2014(平成26)年度 いじめの問題を解決するための指導資料「ともに つくる あした」活用のための連続講座報告 ~ 教職員研修プランと学習展開例を体験~
三重県教育委員会は2013(平成25)年8月にいじめの問題を解決するための指導資料「ともに つくる あした」(以下「指導資料」)を発行しました。この指導資料は、8つの教職員研修プランと18の学習展開例で構成されています。
この指導資料をより効果的に活用するための講座を、8月21日に実施しました。ここではその講座の概要をお伝えします。
講座日程
10:00~12:00 講座1「教職員研修プランについて」
13:15~16:30 講座2「学習展開例について」
講座内容
講座1 「教職員研修プランについて」
まず各研修プランのねらいと内容を解説しました。特に「1 いじめに係わる経験を共有する」研修プランに係わり、学校が一丸となっていじめの問題に取り組む土台づくりをするうえでの「教職員が自分のいじめに係わる経験を振り返り、共有し合うこと」の重要性について説明しました。
その後、2つの研修プランを取り上げ、実際に体験していただきました。ここではその内容を簡単に紹介します。各学校において教職員研修を実施する際に、参考にしていただければと思います。
《研修プラン5 一人ひとりの人権を尊重する授業をつくる》(指導資料13ページ)
参加者一人ひとりが日々の授業の中で心がけていること・大切にしていることをグループで出し合い、それを「人権が尊重される授業づくりの視点例」(「人権教育の指導方法等の在り方について[第3次とりまとめ]~実践編~」p.3より)を用いて整理していく研修です。今回の講座では、簡略版を用いて話し合いました。
授業で心がけていることを出し合ったり、整理したりしていくなかで、「自分が大切にしてきたことには、このような意味もあったのか」という気づきや、「この視点でこんな取組もできるのか」という発見がありました。他グループとも交流した後、「特に大切にしたいこと」をグループで絞り、そのために何をするかをなるべく具体的な言葉にしました。例えば、大切にしたいことが「教師自身が一人ひとりを大切にする姿勢を示す」であれば、それを「子どもが発言するときは、必ずその子を見て聴く」といった具体的な行動を表す言葉にまとめ、「具体的な取組内容」に書き込み、全体で交流しました。
最後に、志摩市立磯部小学校の取組を紹介しました。磯部小学校では、各自が大切にしている授業規律を話し合いながら絞り込み、それを言葉で確認し合うだけはなく、お互いの授業を参観し合うことを通じてより実質的に共有を図る取組をしています。この共有化のための手法は、他校においても有効であると考えます。
(参考)子どもが安心して学べる授業づくり~志摩市立磯部小学校の取組を通して~(http://www.pref.mie.lg.jp/DOKYOC/HP/news/isobejugyo.htm)
この研修により期待できること
・これまで教職員がそれぞれに行ってきた子ども一人ひとりを尊重する授業づくりの取組を学校全体で共有できる。
・出された取組を集約し、学校全体の共通理解にできれば、より効果的な教育実践につなげることができる。
・教職員の授業力向上につながる。
《研修プラン6 いじめ被害への対応のポイントについての認識を深める
研修例2 「いじめ被害の訴えに対して、言ってはいけない3つの言葉」について考えるグループワーク》(指導資料16ページ)
児童生徒から「いじめられている」という訴えがあったとき、「言ってはいけない言葉」について考える研修です。これは「この言葉はダメ」「これはOK」というようなマニュアル的なものではありません。一つの言葉について「言う人は、どんな気持ちで言うのか」と「訴えてきた児童生徒には、どのように響くのか」を小グループで話合いながら考えることを通して、そこにはズレが生じる可能性があることに気づくことを目的としています。話し合いにあたっては別紙を使用しました。
たとえば、教職員が励ますつもりで言った言葉が、いじめを訴えてきた児童生徒には、自分を否定したり、切り捨てたりする言葉に聞こえてしまうこともありえます。このようなズレがあれば、言った側の意図がどんなものであれ、相談した児童生徒は「こんな人に相談しても仕方がない」「もう二度と相談なんかするものか」と感じるかもしれません。児童生徒に一度そのように感じさせてしまえば、いじめの未然防止や早期発見は極めて困難になることは言うまでもありません。また、そのようなマイナスの受けとめは周囲の児童生徒の相談しようとする意欲にも影響を与えると思われます。話し合いのなかで、このようなことを確認しました。
この研修により期待できること
・いじめを受けた児童生徒の心理についての理解が深まる。
・いじめを受けた児童生徒が相談しやすい関係づくり・環境づくりにつながる。
・いじめの早期発見につながる。
講座2 「学習展開例について」
学習展開例のねらいと内容を、「いじめについての理解を深める学習」「自分も他者も大切にするための学習」「いじめを受けたとき相談できる力を付ける学習」「いじめを止めたり、解決したりするための学習」の4つの柱に沿って解説しました。
その後、3つの学習展開例の模擬授業を行い、そのなかから2つを選択して体験していただきました。ここでは、模擬授業をするにあたって工夫したポイントをご紹介します。各学校で学習展開例を活用する際の参考にしていただければと思います。
《学習展開例1 これって「いじめ」?【小】》(指導資料25ページ)
工夫したポイント
設問2の活動のために、別紙1を使用しました。これにより、意見のばらつきが一目で把握でき、グループでの話し合いが進めやすくなりました。
また設問3(2)において、「いじめ防止対策推進法」におけるいじめの定義を別紙2のように、両面印刷にすることで、児童にわかりやすく提示できるようにしました。
《学習展開例2 「理由」? 「責任」?【中】【高】》(指導資料27ページ)
工夫したポイント
授業の導入で、設問1の状況をロールプレイ形式で提示し、シート1を使用して、「自分ならどう返すか」を考えるようにしました。ロールプレイを行うことで状況がイメージしやすくなることに加え、導入において児童生徒を授業に引き込む効果もあると考えます。この講座では授業者2人でロールプレイを行いましたが、授業者と児童生徒、または児童生徒2人で行えば、演じてみての感想や思いを引き出すこともでき、さらに学習が深まるのではないでしょうか。
《学習展開例8 私を語る10の言葉【中】【高】》(指導資料36ページ)
工夫したポイント
活動に入る前に、授業者2人が自分について伝え合う活動を例示しました。活動内容がわかりやすくなる効果に加え、授業者が自分のことを開示し、意外な一面などを伝えることで、場がなごみ、児童生徒も自分のことを語りやすくなる効果が期待できます。
また指導資料では席の近い児童生徒どうしでペアをつくり、5人と交流するようになっていますが、今回はあらかじめ4人グループをつくり、別紙を使用してグループ内で交流する形式に変更しました。短い時間で展開したい場合、このような方法もあります。
参加者アンケートより
○自分で体験したものは、LHR等で使用するときも時間配分がわかりやすくなるので、よかったと思います。
○今回の講座により、正直言ってこれまで遠くに感じていたこの指導資料が、非常に身近にあるように感じました。二学期から早速使いたいと思います。
○テーマは「いじめ」ですが、他の人権課題を考える材料としても使える資料だと思いました。
○いろいろな校種の先生方と意見交流できたのが非常によかったです。
今後、本指導資料を活用した各学校の実践内容について、それぞれに工夫した展開例や配布物等を交流し合うことができれば、より効果的な取組につながります。今後、そのような機会もつくっていければと考えています。