保環研年報 第3号(2001)
三重県科学技術振興センター 保健環境研究部年報 第3号(通巻第46号)(2001)を発行しましたのでその概要をご紹介します。
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研究報告
原著
・200101 集団入所福祉施設等におけるインフルエンザ様疾患の発生動向調査とインフルエンザワクチンの効果 (約43KB)
寺本佳宏,福田美和,高橋裕明,大熊和行,中山治
老人福祉施設や児童福祉施設等のような集団暴露・感染の高リスク群である県内の集団入所 施設の入所者を対象に,1999/2000および2000/2001シーズンのインフルエンザ様疾患の流行状 況とインフルエンザワクチンの接種状況について調査し,インフルエンザワクチンの有効性に ついて検討を行った. その結果,ワクチン接種率は1999/2000シーズンが59.1%,2000/2001シーズンが70.7%と上 昇していた.またワクチン接種率の高い施設ほど発病率が低くなる傾向が認められ,特にワク チン接種率が70%以上の老人福祉施設では発病率が有意に低くなった.・200102 オゾン,半導体光触媒,紫外線等を併用する方法や超臨界水を用いる方法による環境ホルモン類無害化技術の開発 (約54KB)
男成妥夫
オゾン,半導体光触媒,紫外線等を併用する方法や超臨界水及び亜臨界水を用いる方法等の いわゆる高度酸化処理技術(Advanced Oxidation Process,AOP)を用い,環境ホルモン類 を効果的に分解して無害化し除去する方法について検討した.その結果,以下の事がわかった.・200103 四日市港周辺海域のエストロゲン様物質について (約42KB)
(1) 農薬類のアトラジン,シマジン,カルバリル,チオベンカ-ブはいずれもオゾン-二酸 化チタン光触媒-紫外線併 用のAOPにより,60 min以内に酸化分解し無害化することが 可能である.
(2) アトラジン,シマジン,カルバリル,チオベンカ-ブのAOPによる酸化では,ギ酸や シュウ酸に代表されるカルボン 酸類を経て無機化が生じ,最終生成物として炭酸ガス水, 硝酸イオン,塩化物イオン等が生じるものと考えられる. (3) PCBの過酸化水素及びアルカリ共存下の亜臨界水中での酸化分解は比較的容易である.
(4) 亜臨界水中では,PCBはカルボン酸類を経て分解され,炭酸ガス,水及び塩酸を生成 するものと考えられる.
岩崎誠二,加藤進,国分秀樹,高橋正昭,松田知成,松井三郎
伊勢湾内の四日市港周辺海域6地点のエストロゲン様物質を,2000年9月~2000年3月にかけて 酵母を利用したバイオアッセイで測定した.海水をろ過し,ろ過液とろ過残さのエストロゲン 様物質をそれぞれ溶解性エストロゲン様物質及び不溶性エストロゲン様物質として測定した. その結果,全調査期間を通じ,すべての地点でエストロゲン様物質が検出された.最大値は, 溶解性エストロゲン様物質で1.6ng/L,不溶性エストロゲン様物質は1.1ng/L,またそれらの和 である全エストロゲン様物質では2.3ng/Lであった.エストロゲン様物質の濃度は,水温の高温 期に低く,低温期に高い傾向にあった.また河川の調査結果と同様に,全般的に溶解性エスト ロゲン様物質の割合が高い傾向にあった.・200104 浚渫汚泥を用いた干潟造成技術開発研究 (1) 英虞湾の造成干潟の環境への効果に関する調査 (約63KB)
国分秀樹, 高橋正昭, 岩崎誠二, 加藤進,上野成三, 高山百合子
干潟は水質の浄化に重要な役割を果たしているとして注目されており,その保全が叫ばれ, 人工干潟を造成する試みが全国的に展開されている.そこで我々は新しい人工干潟材料の一つ として浚渫汚泥を提案し,阿児町立神浦に実験的に5m×25mの浚渫汚泥を用いた人工干潟を造 成した.そしてその干潟へアサリを放流し,周辺の環境に対する影響を定期的に調査し,干潟 材料としての浚渫汚泥利用の可能性を検討した.造成後干潟土壌の流出による消失は認められ ず,干潟は安定して存在した.造成後から半年では底質が徐々に好気的に変化していた.また 定着した底生生物の種類は造成前のものと比較するとほぼ同じになった.天然干潟土壌を用い た実験区と比較すると,浚渫汚泥を混合した干潟の方が生物の定着が良くなった.放流したア サリについても干潟に定着し,成長が見られた.このように浚渫汚泥を用いた干潟は,本来の 干潟としての機能を発揮しつつあると考えられる.・200105 フェノ-ル樹脂容器等からのGC/MS-SIMによる14種フェノール類の測定 (約270KB)
小川正彦,冨森聡子,林克弘,佐藤誠,志村恭子
近年の内分泌撹乱性を疑われる物質のカップ麺容器からの溶出論議以後、容器からの溶出す る化学物質の個別量を測定することが求められるようになってきた。そこで,フェノール樹脂 から溶出する物質のうち,塩素原子が1~3個結合したクロロフェノール及びクレゾールの14 種類の測定について検討し,フェノール樹脂容器等からの溶出試験を行ったところ,以下の結 果を得た。 1.フェノール類14種及びフェノールのGC/MSによる測定は,m-クレゾールとp-クレゾ ールを合量として,検出限界が試料表面積当たり0.08~0.2ng/cm2となる溶出微量成分の 測定に十分なものであった. 2.容器からの溶出条件及びジクロロメタン層への転溶条件の違いによるフェノール類の回 収率の違いを検討したところ,最適と思われる条件を決定できた. 3.容器等20種を測定したところ,参考に行ったフェノールを含め,クレゾール3種,3-クロ ロフェノール,4-クロロフェノール,2,5-ジクロロフェノール及び2,4,6-トリクロロフェ ノールが検出された.フェノール樹脂+木粉及びカシュー塗装から,クレゾールが20ng/cm2 以上検出された試料があった.内分泌撹乱性が疑われる2,4-ジクロロフェノールはいずれ の試料からも検出されなかった. 4.すべての試料から検出されたクレゾールの構成比について検討したところ,樹脂素材と 塗装とで,o-クレゾール比が異なった.
ノート
・200106 浚渫汚泥を用いた干潟造成技術開発研究(2) ―脱水による浚渫汚泥の性状変化― (約32KB)高橋正昭,国分秀樹,岩崎誠二,加藤進
水質の浄化に重要な機能を果たしている干潟の造成技術として浚渫汚泥を用いた干潟造成方 法が注目されている.しかし,浚渫汚泥は一般にシルトあるいは粘土質であり,これを直接用 いることが困難であることから脱水による汚泥の改質方法を検討した.一般に,浚渫汚泥は微 細な粒子から構成され,このため干潟土として用いた場合に容易に流出する可能性が高いこと から汚泥の脱水―乾燥処理による改質を試みた.伊勢湾において採取した汚泥を風乾し,これ に伴う汚泥の物性変化を調べたところ,汚泥粒子の粗大化に伴い巻き上がり性の減少や汚泥表 面の沈降が生じにくくなるなどの改善が認められた.また,汚泥の状態が嫌気性から好気性化 へ変化するなどの効果も認められ,脱水乾燥処理が干潟土壌として利用する上での有効な方法 であると考えられた.・200107 多自然型河川作りに関する研究 第3報 鹿沼土を用いた同時脱リン・脱窒法 (約29KB)
加藤進,国分秀樹, 岩崎誠二,高橋正昭
環境に優しい吸着担体として鹿沼土を利用し,河川水からの同時脱リン・脱窒法を開発した. 今回は,実用化を念頭に置いて,吸着材の製造速度のスピードアップ,形状,製法および固/ 液比と脱リン率の関係を連続および回分法(24時間)で実施した.その結果,方形担体を採用 すると,製造速度が3倍となり,おおむね満足すべき脱リン率が得られた.連続式(SV=0.48h-1) の脱リン率は30%であり,回分式では100%近い脱リン率が得られた.また,脱窒の初期濃度依存 性は,50mg/L程度のNO3-が排水に含まれる程度ならば,ほぼ100%の脱窒率が得られた.・200108 2000年度養殖海域におけるノーウォークウイルス汚染調査 (約30KB)
西香南子, 杉山明,中山治
1997年より牡蠣の養殖を行っている2海域に定点を定め牡蠣のノーウォークウイルス(NV)の 汚染状況と下痢症患者由来NVの遺伝子解析を進めてきた.さらにポリオウイルスを用いて牡蠣 の浄化実験を試みた.2000年度はNV陽性となった牡蠣は2検体しかなかった.前年に比べ陽性と なった牡蠣が少ないのは,NVによる乳児下痢症や急性胃腸炎の発生が少ないことや雨量の減少 による牡蠣の餌となるプランクトンの減少,夏季の豪雨による海域の変化等様々な環境中の要 因が影響したと推察された.・200109 2000年度感染症発生動向調査結果の解析 (約35KB)
矢野拓弥,西香南子, 川田一伸,市川賀子,杉山明,中山治,神谷齊
2000年度感染症発生動向調査定点から報告された疾患のうち,感染性胃腸炎が42.7%を占め 最も多く,次いでインフルエンザ疾患が12.4%で以下,水痘10.6%,手足口病8.1%と続いた. 手足口病患者は1999年に比較し大幅に増加し,北勢地域の同患者からエンテロウイルス71型等 が分離された.例年どおり冬季にはインフルエンザ 疾患の発生がみられたが,本年度の発生時 期は遅く,昨年度に比較して総患者数は大幅に減少した.1月下旬から3月にAソ連型とB型ウイ ルスが分離された.冬季の感染性胃腸炎患者からはNorwalk viruses(NV),A群ロタウイルスが 検出された.アデノウイルス感染症が年間を通じてみられ,消化器症状や咽頭炎等からAd1,2, 3,7,40/41型等が分離された.・200110 2000年度の日本脳炎,風疹,インフルエンザ流行予測調査の解析 (約32KB)
川田一伸,矢野拓弥,西香南子,市川賀子,杉山明
日本脳炎のHI抗体保有豚は,6月27日から8月23日まで検出された.また2-ME感受性抗体保有 豚についても,6月27日から8月23日まで検出された.風疹のHI抗体保有率は男性で78%,女性 では84%であった.インフルエンザ感受性調査では抗体保有率がA/モスクワ/13/98(H1N1)につ いては10~30歳の年齢層で70%以上と高く,A/パナマ/2007/99(H3N2)については5~14歳で80% 台と高く,B/山梨/166/98については10~19歳の年齢層でやや高かったものの他の年齢層では低 いのもあった.今年度はAソ連型(H1N1)とB型の混合流行が認められた.豚のA/HK/9-1-1(H5N1) 及びA/HK/1073/99(H9N2)の両株に対する抗体保有状況は80頭全例が抗体を保有していなかった.・200111 三重県産かぜ薬(錠剤)の回顧的バリデーション (約43KB)
佐藤誠,志村恭子,林克弘,小川正彦,冨森聡子
県下中小医薬品メ-カ-で製造されているかぜ薬(錠剤)の実生産規模での確認及び回顧的 バリデ-ションについて以下のように実施した.製造工程における管理項目が管理条件下にあ ることを確認するとともに,重要工程における有効成分の含量均一性及び製品試験検査データ を調査解析し,当該重要工程及び製造工程の管理状態を検証した.重要工程及び製品試験検査 データを評価したところ,十分管理されていることが明らかとなった.・200112 高速溶媒抽出装置を用いた河川底質中のノニルフェノール,ビスフェノールAなどの分析について (約137KB)
佐来栄治,早川修二,山川雅弘
外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)のノニルフェノール,ビスフェノールAなど11物質に ついて高速溶媒抽出装置をもちいて河川底質からの抽出条件の検討を行った.対象物質をメタノ ールで抽出後,固相抽出-エチル化-GC/MS-SIM法による測定条件を確立し,県内7河川の調査 を行った.その結果,主にノニルフェノール,4-t-オクチルフェノール,ビスフェノールAが検 出された.河川水中と底質中濃度との検討を行ったところ河川中濃度と底質中濃度に相関がみら れた.・200113 県下河川水中の環境ホルモン類の状況(第2報) (約42KB)
早川修二,佐来栄治,山川雅弘
いわゆる環境ホルモン類(外因性内分泌攪乱物質)の内でフェノール系(ノニルフェノール, ビスフェノールA他)10物質について,三重県下の7水系(36地点)を対象に,年4回試料採 取を行い,固相抽出-誘導体化-GC/MS-SIM法で分析を行った. その結果,前年度 と同様にビスフェノールA,ノニルフェノールなどが検出されその濃度範囲はビスフェノールA が ND(0.01)~11.1μg/L,ノニルフェノールが ND(0.05)~2.4μg/Lであった.・200114 大気中のホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドの状況 (約97KB)
中村研二,山川雅弘,佐来栄治,市岡高男,早川修二
有害大気汚染物質モニタリングの一環として三重県北中部地域の6地点で毎月1回実施してい るホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドの調査結果について,季節変動及び他の汚染物質と の相関を解析した.その結果,アルデヒド類の濃度は初夏から初秋にかけて高く,冬季に低い 傾向が見られた.一方,アルデヒド類と同様自動車排ガス中に含まれている1,3-ブタジエン, ベンゼン,ベンゾ[a]ピレンについては,窒素酸化物と同様,秋~冬季に濃度が高くなる傾向 があり,大気中における挙動に差が見られた. また,アルデヒド類が大気中の光化学反応に よっても生成されることから.光化学オキシダントの季節変動と比較したところ,アルデヒド 類との相関が見られ、大気中のアルデヒド類の挙動には,光化学反応による生成の影響が窺わ れた.
資料
・200115 三重県における腸管出血性大腸菌感染症の発生動向 (約37KB)大熊和行,寺本佳宏,福田美和,高橋裕明
三重県における腸管出血性大腸菌感染症の発生動向は次のとおりであった. (1)1996年6月に初めて患者発生が確認されて以来,2001年9月末までの患者数は209名,保菌 者数は121名であった. (2)四日市,鈴鹿,津,松阪及び伊勢の各保健所管内では患者,保菌者ともに増加傾向がみら れたが,尾鷲及び熊野保健所管内ではほとんど発生していなかった. (3)月別患者発生数は,全国の動向と同様に例年7~8月にピークとなり,9月には減少に転じ る傾向がみられた. (4)年齢階級別の患者発生数も全国動向と同様に0-19歳においては低年齢階級ほど高い発生数 を示したが,20-29歳は15-19歳より高い発生数を示した. (5)患者から分離された腸管出血性大腸菌の血清型別の分布状況やベロ毒素保有状況も全国の 傾向と同様であった。・200116 2000年に三重県で発生した食中毒 (約28KB)
岩出義人,矢野拓弥,西香南子,山内昭則,川田一伸,杉山明
2000年に三重県で発生した食中毒は,5件あり喫食者数1210名中175名(発症率14.5%)であった. 原因物質の内訳はVibrio parahaemolyticus 2件,Salmonella sp. 1件(S.Enteritidis 1件),ノ ーウォークウイルス(NV) 2件で,すべて微生物によるものであった.V.parahaemolyticusによる 事例では,患者便からTDH産生性で血清型O3:K6が分離されたが,原因食品から同型菌を分離する ことはできなかった.・200117 GC-ICP-MSによる微量有機スズ化合物の誘導体化分析 (約57KB)
打田雅敏,長谷川圭司,阪本晶子,山中葉子,橋爪清
GC-ICP-MSによる水中の微量有機スズ化合物の分析について検討を行った.テトラエチルホウ 酸ナトリウムをエチル化剤とする誘導体化は,操作手順が極めて簡易で,水層中で直接反応を 行うことができ,溶媒層への高い回収率が得られた.誘導体化後の有機スズ化合物は,GC-ICP- MSシステムでの分析において,形態別に分離定量が可能となり,水試料において1pptレベルの 有機スズ化合物の分析が可能である.・200118 2000年度の先天性代謝異常検査の概要 (約22KB)
山中葉子,長谷川圭司,橋爪清
先天性代謝異常検査は県を実施主体として県内の新生児のうち,保護者が希望した18,854件について検査を行った.疑陽性と判定し再検査を行った検体は507件であり,精密検査数はガラクトース血症2件,甲状腺機能低下症19件,副腎皮質過形成症15件であった.確定患者数はガラクトース血症1名,甲状腺機能低下症4名であった.また,Guthrie法で抗生剤使用により判定不能であった32件について高速液体クロマトグラフ(HPLC)分析法で再検査したところ陰性であった.