の計算結果は同じになりますので、問題ありません。
今回は、減価償却費の計上を説明しました。第三回で説明した期首貸借対照表の作成で固定資産の評価をするには、本当はこの知識がないと出来なかった訳です。第3回は導入部分なのであっさりと、とばしましたが、ここで減価償却の考え方をしっかりとマスターしておいてください。
実際の計算は、手計算だと面倒ですが、パソコン簿記や表計算ソフトを使えば、取得価額、取得年月日、耐用年数、残存価額を入力すれば一瞬にパソコンが計算してくれますので、安心してください。