市町村の合併の推進についての要網(概要版)[平成12年12月25日]
1 市町村を取り巻く潮流と市町村の現況・課題
(1)少子高齢化の進行
[1] 少子高齢化の全国的な傾向
ア 少子高齢化の実態
全国の老齢人口割合(全人口に占める65歳以上の人口割合)は、1997(平成9)年では15.7%であったものが、2050(平成62)年には32.3%と、国民の3人に1人が65歳以上になることが予測されている。
わが国の人口は、2007(平成19)年の1億2,778万人を頂点として減少に転じ、2050(平成62)年には約1億人、2100(平成112)年には約6,700万人にまで減少すると予想されている。
イ 少子高齢化による社会への影響
第1に、社会保障に係る現役世代の負担が増大する。第2に、生産年齢人口とされる16~64歳までの人口が構成割合、絶対数ともに低下することが経済成長の制約要因になりかねない。第3に、子どもの社会性を育みにくい環境になることが懸念される。第4に、地域社会の崩壊や福祉サービスをはじめとする基礎的なサービスの提供すら困難になる地域が出てくることが懸念される。
[2] 三重県における少子高齢化の動向と市町村の課題
ア 三重県の人口動向
三重県の人口が減少に転ずるのは2017(平成29)年頃で、それまではほとんど横ばいに近いものの微増が続くものと予想されている。
三重県は高度経済成長期に地域発展の牽引力となってきた主要都市における成熟化及びその都市圏域の拡大という全国の大都市圏域でみられる傾向と、中山間地域における歯止めのきかない人口流出という全国の過疎地域でみられる傾向を併せ持っているといえる。
イ 市町村の課題
市町村行政には、少子高齢化という人口構造の変化に対応した行政体制へ転換を図ることが求められている。
そのためには、従来の地縁・血縁で結ばれたコミュニティだけでなく、NPO等市民活動団体やボランティア活動などを積極的に支援したり、行政との協働により公的なサービスを提供できるような仕組みづくりが不可欠となる。
三重県においては少子化や高齢化の進行に大きな地域差があり、全県画一の対応では自ずと限界がある。市町村は、その地域差を自らの問題としてとらえ、独立性を発揮した特色ある対応を行う必要がある。
(2)財政赤字の拡大
[1] 国・地方を通じた財政状況
2000(平成12)年現在の国・地方を合わせた長期債務残高(借金)の合計は、645兆円に達している。これは、国民一人当たりに換算すると511万円余に達する額である。
[2] 三重県における財政状況と市町村の課題
ア 市町村の財政状況
三重県内の市町村の財政も、きわめて厳しい状況にある。県内市町村の地方債残高は、1998(平成10)年度で6,434億円に達し、1989(平成元)年度の1.8倍に膨らんでいる。
イ 財政悪化の影響
三重県内で財政力指数0.75以上の市町村は10しかない。税収の不足分は主に交付税で措置されるが、今後財政面から交付税制度そのものが見直しを余儀なくされることも考えられる。
交付税制度の維持が、財政面において厳しくなりつつある一方で、地方債の償還、現有施設の維持管理、在宅介護をはじめ少子高齢社会に向けて新たに発生すると見込まれる行政需要への対応等を考慮すれば、地方自治体としては従来型の行政システムからの転換を早急に図る必要がある。
ウ 市町村の課題
三重県における各市町村が抱える財政課題は、市町村の規模や地域性によって異なっているが、少なくとも次のような取組が必要である。
第1に、行政の効率化を図る必要がある。スケールメリットによるコスト削減効果が期待できる事務・事業を積極的に推進する観点から、市町村合併や広域連合の機能強化など、市町村の行政体制の見直しを含めた検討が必要である。
第2に、公共施設の機能的な配置を図る必要がある。隣接する市町村が協力して必要な施設・サービスを機能分担する視点や合併により市町村の区域を実態としての生活圏に合わせる対応についての検討が必要である。
第3に、行政の応答性と透明性を確保する必要がある。限られた予算を有効に配分するために、住民の参加と理解を促す取り組みを積極的に展開する姿勢が必要である。
住民に対する行政の応答性を高め、予算編成から執行に至る過程において透明性を高める取り組みを進めていくことは、行政への信頼性を高め、まちづくりに対する住民の関心を高めることにつながる。
(3)地方分権改革の実施
[1] 地方分権改革論議の経緯
わが国では、戦後改革直後の1940年代末からすでに地方分権改革を求める様々な主張・提言が示されてきたが、地方分権改革はもっぱら権限移譲の問題として捉えられ、地方分権を推進するには自治体の規模・能力を高める必要があるという「受け皿論」とセットで議論される傾向が強かった。
[2] 今回の地方分権改革に向けた動きとその特徴
ア 地方分権改革の路線転換
地方分権改革論議は、1990年代に入ると大きく路線変更することとなった。その節目となったのが、1993(平成5)年6月の衆参両院による「地方分権の推進に関する決議」である。この決議は、国と地方の役割を見直し、地方分権を積極的に進めるための法制定を求めるものであった。
イ 今回の地方分権改革の方向
今回の地方分権改革は、機関委任事務制度の廃止や国地方係争処理委員会の設置など、従来の国と地方の関係を抜本的に見直すための枠組みを提供したということができる。しかしながら、税財源問題については今後の課題として残されている。
分権型社会においては、地方間格差是正措置は必要最小限にとどめつつ、自治体間の格差を個性と捉え、自治体の創意工夫や住民と行政との協働作業により、個性を伸ばすような政策を展開していくことが求められる。ひいてはそれが分権改革の成果につながっていくと考えられる。市町村合併は、こうした行政の転換にとってふさわしい区域・規模のあり方を模索する観点から検討されるべきである。
[3] 三重県における現状と市町村の課題
市町村が政策能力を有し、必要な権能を確保するためには、望ましい区域・規模のあり方を含めて検討する必要がある。
一般に、市町村が自律性を発揮する上で求められる権能・体制としては、次の点があげられる。
第1に、専門性の強化である。時代のニーズに対応した専門部門を設置するには、一定の規模が求められ、人口規模が増加するほど充実するといえる。
第2に、財政力の強化である。限られた予算を有効に活用し、多様な行政ニーズに対応するためには、個々の事務にかかるコストはできるだけ低く抑えておくことが望ましい。事務の性質にもよるが、スケールメリットを図ることによりコストの削減が期待できる事務については、積極的に推進することが求められる。
第3に、権限の拡充である。市町村が現在対応している事務について、権限移譲を行うことにより総合的・一体的な対応が期待できる事務については、できる限り権限を市町村に移譲することが望まれる。
住民ニーズを拠り所とし、戦略的な行財政運営(マネジメント)を実践する意味からも、市町村は個性的な政策を展開できるだけの専門性、それを裏付ける財政力、総合的・一体的な対応を可能とする権限をもつことが望ましいといえる。
(4)日常社会生活圏の広域化
[1] わが国における日常社会生活圏の広域化
戦後の産業・経済活動の飛躍的な成長により、わが国では急激な勢いで都市化が進んだ。それに加え、急速な情報化の進展により、人々の日常社会生活圏は多面的な広がりをみせるようになった。一方で、わが国における市町村の規模は、昭和の大合併の時期に大規模な合併がおこなわれたものの、その後は全体でみればほとんど変わらないまま今日に至っている。市町村の行政区域は、一部の都市を除けばもはや人々の日常社会生活圏域の区域とは合致しなくなったとみることができる。
[2] 三重県における広域化の動向と市町村の課題
三重県においても、高度経済成長の波に乗り1960年代以降都市化が進んだ。
三重県では分散型の都市構造のもとで、圏域が一定のまとまりをもった日常社会生活圏を形成していることが特徴である。
また、三重県では、情報化を通じて生活を豊かにし、産業を元気にする「情報先進県づくり」に取り組んでおり、高度情報通信手段による行政サービスの向上や情報化に対応できる人材の育成、情報の共有による住民参画の拡大などの実現をめざしている。市町村行政においても、高度通信技術を積極的に取り入れたまちづくりや施策の展開が期待され、そのための専門的な組織を整備し、人材を確保することが重要となってくる。
市町村が、高度情報化の進展に的確に対応し、三重県の特徴である分散型の都市構造を踏まえた施設整備や行政サービスを展開するためには、広域行政や市町村合併などについて、その規模や範囲を含め十分検討する必要がある。
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