平成20年度食の安全・安心フォーラム基調講演概要
演題:「テレビじゃ教えてくれない食の真実」
講師:食品問題評論家・消費者問題研究所代表 垣田達哉
こんにちは。垣田です。よろしくお願いいたします。
おかげさまでいろんなテレビ等に出ておりますので、どこかで見た顔だなと思われる方もいらっしゃると思います。
【最近の事件から食の安全を考える】
最近もいろいろな事件がありまして、Iハム、これは2週間ぐらい前の土曜日に分かりまして、すぐ新聞社から何が一番問題ですかというので、1ヶ月隠していたことが問題だというお話をしました。
新入社員教育でよく使われるのに「ほう・れん・そう」という言葉があります。その「ほう」というのは「報告」なんですが、この報告というのは、悪いことほど早く、いいことは遅くてもかまわないというのが、報告の大原則なんですね。Iハムだってそういったことは承知しているはずなんですが、担当者は3週間黙っていて、工場長はさらに1週間黙っていたということで1ヶ月遅れた。
どうしてそうなるかと言うと、どの企業も大なり小なりあるのですが、悪い報告を上司にすると上司が嫌がります。手柄は上司、失敗は部下の責任といったところがあり、どうしても報告をしない。あれだけ大手の企業であっても、風通しが悪いということがはっきり分かりました。
同じ時期にカップ麺が起こりました。まず、タンスがあります。その前の段ボール箱の中にカップ麺が入っていました。そのタンスの中の防虫剤がタンスの扉を通り越して、そして段ボール箱を通り越して、そしてカップ麺のビニールを通り越して、カップ麺の容器を通り越して麺に入ると。そんなことがあるのかと言いたくなるわけです。
しかも、N食品は、発表の時にすぐ移り香だということを言えばいいのに、嘔吐して、これはまた毒物が入ったんじゃないかって、みんな発表の時には心配していたわけなんですね。その時もうN食品は実験して分かっていたわけです。それを言わないで、後になって「あれは移り香だ」と。食の安全について何を考えているのか、まったく分かりません。一流大手がこうだから、本当に「もうどうなってしまったの?」と言いたくなります。
【中国産食品について】
中国もちょっと今年はひどいです。ギョウザから始まって、メラミンがありました。
昔のことをご存知の方ですと、日本で起きたヒ素ミルク事件のことを思い出されるかもしれませんが、ヒ素ミルクと今回の中国の粉ミルクとはまったく質が違います。ヒ素ミルクは、当時、乳質安定剤という添加物を粉ミルクに使っていたのですが、この安定剤の中にヒ素がありました。その毒性検査をしなかったために、そのまま粉ミルクに入ってしまったという大事件だったのですが、これは意図的に入れているわけではありません。
しかし、中国の粉ミルクは、金儲けのために意図的にメラミンを入れています。中国の牛乳メーカーも、偽物があるということを薄々感じていたみたいで、牛乳が入ってくる時に、たんぱく質の含有量を調べるということで窒素分がどのくらい入っているか検査をしていました。
当然、業者のほうもそれを知っています。で、牛乳を薄めました。当然たんぱく質が少なくなりますから、その代わりにメラミンを牛乳に入れる。そうすると窒素の含有量が増えるので検査をパスするということです。
しかも、このメラミンが入った粉ミルクを飲んだ乳幼児がどうなるか、命に係わるような大変なことになるということを当然知っていて使っています。そこまでするというのはちょっと日本じゃまず考えられません。そういったことが起きるというのが中国なんだなというふうに思います。
中国について端的に言うと、「わけ分からない国」です。いい例でウナギの蒲焼きがあるのですが、番組で、ウナギの蒲焼きの食べ比べをしました。国産の養殖ウナギと国産の天然物と中国産を、同じタレで蒲焼きを焼いて、その三つを当てるというものです。
私、天然のウナギなんか食べたことがないので、さぞかしおいしいんだろうなと思って食べたんですが、まったく分かりません。見ても食べても分からなかったら、安い中国産でいいじゃないかとなるのですが、ウナギの蒲焼きが問題になっているのは、マラカイトグリーンという発ガン性の薬剤を使っているからなんですね。これは欧米も日本も禁止されているのですが、中国でも2002年に使用が禁止されているものです。
2002年に使用禁止の薬剤が5年、6年経っても出てくるって、日本では考えられないです。禁止農薬も検出されていまして、そういう意味では本当に禁止農薬、禁止薬剤が平気で流通する国です。そういったところが一番不安なところで、まだまだそういう不安はぬぐえないのではないかなというふうに思います。
【中国産冷凍ギョウザ事件の教訓】
ギョウザ事件があります。もうこれも何かいろんな事件がありすぎて、古いことのように思うかも知れませんが、最近では、インゲンがありました。
私は一種の「食品テロ」だと言っているのですが、これ、褒めるわけじゃないのですが、テロとしては素晴らしいアイデアです。なぜかと言いますと、冷凍食品に毒物を入れるということは、そこで毒が留まります。流れ出ることも蒸発することもありません。その毒性を保ったままずっと運ばれてきて、私たちが解凍する時に初めてその毒がパーっと回ります。
実は今回いい教訓を与えてくれました。それは「五感が身を守る」ことを証明したことです。ギョウザも実は30袋以上から農薬が検出されているのですが、ほとんどの方が食べていないんです。3件で終わったというのはそういうことなんですが、まずにおいですね。においをかいで、おかしいと思って食べなかった。袋を見たら傷が付いていたから、おかしいと思って食べなかった。触ったらべとついていたから食べなかった。一口食べたら味がおかしいと思って食べなかったということで、五感で見れば、そういう意味ではある程度判断ができるということを、このギョウザ事件は教えてくれています。
【事故米について】
事故米のお話をします。これも困ったもので、発表されてすぐ翌日の朝一番で『朝○○○』に出演して、真っ先にともかく農水省の責任だということを私はテレビの生放送で言ったのです。三笠フーズが悪いのは誰でも分かるわけで、そうじゃなくて日本のお米を管理している農水省が何をあんなデタラメなことをやったんだということで、私はテレビで怒ったんです。
実は、私は農水省で食品Gメンの研修の中で外部講師として講演をさせていただいているのですが、今年の秋に事故米のことで言っておきました。「あなたたち、何を考えているんだ!」と。とにかく民間とのズレがあまりにも激しすぎる。
三笠フーズに96回検査に行った、その調査報告書だと言って農水省が公表している資料がありますが、それは96枚、A4ただ1枚だけなんです。A4、1枚だけで調査報告書だと言って出してきたのですが、資料のタイトルが「出張伺」になっているわけです。一番下に「復命書」という欄がありまして、そこに数行、3、4行ぐらいしか書いてない。何が書いてあるか。「三笠フーズ、加工米にするところ立ち会いました。今後も不正がないように指導していきたい」だけなんです。
不正転売がないかどうかを調査しに行っているのに、たかだか3、4行で済ますとは、あなたたち霞ヶ関ってそんなところなのかと。民間じゃ通用しない、そんなものは調査になっていないということを言っておきました。
今回の事故米について私は言っているんですが、最大の被害者は消費者です。何も知らないで食べてはいけない物を食べさせられた、その消費者が一番の被害者なのです。農水省が名前を公表したから売り上げが落ちた、金よこせ、損害補填しろとそればっかりで、何か事業者が被害者みたいになっていますが、そうじゃなくて消費者が一番被害者なんですね。
消費者は、三笠フーズを信用して食べたわけじゃなくて、お店を信頼して買ってきているわけです。町の和菓子屋さんだからこそ、原材料のお米やもち米にこだわっていたはずだから買っていた。とことん原材料にこだわって手作りでやっていたはずじゃないのかと。
そこがどこか飛んじゃって、名前を公表されて売り上げが落ちたから損害補填しろと。それで150億の税金が使われようとしています。どういう幕引きをするのか、ちょっと気になるところです。
【食品偽装について】
偽装事件のお話をします。偽装事件も多くて困ります。
偽装事件というのはすべて消費者を騙して儲けていることです。消費者を騙して商売をすることは、神代の昔から絶対やってはいけないことです。法律があろうがなかろうが関係ありません。ところが、今の事業者は、法律さえ守れば何をやってもいいという、そういった人が多くて困ります。「コンプライアンス」という言葉があります。これはよく「法令遵守」と訳します。私は一言「モラル」だと言っているんですが、農水省はもうちょっとかっこいい言葉を使っています。「誠実な経営をすることが本来のコンプライアンスだ」と言っています。まさにそのとおりだと思います。
今、「食」というのはほとんど女性の方が選ぶ権限を持っています。女性がどういう思いで身銭を切って物を買っているか、これを世の男性は分かっていないんです。せっかく奮発して買ったお菓子が、ごまかしのお菓子だったら女性はどう思うか。裏切られたと思います。女性は、一度嫌いになったら一生嫌いなんですね。女性に嫌われたら絶対買ってくれません。
雪印事件以降、雪印ブランドを一切買ったことがないという女性、意外といらっしゃるんですね。商売というのはそういうもので、法律どうこうじゃなくて、女性に嫌われたらもう終わるんだよということを事業者の皆さんにもこの話は必ずします。2時間いろんなお話をして、じゃあ今日一番印象に残ったのは何ですかとお聞きすると、「女性を裏切っちゃいけない、それがよく分かった」とおっしゃるので、それだけ分かっていただければ十分ですとお話をしているんです。
【消費者庁と食品表示法】
消費者庁も4月にできることはまずなくなったと思いますが、自民党が勝てば消費者庁で、民主党が勝てば消費者権利院ということで、いずれにしても「消費者」という冠が付く何か省庁みたいなものはできるということは間違いないんですが、消費者庁も消費者権利院も、両方とも案を見ているとろくなものではないです。
ですけど、作らないよりは、作ったほうがいい。作った以上、簡単に潰せませんから、充実させろということになりますから、作ったほうがいいと思います。今年の4月3日に国民生活審議会が当時の福田首相にいろんな提言を出しています。この消費者庁の創設もそうなんですが、その中に食品表示法を作りなさいという提言が出ています。
この食品表示法というのは、表示の法律がいっぱいあるので一本化しなさいということです。これは、前から私も主張していまして、昨年11月1日に朝日新聞の『私の視点』というところで、食品表示法を一本化しなさいと私は提言を書いているのですが、やっと今年の4月になって、国民生活審議会がそれをしなさいという提言を出しています。
さらにこの審議会は、より具体的なことを提言しています。まず一つは、この賞味期限を消費期限にしなさいと言っています。当然、賞味期限より消費期限のほうが先になりますから、期限は延びます。となると、今の人は期限までは捨てないわけですから、捨てなくなります。そうすれば、買ってくれないということで、食品業界は食品表示法には反対ですが、表立っては反対せず、裏で反対しています。でもこれって捨てなくなるんだから、こんないいことはないんだけれども、業界にとっては大変なことが起きるということで、どうなるかと思っています。
もう一つ、製造年月日を表示しなさいという提言が出ています。今、食品というのは、私たちが一番知りたくて一番単純なことが一番明らかになっていません。それは「いつ」ということです。加工食品の場合は製造年月日が「いつ」ですね。生鮮食品はもっと分かりません。魚や肉になったらよけい分かりません。だからせめて加工食品だけでも製造年月日を表示しましょうということが今言われているのです。
それから、原料原産地というのがあります。原料原産地、事故米でお米が問題になりました。例えば煎餅なんかに表示がしてあるのは、「うるち精米」とか「もち米」としか書いてありません。そのお米はどこ産なのかということは表示しなくていいということで、ギョウザ事件でもありましたように、原材料の原産地、いわゆるどこで取れた物かまったく分からないということが非常に多いので、そういうものを増やしなさいという提言が出ていまして、どうなるかちょっと注目をしているところです。
【「あるある大事典」は何が問題か】
『あるある大事典』は毎日2パック納豆を食べなさい、そうすると痩せるぞと言いましたが、今、納豆を毎日2パック食べていらっしゃる方っていますか。これは何が問題かと言うと、大豆イソフラボンです。大豆イソフラボンアグリコンというのがありまして、実は上限値が決まっています。上限値が70~75㎎、毎日70~75㎎以上取らないほうがいいよということを食品安全委員会が言っています。納豆1パックでだいたい35㎎含まれていますので、2パック毎日食べるともうこれ上限値なんですね。
これは何が問題かと言うと、乳がんです。男性も前立腺がんの心配があるのですが、特に乳がんの心配をしています。まず、大豆イソフラボンというのは栄養素ではありません。ビタミン、ミネラルのように毎日取らなければいけないものではありません。それから骨粗しょう症に効くとかがんに効くということは一切科学的に証明されていないものですね。それ以上にこれは女性ホルモンと同じと思っていただけばいいので、取りすぎると乳がんになるとか、乳がんを増殖する可能性を心配しています。
じゃあ、大豆って体に悪いのかということなんですが、アメリカは「何か良さそうだ」と言っているんですね。何で何か良さそうなのかと言うと、大豆大好きな日本人が一番長生きしていると言っているわけです。ですから、大豆が体にいい悪いということは科学的には一切証明されていませんが、日本人が体で証明しているということですね。ですから、1パックは何も問題はありません。どんな栄養素でも取り過ぎてはいけないということですね。
これは、私がどうこう言っているわけではなくて、すべて国が発表していることを言っているだけで、講演では言えますが、絶対テレビではお話できません。どうしてかと言うと、風評被害が起きるからです。そういうことはごまんとあります。
【遺伝子組換え食品】
遺伝子組換えのお話をします。遺伝子組換えは大豆ばかり気になるかも知れませんが、実はトウモロコシも遺伝子組換えが多くて、今までは遺伝子組換えトウモロコシはほとんどが飼料と油に使われていました。
ところが、今年になって非遺伝子組換えトウモロコシが手に入りにくくなったので、この遺伝子組換えトウモロコシが一般飲料メーカー、一般食品メーカーに販売されています。トウモロコシというのは加工食品に使われています。コーンスターチというのは澱粉なんです。この澱粉が使われるのはすごく多くて、例えばブドウ糖、液糖、果糖、人工甘味料、増粘剤、安定剤というようなものに使われます。
そこで、今困っている業界がビールメーカーです。各社の普通のビールを見ていただくと「コーンスターチ」と書いてあります。じゃあ遺伝子組換えトウモロコシのコーンスターチを使うかと言うと、なかなかそんな単純な話には行きません。
ビール会社のどこか1社が使ったら、そのライバルメーカーは「遺伝子組換えでない」とビールに表示をしてきます。そうすると、使っているところは「遺伝子組換えでない」と表示できません。果たして来年以降、ビールメーカーはどうするのかということが一つ注目の的になっています。
それから、遺伝子組換え小麦。小麦粉が値上がりしたのはオーストラリアの大干ばつです。オーストラリア政府がそれに懲りまして、今、遺伝子組み換え小麦の栽培実験をしています。マスコミによるとオーストラリア政府が遺伝子組換え小麦の栽培をOKしそうだと言っています。もし遺伝子組換え小麦をオーストラリアが作り出すと、オーストラリア小麦の半分ぐらいが遺伝子組換え小麦になるんじゃないかと言われています。
遺伝子組換え食品の安全性はどうなのかと言うと、今のところ何か危険だということは一つも出てきていません。安全面で言うと別に危険だというところは何もないわけですが、ただ、科学者の言うことが当てになるわけではありません。典型的なのは、世界中の学者がみな種は絶対に越えないと言っていたのに、BSE、鳥インフルエンザは簡単に種を越えて、私たちに感染して多くの人が亡くなっています。ですから、心ある科学者ははっきり言っていますが、「科学に絶対はない」と。今時点の話をしているだけで、遺伝子組換えがどうなるかということは今後分かりません。今のようにリスクがない形で行くかも知れません。
しかし、今一番問題になっているのは何かと言うと、遺伝子組換え食品の特許の9割をアメリカのM社が握っています。この遺伝子組み換食品を作る場合には、必ずM社から種を買わなければいけません。つまり、食を牛耳られることになります。今ヨーロッパが一番、危機感を抱いているのはそこです。
【農薬の使用について】
国産の物はどうかというお話をします。農薬を使ってないかと言うと、そんなことはありません。農薬を使っていますが、もちろん禁止農薬が流通することはありませんし、残留基準値も時々オーバーするものが出ますが、それほど心配することはないにしても、どのくらい使っているかと言うと、多い物では、だいたい5、60回農薬を撒いています。
これは、私が調べた回数ではありません。すべて都道府県が全部ホームページで公開しています。三重県も当然公開しています。温暖化は農作物を作るのに非常に厄介です。気温が上がるということは当然ながら害虫もいっぱい出てきますから、農薬も使わざるを得ないということになるのです。
じゃあ、食べる物はないかと言うと、この農薬を落とす方法があります。それは水洗いをすることです。水洗いをすると、どんなものでも半分は落ちると思っていただいて結構です。昔は土の中に滲み込ませて養分と一緒に吸わせて虫を寄せ付けないという、いわゆる遺伝子組換え方式だったのですが、それは農薬が強いことと残留性が高いので、今はあまり使いません。今はほとんど噴霧ですね。噴霧しているということは、一番外側に農薬が付いている。ですから、例えばキャベツの一番外側をスーパーで捨ててくるというのは正解ですね。リンゴの皮は厚く剥く、そのほうがいいわけで、外側、水洗いをしていただければ半分は必ず落ちますので、ぜひ水洗いをしてください。
それからもう一つ、湯通し。湯通しをするということ、これも農薬を出してくれます。湯通しにはもう一つ効果がありまして、硝酸塩とか硝酸体窒素と言いますが、これも半分に落ちます。特に葉物野菜はこの硝酸塩が非常に多いです。これはどうしようもなくて、硝酸塩を減らして、作ろうとしていますができません。ですからどうしてもこれが溜まるのですが、湯通しすると半分落ちます。
そういう意味では、おひたしというのは素晴らしいアイデアですね。湯通しをして食べるということは、昔の人はそんなことは知らなかったと思いますが、安全面、もう一つおいしさの面、つまり、窒素というのは苦いんですよね。それが半分になるということは、苦味を消してくれるのでおいしくなるわけです。そういうダブルの効果がおひたしにはあるわけですね。
それから、もう一つ農薬でポストハーベストということがあります。輸入の柑橘類です。これは日本で禁止されている農薬ですけれども、どうしてもグレープフルーツなんか日本にないので、運んでくる時にカビるということでその農薬を付けてあります。日本は添加物として認可されているのですが、皮だけですから、果肉は問題ありませんので、グレープフルーツの中あるいはバナナの中も全然問題ありませんので、食べていただいて結構です。
【魚・肉の原産地表示】
魚のお話をします。日本人はマグロが大好きなんですが、太平洋にマグロがいたとします。マグロは実は世界中から輸入していますが、それらの国がみんなマグロを取りに行きます。もちろん日本の船も取りに行っています。例えば日本の船と韓国の船が隣同士で同じところでまったく同じマグロを取っています。その時の産地はどこになるのか。取った船の国籍が産地になります。韓国産マグロというのは別に韓国の近くで取れたわけじゃないのですね。
じゃあ、日本の船が取ったら「国産」と表示できるかと言うと、表示できません。どうするかと言うと、一つは太平洋なら「太平洋産まぐろ」と表示できるわけですね。もう一つは水揚げしたところでもいいんですね。関東は、マグロと言うと三崎なんですよね。「三崎産マグロ」と表示されているのですが、それは三崎の近くで取れたと言っているんじゃなくて、三崎に水揚げされたと言っているだけなんです。
次に肉のお話をします。「国産牛」と「和牛」という言葉があります。国産牛というのは、日本で生まれたということを言っているわけではありません。日本で一番長く育ったと言っているだけです。もちろん品種は何でもかまいません。現実的に今オーストラリアから生まれて数ヶ月の牛が日本に入ってきています。日本で長く育ちますので、それは「国産牛」として販売されています。「オーストラリア生まれ」とは一言も書いてありません。
じゃあ、和牛はどうかと言うと、和牛というのは品種しか表していません。黒毛和牛、それから褐毛和種、日本短角和種、それから無角和種と、この四つなんですが、品種ですから、どこで生まれようと、どこで育てようと、和牛は和牛ということになっています。
但し、オーストラリアに和牛がいるらしくて、そのオーストラリアの和牛が日本に入ってくると、「オーストラリア産和牛」ということで販売されてしまう。それだと困るということで、一応、法律ではないんですがガイドラインで、日本生まれ、日本育ちの4品種、それを「和牛」とするということになっています。今のところ、他から入って来ていませんので、今日本で売られている物は、日本生まれ、日本育ちの4品種が「和牛」ということになっています。
【加工食品の表示】
加工食品のお話をします。加工食品も、名は体を表さないところがすごく多くて、まずこういうものがあります。片栗粉は何から作られているか、皆さんよくご存知だと思いますがジャガイモですね。日本で売られている片栗粉の全部がジャガイモから作られているとは限らないようで、カタクリから作った片栗粉もあるようですが、まずほとんどジャガイモから作った片栗粉しかお目にかかっていません。でも、「これはカタクリの粉だ」と言っているんですね。こんな偽装表示はないわけです。
どうしてこれが認められているかと言うと、商品名扱いになっているんですね。商品名というのは実は嘘OKなんです。
「Aの塩」「Hの塩」というのがあります。ある本を書く時にちょっと塩のことを書きたかったので、家内にちょっと聞いてみました。「Aの塩、Hの塩って、どこで作っていると思う?」「瀬戸内海でしょ」「そうだよ。どこの海水だと思う?」「だから、瀬戸内海じゃないの?」「いや、そうじゃないよ」と。こういうのも裏に真実があります。
「Aの塩」の裏を読みますと、こちらに「天日塩はオーストラリア西海岸」というふうにはっきり書いてあります。「Hの塩」も裏を見ると、「蒸発結晶させた輸入塩」というふうに書いてあります。女性の方、塩に関心が高いのに、意外と見ていないんですね。
【シュガーレスとシュガーオフ】
ここで、皆さんに一つクイズを出したいと思います。「シュガーレス」と「シュガーオフ」という言葉があります。シュガーレス、シュガーオフ、糖分が少ないと思うほうに手を挙げていただきたいんですが、シュガーレスが少ないと思う方、手を挙げていただけますか。じゃあ、シュガーオフのほうが少ないと思う方。いや、圧倒的ですね。皆さん騙されています。正解はシュガーレスです。シュガーレス、これは無糖、「糖分がない」と同じ意味です。シュガーオフ、これは低糖、微糖という「糖分が低い」ということなんですけれども、ざっと3分の2の方が間違えられます。
皆さんのようにオフがゼロだと思っている、その感覚のほうが正しいと思いますが、一応国が決めている法律上は、「低い」という意味なんですね。
これはカロリーも一緒です。カロリーオフというのは「低カロリー」という意味なんですが、「低カロリー」と表示してあれば、誰だってカロリーが低い、カロリーがあると分かりますね。ところが、「カロリーオフ」と表示すると、カロリーがないと勘違いしてくれる人も出てくるので、今は圧倒的に「カロリーオフ」のほうが多いわけですね。カロリーオフも「低カロリー」だという意味なので、ぜひカロリーのところを見ていただければと思います。
それから、糖質ゼロのお話をします。お酒の糖質ゼロがブームなんですよね。今、酒も女性の方が選ぶことが結構多くて、糖質ゼロのお酒を買ってきて、「あなた、こっちは糖質ゼロだからこっちを飲みなさい」とか言って勧めているようなこともあるようですが、酒の糖質ゼロは意味がありません。つまみでチョコレート一かけら食べれば終わっています。酒の糖質なんて微々たるものなんですね。
【サプリメント、健康食品】
それから、コエンザイムQ10があります。これは食品安全委員会は何と言っているか。「俺は知らん」と言っています。どうぞお好きに飲むなりつけるなりしてくださいと言っています。なぜかと言うと、さっきの大豆イソフラボンのように、たくさん取ったらどうなるかというデータがないと言っているわけですね。5年10年経ってそうしたデータが出てきて、じゃあ1日に上限値をこれぐらいにしなさいよと出たとします。その時に「何でそのことをもっと早く言ってくれなかったの?私もう毎日たくさん食べちゃっていたわ」と言われても、責任は持てないと言っているわけです。
次に酸素水。まったく意味ありません。水道水も酸素飽和状態です。じゃ、体はどうなのか。血液、呼吸から目いっぱい、これ以上酸素は入りません。酸素水を飲んでも上から下へ流れ出るだけで、何の効果もありません。
次にコラーゲン、ヒアルロン酸。これも誤解が多いんですが、コラーゲン、ヒアルロン酸は年とともに減って行きます。これは事実です。ところが、何を食べたら体内でコラーゲンを作るか、何を食べたら体内でヒアルロン酸を作るか、分かっていません。蛋白質からコラーゲンができることしか分かっていません。だから、メーカーは、この商品にコラーゲンが含まれています、この商品にヒアルロン酸が含まれていますとしか言っていません。この商品を食べたら体内でコラーゲンを作る、この商品を食べたら体内でヒアルロン酸を作るとか一言も言っていません。
よく「アンチエイジング」とか言いますが、年を取るんですから、若返ることは絶対にあり得ない話なんですね。
【まとめ】
今日いろんなお話をしてきました。ちょっとまとめたいと思うんですが、じゃあ一体今の世の中、何を信用したらいいのかという話になります。私はいつも言っています。一言、女性の勘です。男は理屈で選ぶんですよね。女性は違うんですね。何となくこっちがいい、何となくこっちの店がいい、もうそれがズバリ当たるんです。どうしてかなと思うんですが、例えばデパート、朝10時の開店から夕方6時ぐらいまで、女性って何も買わなくてもいられるんですよね。そのくらい皆さんいろんな物を見ていらっしゃるんじゃないかなと思います。
よくテレビで、行列ができる店とかありますよね。わけの分からない褒め方をする人がいて、「こんなおいしい物、今まで食べたことがない」と。でも、当然「まずい」と言う人もいるわけです。「おいしいと思って来たけど、私の口に合いませんでした」と。だけど、そんなこと、取材協力をお願いして全国ネットで流せるわけがないんです。みんなが一斉においしいなんて、あるわけがないので、そういう意味では、皆さん特に女性の方が「これがいい」というふうに思ったものは自信を持ってもらったほうがいいと思います。
ぜひ女性の勘を働かせていただいて、テレビとかあるいは食品表示というものは参考ということで見ていただいて、そして自分がこっちのほうがいいなというふうに思われたら、ぜひそれを自信を持って選んでいただければ、きっといいものが選べるのではないかなというふうに思います。いいものを選んでいただければ、また次にいい社会がやってくるんじゃないかなというふうに思います。
時間が来たのでこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
(終)
※ 【 】の見出しは、講演録をまとめる際に、フォーラム事務局が講師の了解を得てつけたものです。