食の安全・安心セミナー(平成19年度)意見交換
(参加者1)
私は消費者で、いわゆるメディアに対していろいろな批判的な気持ちを少なからず持っている者なんですが、私たち消費者が得る情報というのは、もう100%に近い状態で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、そういうメディアしかないんですよね。残念ながら。
先生のお話や行政なり、そういう方からの大切な情報が、なかなか届かないんです。消費者の気持ちと、先生のレベルあるいは行政の感覚なり、思っていることとはかなりの乖離があると思うんです。この辺の現実をどのように思われていますか。
今日、先生がお話されたような内容を、どんどん一般消費者に宣伝して欲しいんです。メディアを利用して、一般消費者に訴えかけて欲しいなと思います。
(松永)
ありがとうございます。
一応、メディアの問題点は、お手元の資料の一番最後に、ちょっと私の書いた本のタイトルを書かせていただいておりますが、『メディア・バイアス』という本を昨年の春に出しまして、それである程度メディア批判をまとめて書いております。そのあと、実はやっぱり取材を受けることが多くなりまして、少しずつメディアの方が聞いてくださるようになっているなと。もう本当に少しずつなんですが、変わって来ているなという実感は私はあります。ですから、これからマスメディアは少し変わって行くんじゃないかと。きちんとした情報を提供する動きが出てくるのではないかなというふうに思っています。
一つそれで一番顕著だったのは、今回のギョーザ事件に関しては、朝のワイドショーをいろんな局で見ていると、某テレビの『○○○』という朝やっているワイドショーは比較的落ち着いていたんですね。発生した当初から「中国産は危ないというのはおかしい」と。「中国産もいろいろあって、その当該工場の製品でないものには品質の高いものもたくさんある」と。「十把一からげで“中国産”と言うのはよくない」というようなことを、招かれたゲストの方が言っていました。それは「ほぉ~」と思って見たんですね。それと昨日の朝も同じ番組で、その中国産にいかに依存しているかという話を流していたんですが、なぜ依存せざるを得ないのかということをわりときっちり情報提供していました。それは安いから、それから中国は栽培環境が非常によく整っていて、良いものができるから、もう一つは、きちっとした大きさとかいろんないわゆるロットで揃った大きさとか品質とかの揃ったものをしっかりと供給してくれるという、国産にはできないメリットがあるから、中国産を使わざるを得ないんだというようなことを、あそこのワイドショーで10分ちょっと使ってきちっと流していたんですね。それを見る限り、「あっ、テレビも変わってきたなぁ」と。「ちょっと今までと違うよね」という動きが出て来ているように思います。ですので、消費者にとって重要なのは、そういうきちんとした情報を提供するテレビをきちっと見ることなんですよね。他局ではやっぱり「危ない」という情報提供ばかりしているところ、煽っているところというのはありますので、その中から良いものを選んで、きちっと情報を掴んでいくということが、多分テレビを変えていくという大きな力になるのではないかなと。そういう意味では、確かにと言うか、私の力は非常に微力で、いてもいなくても同じようなものですが、実は皆さん方が多分テレビを変えていけるのではないかなというふうに私は信じています。
お答えになっているかどうかよく分からないですが、個々の力が世の中を動かすということになると信じたいです。
(参加者2)
赤福のことでちょっとお伺いしたいんですが。
食品表示を偽ったということで問題になっているわけですが、食中毒になったとか、そういうことじゃないです。食品技術が進歩しているから、食べられると思うんですね。私はそんなに悪者じゃないと思いますが、先生はどのように感じておられますか。
(松永)
確かに健康被害が出ていないというのは事実ですね。いろいろされていても、品質上ほとんど問題がなかったというのも、私自身も実感しますよね。全然「あれ?」と思うこともまったくなく食べていましたので、おそらく問題なかったんだろうと思うんですが、ただ、やっぱり一度店頭に出した、自分の責任を持った安全管理の外に出してしまった、いろんな駅とかお店に並べてしまって、管理できないところまで出してしまったんです。それをまた戻して、どういう状況になっている、どういう温度管理ができているというようなことが何も分からないものを、また自分の製品として出すというのは、やっぱりこれは無責任なんだと思うんですね。
もう少し普通の食品企業は、自分で責任を持ってきちんと管理して、その上でお客さんに届けようとしていると。そこはやっぱり赤福さんは真面目ではなかったと。それは私は指摘してもいいんだと思います。もう少し赤福さんぐらいの大手、責任ある企業は自分できちんとした管理をしているという印象を受けています。赤福さんは、歴史があって影響力もとても強かっただけに、一般の方の求めるレベルが非常に高かったですし、私自身も、業界の規範になっていただきたいというふうに思っていた。そういう意味では、私は非常に残念です。
それともう一つ残念なのは、冷凍解凍技術というのはこれだけ進んでいて、その技術を使うことによってよりよい安全管理ができるはずなのに、イメージを守るということを先行されて、もう冷凍はしませんという判断を下された。そこも私は、時代に逆行していると言うか残念だなぁと。もっと科学的に合理的に考えて、より良いものを今までどおり安く提供していただきたかったなと。今のシステムのままで行くと、多分値上げせざるを得ないだろうと思うんですね。赤福さんの状況を見ると。今みたいな1箱700円ですか、それはなかなか限界がある。そこを冷凍解凍をきちんと管理すれば、もしかしたらそれぐらいのお値段でこれから売っていただけたかも知れないのに、どうしてイメージを守るところにいかれたかなと。それは非常に残念です。
(参加者3)
事業者としての質問になるんですが、昨今の問題の中で、先生から消費者に対して、やっぱり読む力、書く力を強化しなきゃということでご提案をいただいたんですが、我々事業者としても、直接関係ないにも関わらず、やはりマスメディアに踊らされた中で、中国産のものを扱っていると、「中国産に対する安全証明を出しなさい」と流通の段階から言われてしまって、我々としてもいろいろ「関係ないんじゃないですか」という話をするんですが、「まぁいいから出しなさいよ」という、そんな流れがあるんですね。そこで、やっぱり我々事業者は強い態度で臨むべきなのか、その辺のアドバイスがあればいただきたい。行政へのアドバイスもお願いできればと思います。
(松永)
安全証明を出せと言われて困っているという話というのは、もういろんなところから耳に入っています。とにかくそれは意味がないんだということを説明してくれということはお願いしています。ただ、やっぱり同じように聞いてくれないと。とにかくもう出せばいいんだというふうに、出して、しばらくしたらすぐ消費者は忘れるんだから、とにかく今1枚チョロッと出しておけばいいんだという雰囲気になっているという話もよく聞きます。
ただ、誰かが言わないと、流通の意のままになって、道理が通らない世の中がそのままずっと続いて行きますよね。ですから、とにかく抵抗してくださいというお願いをするのみなんですね。
でも、私は現実的な人間でもあるので、もう企業さんもそこそこで妥協も必要だよねと。どこかで妥協するのは仕方がないけど、頑張れるところまで頑張ってねというふうに、企業さんとか生協さんとかいろんなところに申し上げています。私は、そういう意味では利害関係がない立場なので、私は言えるということは意識して書いたり発言したりということはしていこうというふうには思っています。
そういう企業をバックアップするには、やっぱり私のようなメディアに比較的自由にものを言える立場の人間がきちんとものを言うということも大事ですし、やっぱり行政が科学的な合理性はどこにあるのかということを明確にするということがとても重要なんだと思うんですね。そこは確かに足りないと思います。検査強化が意味がないということを、厚労省はあまりちゃんと言えてないですよね。新聞のコメントとかを見ると、チラホラ出て来ているんですが、きちんとコストがこれぐらいかかりますよと。検査員を増員するとこのぐらい予算が必要になりますよと。その結果、でも犯罪対策はできませんよということを厚労省は言ってないですよね。
私が思うに、今、厚労省は、むしろ逆に今の状況を利用して、検査員の増員を狙っているというふうに思っています。つまり、厚労省はとにかく人を増やしていきたい、自分たちの権益を守りたい、大きくしたいという方向性にある役所であることに違いないわけです。そうすると、こういう機会をとらえて、検査員の増員ができれば、ある意味、万々歳なんですね。自分たちの存在価値が高まりますよね。そこを、厚労省はそういう動きをしているということを誰も指摘していないというのが今の現状ですので、元に戻りますけれども、行政はもっと真摯に、科学的に正しいことは何なのかということを情報提供すべきだし、そこを見破る力をメディアが持って指摘しなくちゃいけないなというふうに思います。
(参加者4)
環境破壊と食品・飼料の輸入がイコールになっているんですが、どういう意味でしょうか。
(松永)
すみません、時間がなかったので説明しなかったんですが、自給率が低いというのは、食料安全保障の問題もありますが、私は、一番大きいのは多分環境問題なんだろうと思っています。というのは、一方的に飼料を輸入して、日本の中に養分を取り込んでいるという現状なんですね。食料・飼料を輸入して、養分を取り込んで、全然出していないという状況に今の日本はあります。
ということは、養分が土壌、環境上にどんどん、どんどん溜まっていっているという状況なんですね。やっぱりそこでその流れを少し細くして、日本の環境の中で循環させる。つまり、入ってきた養分を生かして、それで飼料を育てて、それをまた家畜に食べさせるという循環系を作らないと、養分は溜まっていくだけなんですね。
ちょっと説明し忘れましたが、飼料はいかに環境負荷が高いかという話なんですが、牛とかが飼料を食べますよね。それがそのまま肉になるわけではないんです。もしかしたら聞かれたことがあるかも知れませんが、牛肉1㎏を作るのに、トウモロコシが11㎏要るんです。11㎏食べて牛肉1㎏を作るということは、つまりは10㎏は糞尿にして環境中に垂れ流しているんです。1㎏作るために10㎏捨てているんです。それが日本の環境中にずうっと溜まっていっているというのが、日本の今の実情です。
当然、養分がどんどん溜まる富栄養化が進んでいっているわけですが、幸いなことに日本は島国で、雨が多くて、どんどん、どんどん流していってくれるわけですね。ですので、富栄養化があまり表面化していませんが、ぼちぼち畜産地帯では地下水が汚染されて、飲み水として使えないというような影響も出てきていますので、これからはその富栄養化の影響というのはより表面に出てくるだろうというふうに思います。
そういう意味で、飼料が入ってくる、自給率が低くなる、それが環境負荷になる、環境汚染になるという流れなんですね。それがちょっと長いので、時間がかかるなと思い飛ばしてしまいました。
自給率は、繰り返しますが、食料安全保障、危ない、日本が食料を輸入できなくなったらどうするという問題と、もう一つ環境問題、環境が重要なんだということを、ちょっと頭の隅に留めておいていただければというふうに思います。
(参加者5)
報道に問題があるということは、消費者問題を勉強していても、若干感じます。先生がおっしゃったことを報道やメディアにもっと強く言って欲しいなというふうに思います。
それと、我々がまた何十人かに言うことによって、次に広がると思います。そういう姿勢も必要なのかなと。強く先生のほうから要望されたらいいんじゃないかなと思いました。
(松永)
お一人ずつが10人に言っていただければ50×10で500人になるんですよね。「こういう見方があるんだよ」ということをぜひ他の皆さんに教えてあげていただきたいと思います。それはぜひお願いいたします。
以上