保環研年報 第6号(2004)
三重県科学技術振興センター 保健環境研究部年報 第6号(通巻第49号)(2004)を発行しましたのでその概要をご紹介します。
各研究報告(原著、ノートおよび資料)の全文(PDF形式)をご希望の方は、こちらからダウンロードできます。
研究報告
原著
・2004rep1 1999/2000~2003/2004年の三重県におけるインフルエンザ流行状況と対数回帰モデルによる流行規模の予測大熊和行,松村義晴,福田美和,中山 治
キーワード:感染症発生動向調査,インフルエンザ,定点医療機関,対数回帰モデル
1999/2000~2003/2004年の三重県におけるインフルエンザ患者発生動向調査情報をもとに, 患者発生動向の特徴,患者報告数の増加速度と最大患者報告数との関連性等を解析し,同調査情報の一層有効な 活用方途と課題等を検討した.その結果,インフルエンザ定点(73定点)からの性・年齢区分別患者報告数を 当該区分別人口10万人当たりに換算した患者数でみると,6~14歳では5シーズンいずれも女性より男性のほうが 多く,その他の年齢区分(0歳,1~5歳,15~59歳,60歳以上)ではシーズンによって変動するが概して男性より 女性のほうが多いことが明らかとなった.また,インフルエンザの流行規模を保健所管内別の定点・週当たり 患者報告数が30人以上に達するかどうかで判別することを目的として,対数回帰モデルとインフルエンザ 警報発生システム(国立感染症研究所感染症情報センター)による警報発生的中率で比較検討したところ, 前者では75%,後者では68%と対数回帰モデルのほうがやや良好な的中率を示した.また,県全体(73定点) での定点・週当たり患者報告数を用いた場合でも,前者では80%,後者では60%と保健所管内別にみた場合と 同様に対数回帰モデルのほうが良好な的中率を示した.これらの結果から,対数回帰モデルは,定点・週当たり 患者報告数が30人を越えるような大きな流行になるかどうかを予測するモデルとして利用できることが示唆された. しかしながら,2001/2002年のシーズンのようにA型の流行が減衰するに伴ってB型が流行し始め, 患者報告数が2峰性を示すような流行パターンとなる場合は良好な精度で予測することが困難であったことから, 2003年1月から調査を実施している迅速診断キットを用いた病原体診断実施状況調査によるウイルス型別の インフルエンザ患者報告数をもとに,インフルエンザの流行時期,流行規模,流行継続期間が概して 上野保健所管内,尾鷲保健所管内,熊野保健所管内,その他6保健所管内の4群に分類されることを考慮した 対数回帰モデルの構築と精度向上について検討していく.
ノート
・2004rep2 酸化鉄系資材を用いた処分場浸出水等の処理方法高橋正昭,佐藤邦彦,加藤進,円城寺英夫,佐々木謙一1) ,桜井薫1) ,平井恭正1) ,大澤誠司1) ,今村敏1)
1) 石原産業株式会社
キーワード:酸化鉄,汚水処理,重金属除去
産業廃棄物処分場浸出水を対象とした水処理材として酸化チタン製造工程の副生含鉄硫酸から合成した酸化鉄系素材の利用を 検討している.基礎的な検討として酸化鉄系素材の表面積や化学的組成などの基本的な性状あるいは水中の重金属除去性能, 凝集効果などの特性の評価,及び産業廃棄物処分場から排出された浸出水の浄化処理性能について検討を行なった.酸化鉄系 素材には,これら排水中の重金属除去あるいはSS等の凝集沈降において塩化鉄と同等の効果が認められた.・2004rep3 コンソーシアム系を利用したバイオジーゼルオイル(BDF)製造機からの高濃度油分廃液の微生物分解について
加藤進 ,佐藤邦彦,吉村英基,吉岡理,岩崎誠二,高橋正昭
キーワード:BDF, 微生物分解, 廃油, コンソーシアム系
石田農園(石田一幸氏)から提供された菌叢を利用して,実験室的および現場で微生物による油分解を廃油およびオリーブ油 (一部テンプラ油)に対して適用した.その結果,コンソーシアム系では単独菌よりも高い油分解能と安定した再現性が認められた. このコンソーシアム菌叢は保存・連続培養を1年実施しても,油分解能は失われなかった.コンソーシアム系で廃油の分解を連続的に 実施するためには,窒素系の栄養(ポリペプトン等)の補給が重要であった.コンソーシアム系での油分分解に及ぼすpHおよび水温 の影響を確認したところ,pHは中性付近,水温は25℃で最大の油分分解能を示した.イオシス(コマツ三重製)からの廃液処理に on-siteで適用し,約1年間にわたって廃液の分析を実施したが,本処理によって,pH,SS,BODおよび油分(n-ヘキサン抽出物質) は排出基準未満(水質汚濁防止法)であった.・2004rep4 建築廃材炭化物の有効利用に関する検討
佐藤邦彦,円城寺英夫,高橋正昭,井上吉一1),山口 勝1)
1) 三重中央開発(株)
キーワード:建設廃材,炭化物,有効利用
建築廃材由来の炭化物の有効利用を図るため性状試験を行った.その結果,比表面積,メチレンブルー吸着量は市販の活性炭に 比べ低く,吸着剤あるいは床下調湿材などとしての利用は困難と考えられたが,炭素分が約97%で粉コークス,木炭より多かった ため,コークス等を使用している施設の補助及び代替燃料としての利用が有効である考えられた.また,鋳鉄製造用電気炉の加炭材 の代替として実証試験を行った結果,炭化物成分組成上は可能であったが,炭化物の比重及び加炭状況から運転条件の変更や成型 加工が必要と考えられた.・2004rep5 GC/MS/MSを用いた茶(浸出液)農薬19種の一斉分析法
冨森聡子,西川 孝,川合啓之,林 克弘,前田千恵,松島理佳,橋爪 清
キーワード:イオントラップGC/MS/MS,茶(浸出液),農薬,一斉分析,プリカーサイオン
三重県内で使用されている茶農薬19種(BHC 4種, DDT4種, chlorothalonil, etofenprox, etoxazole, flucythrinate, chlorfenapyr, chlorpyrifos, myclobutanil, pyraclofos, pyridaben, cyhalothrin, tebconazole)について外部イオン化法 イオントラップGC/MS/MSを用いた一斉分析法を検討した. GC/MS/MS の測定条件を検討し,Full ScanとMS/MSを組み合わせる ことにより高感度,迅速に測定することが可能となった.・2004rep6 市販ウコン末の品質評価
佐藤 誠,志村恭子,橋爪 清
キーワード:ウコン,クルクミン,品質評価
健康への関心が高まる中,ウコンは健康に良いとして注目されているが,ウコンの実体が正確に認識されているとは限らず, 品質評価も十分ではない.そこで,今回,市販のウコン末について,有効成分であるクルクミン及び精油含量を分析し品質評価 を行ったところ,表示と実体とに矛盾がある市販品もみられた.このことから,今後もウコンの品質評価を行っていく必要がある.・2004rep7 三重県の有害大気汚染物質の状況について
塚田 進,山川雅弘,佐来栄治,西山 亨,早川修二,白井宣一郎
キーワード:有害大気汚染物質,環境基準,健康リスク指針値,主成分分析
大気汚染防止法に基づき,三重県では有害大気汚染物質の測定を1997年の後半から実施しているが, これら数年分のデータについて,解析・検討を行った.・2004rep8 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)のLC/MS分析と環境濃度について
その結果,環境基準が設定されている物質のうちベンゼンは比較的高い濃度で検出されたが,他の項目 (トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメタン)は大幅に下回る濃度であった. また,その他の有害大気汚染物質で健康リスクの低減を図るための指針値として指定されている物質等に ついても低い濃度であった.このような結果は,他県の状況と同じであった.
各有害大気汚染物質濃度の経年変化は,横ばいかやや低下傾向にあり,各測定局間で濃度の差が少なか ったのは水銀,ベリリウム,ヒ素,マンガン,酸化エチレンであった.また,得られたデータについて 主成分分析を行った結果,おおむね重金属類と有機化学物質類の2つのグループに分けることができ, 測定局によっては,さらに有機化学物質類をアルデヒド類とその他に分けることができた.これは発生源 が異なることによると推定された.
佐来栄治,早川修二
キーワード:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS),LC/MS,陰イオン界面活性剤
液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)を用いて直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS,同族体5種) について測定法の検討と河川環境調査等を行った.環境庁(現,環境省)が示した分析法1)では移動相 にアセトニトリルを使用していたが,移動相をメタノールに変えてもLASを良好に測定することができた.河川調査 の結果,対象としたデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,ドデシル ベンゼンスルホン酸ナトリウム,トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,テトラデシルベンゼンスルホン酸 ナトリウムの5物質とも,河川水,底質中から検出された.LASの水中での分解試験を行ったところ,5物質とも速 やかに分解し,水中での残留が少ないことがわかった.・2004rep9 大気中有機化学物質実態調査(第2報)
山川雅弘,佐来栄治,市岡高男,早川修二,西山亨,塚田進,白井宣一郎
キーワード:大気,キャニスター,揮発性有機化学物質
キャニスター捕集-GC/MS法を用いて大気中有機化学物質調査を実施した.
今回の調査(H10~15年度)で最も高濃度に検出された物質はトルエンであった.トルエン,エチルベンゼン, キシレン類,1,2-ジクロロプロパンおよびジクロロベンゼン類について化学物質環境汚染実態調査結果(環境省) と比較したところ,同程度の濃度レベルであった.また,平成14年度PRTR制度公表データと比較したところ, 全国PRTR排出合計量(届出および届出外合計)上位5物質及び,同三重県排出合計量上位4物質が,今回の調査 対象物質の内,PRTR制度対象物質の大気中濃度の順位と一致していた.
フロン類の6年間平均濃度は,北海道内バックグランド地点と比べて1.1~1.3倍とほとんど変わらなかった. また,フロン類の内,1,1,1-トリクロロエタンのみ減少傾向がみられ,この傾向は北海道内バックグランド地点 と似かよっていた.これは,今回の調査地点周辺には発生源がほとんど存在しないためと考えられる.
臭化メチルは平成14年度から減少傾向がみられた.この物質はモントリオール議定書付属書に基づき,平成17年 度に全廃(先進国,一部用途を除く)される予定であり,今後も減少していくことが予想される.
資料
・2004rep10 2003年に三重県で発生した食中毒岩出義人,中野陽子,矢野拓弥,山内昭則,杉山明
2003年1~12月に三重県で12件の食中毒が発生し,その患者数は710名であった.病因物質の内訳はNorovirus 3件 (喫食者数349名,患者数167名),Salmonella sp. 3件(喫食者数180名,患者数107名),Vibrio parahaemolyticus 2件(喫食者数100名,患者数57名),Staphylococcus aureus 2件(喫食者数2316名,患者数352名),Campylobacter jejuni 1件(喫食者数32名,患者数26名),ふぐ毒1件(喫食者数1名,患者数1名)であった.・2004rep11 2003年感染症発生動向調査結果
山内昭則,矢野拓弥,中野陽子,岩出義人,杉山明,中山治
キーワード:感染症発生動向調査,インフルエンザ,アデノウイルス
2003年度,検体が搬入された患者1113名中431名からウイルスが分離・検出された.その内訳は,インフルエンザ171名, 感染性胃腸炎48名,ヘルパンギーナ19名,手足口病15名,無菌性髄膜炎5名等であった.このうちインフルエンザ(疾患名 未記入1名含む)と診断された患者検体から172例のインフルエンザウイルスが分離され,その内訳はAH3型134例(77.9%), B型38例(22.1%)であった.感染性胃腸炎は依頼のあった131名の患者から,ノロウイルス(NV)22例,A群ロタウイルス (RoA) 11例,サポウイルス(SV) 8例等の病原体が検出された.エンテロウイルス 71型(EV71)は2~3年間隔で流行する 傾向があり,2003年は手足口病7名,ヘルパンギーナ1名から分離された.アデノウイルス(Ad)は,427名中147名より 分離され,中でもAd3型が最も多く117名であった.県内ではAd感染症患者などからAd3型が主に分離されており,年間を通 してAd3型の流行がみられた.・2004rep12 2003年度の日本脳炎,風疹,インフルエンザ,麻疹流行予測調査の概要
矢野拓弥,西香南子,山内昭則,久保晶,杉山明,中山治
キーワード:流行予測調査,日本脳炎,風疹,豚インフルエンザ,人インフルエンザ,麻疹 2003年度
2003年度は,日本脳炎,風疹,ブタインフルエンザ,人インフルエンザ,麻疹について感染源または感受性調査を実施した. 三重県中部地方で飼育された豚における日本脳炎ウイルスHI抗体保有豚の有無を調査した.40倍以上のHI抗体を保有した豚 については,最近の感染であったことの指標となる2-ME感受性抗体の出現を調査したが,保有豚は認められなかった. 新型インフルエンザウイルスの侵入を監視する一助として,豚における動物インフルエンザに対するHI抗体保有状況を実施 したが120頭すべての豚で抗体は陰性であった.人のインフルエンザHI抗体保有はA/NewCaledonia/20/99(H1N1)に対しては, 25.5%,A/Panama/2007/99(H3N2)では49.5%,B/Shandong/7/97は5.5%であった.特にH1N1型は成人層,高齢者層での抗体 保有率が低く,H3N2型も成人層以上はまだ十分な保有率とは言えなく,B型は全年齢層で極めて保有率は低かった. 麻疹感受性調査では,男女のそれぞれの全年齢層でのPA抗体保有率は男性で94.6%,女性で96.2%と免疫獲得は良好であった. 風疹の全年齢層でのHI抗体保有率は,0~19歳までは男女差はあまりないが,20歳以降では男性が低く差が見られた.・2004rep13 2003年度の先天性代謝異常等検査の概要
山中葉子,橋爪清
キーワード:先天性代謝異常等検査,先天性副腎過形成症,先天性甲状腺機能低下症
先天性代謝異常等検査は県を実施主体としており,2003年度は県内の新生児のうち保護者が希望した17,494件について検査 を行った.疑陽性と判定し再検査を行った検体は429件であり,精密検査依頼数は先天性副腎過形成症19件,先天性甲状腺 機能低下症40件,ガラクトース血症2件であった.確定患者数は先天性副腎過形成症3人,先天性甲状腺機能低下症10人, ガラクトース血症1人であった.・2004rep14 四日市地域における酸性雨の状況について(平成15年度調査)
西山亨,佐来栄治,塚田進
キーワード:酸性雨,イオンバランス,N式パッシブ簡易測定法,気象要因
平成15年4月~16年3月まで,四日市市内の2地点(新正及び桜町)において2種の降水捕集方法(ろ過式(常時開放型捕集装置), W.O.法(降水時開放型捕集装置))による湿式調査とN式パッシブ簡易測定法による乾式調査を行った.その結果, 湿式調査に おいて年平均のpH値は,両地点に差は認められなかった.pH経年変化は系列相関検定により上昇傾向が示された.イオン濃度 (年平均,ろ過式)は新正の方が高かったが,沈着量は桜町の方が多かった.海塩粒子の影響は,風が南寄りの場合に北寄りの時 に比べ約2倍程度であった.また,風向別にイオン成分を整理して,両地点でpH・NH4・NO3の傾向が異なることを示した. N式パッシブ簡易測定法による乾式調査では,オゾン以外は新正の方が桜町よりも捕集量が多く,湿式調査に比べ地点間の違いが 明確に示される可能性が示唆された.