第10回
今回から数回にわたって決算について説明します。「決算」とは一年の会計期間が終わり、その期の経営成績や財産の状態を確定する作業のことです。第二回で説明した「簿記一巡の流れ」で言えば
「(4)期末にまた財産の状態を調べて、貸借対照表と損益計算書を作る。」の最終段階です。
前回説明しました残高試算表は、日常の取引を記録してきたものですので、ほぼ経営成績や財産の状態を表すものになっています。しかし、簿記上の取引のなかには、日常の取引では把握できないものもあります。そこで、経営成績や財産の状態を確定する「決算」の際に、この様な「日常の取引では把握できない取引」を把握して、整理することを「決算整理」と呼びます。「決算」とはこの「決算整理」をすることと言っても過言ではありません。
具体的に、決算整理をしなければならない事項は下記のとおりです。
1 棚卸資産の整理
2 固定資産の減価償却費の計上
3 固定資産の育成高の整理
4 家事関連経費の整理
5 生産物の家計仕向高の計上
6 未収金、未払金(買掛金、売掛金)の整理
では、具体的にどの様に行うか順番に説明していきます。
1.棚卸資産の整理
個人経営の場合で説明します。個人経営は1月1日~12月31日が事業期間となります。簿記をスタートするときは期首の棚卸資産を調べましたので、決算時には期末棚卸資産(倉庫やほ場にある棚卸資産)をリストアップし金額で評価します。評価方法は、開始時と同じです。(第三回参照)。
(1)期首棚卸資産の決算処理
ア.農産物
個人では期末の時点で農産物を、「実際に売れてなくても売れたことにする」(収穫した年の売り上げとする)という処理を行います。前年度の売れたことにした農産物は、実際には在庫があるので売り上げが発生してしまいます。そのため、決算時に取り消します。
(仕訳例) 期首農産物棚卸高 292,500 / 生産物 292,500 |
肥料や農薬などは「その年の売り上げに必要とした分だけを費用にする」(使わなかった分は費用から除く)という処理を行います。期首の肥料や農薬の在庫は、前年度に費用から取り消されていますので費用に算入します。
(仕訳例) 期首材料棚卸高 80,500/ 肥料 80,500 |
立毛作物や肥育中の牛や豚は、期中に色々な費用をかけて作られた資産です。費用をかけても収益が得られるのは次期になりますね。これでは収益が得られる年と費用がかかった年が違うという事になってしまいます。そこで、その農作物等にかかった「費用を取り消す」仕訳を行い、次期期首では「費用に算入する」という処理を行います。
(仕訳例) 期首仕掛品棚卸高 100,000/ 仕掛品 100,000 |
期末に棚卸資産ごとに下記のとおり決算処理を行います。
ア.農産物
(1)の①の図をもう一度見てみましょう。「実際に売れてなくても売れたことにする」(収穫した年の売り上げとする)というルールでしたね。
(仕訳例) 農産物 300,500 / 期末農産物棚卸高 300,500 |
肥料や農薬は「その年の売り上げに必要とした分だけを費用にする」(使わなかった分は費用から除く)というルールでしたね。使っていない肥料や農薬は、翌年度以降の費用に算入します。
(仕訳例) 肥料 40,000 / 期末材料棚卸高 70,000 農薬 30,000 |
仕掛品は売上(収益)があった時に費用に算入しますので、売り上げが発生するまでは「費用の取消」→「費用の発生」→「費用の取消」→「費用の発生」を繰り返すことになります。
(仕訳例) 立毛作物 120,000 / 期末仕掛品棚卸高 120,000 |
期首にあった農産物 → 期末に収益を取り消す
期首にあった資材 → 期末に費用へ計上する
期首にあった仕掛品 → 期末に費用へ計上する
(次期期首へ)
今期生産した農産物 → 今期の収益へ計上
今期購入した資材等の在庫 → 今期の費用から取り消す
今期残っている仕掛品 → 今期の費用から取り消す
この棚卸資産の整理は、考え方の難しいところです。しかし、仕訳のパターンは単純ですので「何でこんな処理をするのか?」と混乱された方は、「この様な処理をするんだ」と覚えてください。
参考 棚卸資産の整理
農業の青色申告をされている方は、決算書の様式を見てください。決算書の様式でも収益の金額計算は、
収益=(期中の売上高)-(期首の農産物棚卸高)+(期末の農産物棚卸高) |
経費=(期中の経費)+(期首の農産物以外の棚卸高) -(期末の農産物以外の棚卸高)-(経費から差し引く果樹牛馬等の育成費用) |
今回説明した棚卸資産の整理はこの様な計算を行うための仕訳整理と考えてください。
次回以降も、引き続き決算整理事項を説明していきます。最後の仕上げ部分ですので、頑張ってください。