1 第1期実施計画から第4期実施計画までの成果
(1)ヘルスケア産業の連携基盤の充実・強化
ネットワークの構築
特に顕著な成果は、産学官民連携のネットワークが構築されたことです。みえメディカルバレー構想の取組が開始されるまでは、県と高等教育機関、企業等との連携・支援は個別の案件ごとに対応していましたが、みえメディカルバレー構想に基づく産学官民連携のネットワークともなる鈴鹿医療科学大学社会連携研究センター(平成24年10月)や三重大学地域イノベーション推進機構(平成28年11月)などが整備されたことにより、企業等の事業展開を機能的、組織的に支援することが可能となり、このネットワークを活用した企業等から新たな製品やサービスが生み出されてきています。なお、ネットワーク構築に向けた取組として、ヘルスケア産業に関わる産学官民の交流を促進するため、「メディカルバレーフォーラム」や「みえメディカル研究会」を開催してきたほか、高度なものづくり技術を持つ県内ものづくり企業のヘルスケア分野への参入および医療・福祉機器等の製品開発を促進するため、県内ものづくり企業等を対象とした「みえ医療・福祉機器ものづくりネットワーク」を創設し、活用を進めてきました。
国内・海外との連携交流
国内外の自治体・団体・企業等との連携強化やコンソーシアムの形成を図るため、国内で開催される学会・展示会への参加や先進的な取組を行う国内外の自治体に関する情報収集、企業や自治体等への視察などによる交流を深めました。国内では、医療・福祉機器開発を促進するため、目的に賛同する岐阜県、広島県、福島県、東京都との広域連携に取り組むとともに、民間の展示会への共同出展などの取組を進めました。
海外連携としては、三重大学と瀋陽薬科大学との大学間協力協定の締結(平成22年2月)や、TJPO(台日産業連携推進オフィス)と三重県の「産業連携に関する覚書(MOU)」の締結(平成24年7月)、ワシントン州政府と三重県のMOUの締結(平成26年8月)などの取組を進めてきました。
総合的な情報発信の充実
ITの活用などにより、県民に向けて、健康づくりに関する情報、薬や福祉用具などの正しい知識に関する情報等を提供しました。特に、事業者に対し適切かつ迅速で豊富な情報提供を行うため、薬事関係の総合的情報システム「医薬品安全情報提供システム」、「三重県薬事工業情報提供システム〔PIIS〕」や、三重県ホームページ「みえメディカルバレー構想」、「みえ福祉用具産業支援ネットワーク」を構築しました。
また、みえメディカルバレー構想の概要や先進取組事例、製品やサービスなどの成果等について、「メディカルバレー通信」や「みえライフイノベーションNEWS」などのメルマガや展示会、セミナーを活用した情報発信を行いました。
(2)医薬品・化粧品・医療機器・機能性食品等産業の競争力強化
研究開発基盤の構築
四日市看護医療大学の開学(平成19年4月)、鈴鹿医療科学大学薬学部の設置(平成20年4月)や三重大学産学官連携伊賀研究拠点の設置(平成21年3月)など、ヘルスケア産業分野の高度な人材確保・育成、産学共同研究やイノベーションを生み出す基盤となる新たな知的拠点が整備されました。また、安全で質の高い治験の実施を支援するため、平成15年度に三重大学医学部附属病院を中心に、みえ治験医療ネットワークが構築され、県域全体で大規模な治験を受け入れる体制が整備されました。
ヘルスケア産業人材の確保・育成
ヘルスケア産業に関わる専門的知識を備えた人材を確保・育成するため、U・I・Jターンやインターンシップ、学生・社会人教育などにより地域に根ざした人材を確保・育成し、競争力ある事業活動を支援したほか、技術革新や応用技術に関する公設試験研究員の資質を高め、適切な技術支援が実施できる体制を強化しました。また、県内企業、薬局、病院等で必要とする薬系技術者確保のため、県薬剤師会が運営する無料職業紹介所(厚生労働省認可)で総合的な斡旋を行ったほか、三重県薬事工業会と三重県が連携し、県内薬事関係企業でのインターンシップ受入の体制を整備しました。
みえライフイノベーション総合特区計画による推進
みえメディカルバレー構想の取組をより推進させるため、三重県では国の総合特区制度を活用することとし、医療・福祉機器や医薬品等の創出、企業や研究機関の県内への立地促進、雇用の拡大など産学官民が連携し経済の活性化をめざす取組が、「みえライフイノベーション総合特区」(以下「総合特区」という。)として地域活性化総合特区の国指定を受けました(平成24年7月25日指定、平成24年11月30日計画認定、平成29年3月27日最終認定)。平成24年度から平成28年度までの総合特区計画期間においては、企業等の製品開発を支援する研究開発支援拠点「みえライフイノベーション推進センター(MieLIP)」を県内7箇所に設置しました。また、三重大学医学部附属病院が、大規模災害時における医療情報喪失防止のためのバックアップ(保全)、およびその利活用による調査・研究を目的に、県内9医療機関が保有する患者の医療情報を統合するデータベース「統合型医療情報データベース」の構築に取り組みました。
平成29年度からは、令和3年度までの5年間を計画期間とする現総合特区計画に基づき、MieLIPの各拠点が主体となって地域の企業等の様々な製品・サービスの創出支援に取り組むとともに、三重大学医学部附属病院が、企業等における医療分野の研究開発ニーズに柔軟に応えるための統合型医療情報データベースの活用に取り組んでいます。
規制緩和の特例に向けた協議
総合特区制度に基づく特区内での規制緩和の特例措置の実現に向け、各種の要望を行いました。要望を行った結果、次のとおり規制緩和が全国展開として実現しました。
・医療機器製造販売業の総括販売責任者および医療機器製造業の責任技術者の資格要件の緩和
・医療機器製造販売業における国内品質業務運営責任者の資格要件の緩和
・健康増進に資する機能性食品の効能効果の表示・広告を可能にする特例
・複数医療機関が参加した治験における倫理審査の集約化
・研究開発税制における総額型の恒久措置化
総合特区支援利子補給金の活用
特区計画の推進に資する事業を実施する事業者が特区計画に基づく指定金融機関からの融資により資金調達を行う場合に、事業者の金利負担の軽減を図ることで円滑な事業実施を支援する総合特区支援利子補給金(利子補給率:0.7%以内)について、県による事業者や金融機関に対する制度の利用啓発や利子補給に必要な国への事業者推薦を行いました。令和元年12月現在の推薦案件数は、累計8件となっています。(3)新たな健康需要に対応するヘルスケア産業(次世代ヘルスケア産業)の創出
健康寿命延伸産業の創出
「健康寿命」の延伸に寄与する製品やサービスを創出するため、企業や県内医療・福祉機関、高等教育機関、市町、三重県等が連携し、疾病予防や健康管理、健康に配慮した食品やメニュー、高齢者や障がい者の生活支援などに寄与する製品・サービスの開発や実証、観光資源を活用した健康ツーリズム、スポーツを核とした健康マネジメントなどに取り組みました。特に、複数の民間企業と亀山市、三重県が連携して平成27年度から実施している「亀山QOL支援モデル事業」は、地域の高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できるよう、企業がプラットフォームを提供し、シルバー人材センターが窓口となりワンストップで健康管理・生活支援サービスを提供するとともに、サービス提供側のシルバー人材の就業拡大につなげる事業であり、健康寿命延伸産業の代表事例となっています。
認知症ケア製品等の普及・開発
平成28年5月に開催された伊勢志摩サミットにおいては、認知症にやさしい地域づくりや認知症の人の生活の質の向上を可能にするようなICT・ロボット等の研究開発の重要性とその推進が表明されました。また、同年10月にポストサミットとして開催された「認知症サミット in Mie」では、医療・介護従事者や研究者、メーカー等多職種による討議が行われ、その成果であるパール宣言において、医療・介護と産業との連携の必要性が打ち出されました。この宣言を受け、三重県では、平成29年度から医療・介護と産業の連携による認知症の人やその家族といった当事者に目を向けた製品・サービス(認知症ケア製品等)の普及・開発の促進に取り組むこととし、当事者や医療・介護従事者等へのニーズ調査、当事者等と企業等が意見交換もできる展示・交流会を開催するとともに、具体的な製品等開発企画の創出につながるよう、当事者や介護従事者、企業等が認知症ケア製品等について議論する場を提供しました。
2 みえメディカルバレー構想に係る経済波及効果
みえメディカルバレー構想に基づく取組の県内外経済への寄与を把握するため、経済波及効果を算定したところ次のとおりとなりました。算定は、平成14年度から30年度までの17年間の「医薬品・医薬部外品に係る製造品出荷額の増加額(概算)」、「医療機器生産金額の増加額(概算)」、「企業立地による投資額(概算)」、「みえ治験医療ネットワーク費用(概算)」、「統合型医療情報データベース事業費」の6項目に係る需要増加額を平成23年三重県地域間産業連関表(39部門表)に投入し行いました。
(単位:億円)
経済効果 | 県内分 | 県外分 | 合計 |
---|---|---|---|
直接効果 | 1,821.8 | 1,235.8 | 3,057.6 |
第1次間接波及効果 | 571.4 | 2,519.5 | 3,090.9 |
第2次間接波及効果 | 343.9 | 1,082.5 | 1,426.4 |
合計(総合効果) | 2,737.1 | 4,837.8 | 7,574.9 |
[参考]雇用創出効果(人) | 19,869 | 33,137 | 53,006 |
(三重県戦略企画部統計課調べ)
【備考】
○経済波及効果の算定に使用した根拠データ
項目 | 需要増加額 | 出典 | |
---|---|---|---|
① | 医薬品に係る製造品出荷額の増加額(概算)(平成14~30年度) | 約1,281億円 | 経済産業省 工業統計調査 |
② | 医薬部外品(化粧品を含む)に係る製造品出荷額の増加額(概算)(平成14~30年度) | 約298億円 | |
③ | 医療機器生産金額の増加額(概算)(平成14~30年度) | 約22億円 | 厚生労働省 薬事工業生産 動態統計調査 |
④ | 企業立地による投資額(概算)(平成14~30年度) | 約1,704億円 | 三重県医療保健部ライフイノベーション課調べ |
⑤ | みえ治験医療ネットワーク治験費用(概算)(平成15~30年度) | 約18億円 | |
⑥ | 統合型医療情報データベース事業費(平成26~30年度) | 約2億円 | |
合計 | 約3,325億円 |
〇各実施計画期間における経済波及効果
【内訳】
第1期(平成14年度から平成19年度までの6年間) (単位:億円) | |||||
経済効果 | 県内分 | 県外分 | 合計 | ||
直接効果 | 343.6 | 386.9 | 730.5 | ||
第1次間接波及効果 | 123.5 | 685.9 | 809.4 | ||
第2次間接波及効果 | 54.5 | 245.4 | 300.0 | ||
合計(総合効果) | 521.6 | 1,318.2 | 1,839.9 | ||
[参考]雇用創出効果(人) | 2,916 | 8,158 | 11,073 | ||
第2期(平成20年度から平成22年度までの3年間) (単位:億円) ※平成23年度分は第2期に含めて計算(4年間) |
|||||
経済効果 | 県内分 | 県外分 | 合計 | ||
直接効果 | 428.1 | 354.1 | 782.3 | ||
第1次間接波及効果 | 140.4 | 677.8 | 818.1 | ||
第2次間接波及効果 | 76.9 | 273.0 | 349.9 | ||
合計(総合効果) | 645.4 | 1,304.9 | 1,950.3 | ||
[参考]雇用創出効果(人) | 4,348 | 8,643 | 12,990 | ||
第3期(平成24年度から平成27年度までの4年間) (単位:億円) | |||||
経済効果 | 県内分 | 県外分 | 合計 | ||
直接効果 | 412.8 | 115.7 | 528.5 | ||
第1次間接波及効果 | 112.9 | 346.4 | 459.4 | ||
第2次間接波及効果 | 88.5 | 199.1 | 287.6 | ||
合計(総合効果) | 614.3 | 661.3 | 1,275.5 | ||
[参考]雇用創出効果(人) | 5,365 | 5,378 | 10,743 | ||
第4期(平成28年度から平成30年度までの3年間) (単位:億円) | |||||
経済効果 | 県内分 | 県外分 | 合計 | ||
直接効果 | 637.3 | 379.0 | 1,016.3 | ||
第1次間接波及効果 | 194.6 | 809.4 | 1,004.0 | ||
第2次間接波及効果 | 124.0 | 365.0 | 489.0 | ||
合計(総合効果) | 955.8 | 1,553.4 | 2,509.3 | ||
[参考]雇用創出効果(人) | 7,241 | 10,957 | 18,199 | ||
※端数処理のため内訳と合計が一致しない場合があります | |||||
・経済波及効果
ある産業に新たに需要が発生したときに、他の産業へ連鎖的に生産が誘発されていくことで、産業連関表(国内経済において一定期間に行われた財・サービスの産業間取引を一つの行列(マトリックス)に示した統計表)を用いて算定する。
・直接効果
新たな需要増加のうち県内(及び他県)の生産活動に影響を及ぼす額。
・第1次間接波及効果
「直接効果」によって生産が増加した産業で必要となる原材料等を満たすために、新たに発生する生産額。
・第2次間接波及効果
「直接効果」と「第1次間接波及効果」によって増加した雇用者所得のうち、消費に回った分により新たに発生する生産額。
・雇用創出効果
経済波及効果分析で増加した生産額をもとに算定される新規雇用者数。生産額が増加すれば、ある一定の割合で雇用者も増加するという前提に基づき、産業ごとに生産額が百万円増えると○○人雇われるという係数(雇用係数)を用いて算定しており、実際の雇用者数を積み上げた数字ではない。