農薬の安全性
農薬と聞くと、どうしても「体に悪い」というイメージが強く、敬遠される方も多いのではないでしょうか。
しかし、消費者の健康や食品の安全を確保するため、様々な安全性基準や使用基準の設定がなされています。
そこで今回は、農薬について正しく理解し、安心して食生活を送れるよう学習してみましょう。
農薬とは???
農薬取締法の定義では、「農作物を害する菌、線虫、ダニ、昆虫、ネズミその他の動植物又はウイルスの防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。」となっていますが、簡単にいうと、「害虫から農作物を守る殺虫剤」、「病気を防ぐ殺菌剤」、「農作物の生育を阻害する雑草を除去する除草剤」などとなります。
一言で農薬と言っても、様々な種類や用途がありますが、多くの安全性試験を行い、人体への安全性が確認されたものだけが登録農薬として販売・使用が認められています。
また、農薬ごとに使用方法が定められており、使用した農薬が基準値を超えて農作物に残留しないよう規制されています。
何故、農薬を使うのか???
農薬を使用する大きな目的は3つあります。
①安定した収穫量を確保する
日本は高温多湿な気候であるため、害虫や病気が発生しやすい条件にあるといえます。そのため、農薬を使用しないで栽培すると、その年の天候などによって収穫量が大きく変動し、安定した収穫量を確保することが困難となります。
②品質や見た目の良いものを栽培する
消費者ニーズに応えるため、品質がよく、見た目の良いものをつくる必要があります。また、市場に出荷するものについては、出荷規格というものがあり、大きさや形などが規定されています。これに合致しないものは、規格外品として安い値段で取引されてしまいます。
③労働力を軽減する
栽培面積が増えれば増えるほど、農作物一つ一つについて、害虫をチェックしたり、除去したり、雑草を一本一本抜くというのは事実上不可能です。もし、これをやろうとすると膨大な時間がかかってしまいます。
農水省の調査では、水稲の除草作業について、1950年では50時間/10a かかっていたものが、2000年には2時間/10aにまで短縮されています。(農林水産省 米生産費調査より)
農薬登録制度???
日本国内で農薬を販売・使用するためには、農薬取締法に基づき、農林水産大臣に農薬登録を行わなければなりません。1日許容摂取量(ADI)の設定、病害虫への効果や環境への影響など、各所管省庁による様々なチェックを受け、はじめて農薬として登録されます。
これにより、農薬の品質の適正化、適正な使用方法の確保、農業生産の安定化、環境の保護などを図っています。
効果や影響 |
所管省庁 |
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病害虫への効果 | 農林水産省 |
農作物への薬害 | 農林水産省 |
農作物や土壌への残留性 | 農林水産省・厚生労働省・環境省 |
人・動物・水生生物への毒性 | 農林水産省・環境省 |
1日許容摂取量(ADI)の設定 | 食品安全委員会(内閣府) |
また、登録された農薬は、細かく使用方法が規定されているので、この登録内容にしたがって使用しなければなりません。農薬として登録されているものなら、いつでも、どのような農作物にでも使用できるというわけではありません。
農薬の使用基準 | |
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使用量および使用濃度 | 単位面積当たりどれだけの量を使用できるのか |
使用可能な農作物 | どの農作物に使用できるのか |
使用可能な時期 | 収穫何日前まで使用できるのか |
対象病害虫・雑草 | どの病害虫や雑草に使用できるのか |
使用方法 | 散布、土壌混和などの使用方法の特定 |
使用回数 |
1回の作付けで何回まで使用できるのか |
上記のような使用基準が設定されており、使用基準に合致しない使用はできません。
農薬の使用基準の設定???
私たちの健康に対するリスクを考える上では、使用する農薬の毒性の強さ、食べる頻度や量が問題になってきます。
農薬が開発される際には、これらを踏まえ、人の健康を損なわないよう、マウスやラットなどの動物を用いて反復投与毒性試験、繁殖試験、催奇形性試験、発ガン性試験など様々な安全性試験を行い、無毒性量(NOAEL)を求めます。
これらの試験で求められた無毒性量(NOAEL)に、100倍の安全率を見込むことによって、人が一生涯、毎日食べ続けても健康に害がない量として1日摂取許容量(ADI)が設定されます。
何故、100倍なのかというと、これらの値は動物実験から求められた量ですので、人の最大無毒性量は、種差を考慮した不確実係数として10倍、さらに老若男女の感受性の違いがあることから個体差として10倍の安全係数を見込んで100倍としています。
残留農薬基準の設定???
しかし、これらの成分は、農産物以外にも魚、肉、空気、水などからも体内に取り込まれる可能性があることから、その分を考慮し、1日摂取許容量(ADI) の80%を超えない範囲で残留農薬基準が設定されています。また、農薬の使用基準もこの考えに基づいています。
残留基準の設定されていないものについては、一律基準(0.01ppm)が適用されます。 参照:ポジティブリスト制度
残留農薬が心配???
アンケートなどでも、「残留農薬が心配」という意見をよく見かけます。
農薬の開発および登録を行う際には、農薬散布から何日経てば1日摂取許容量(ADI)をクリアできるのかという試験を行い、その結果に基づいて、登録内容(収穫何日前まで使用できるのか)が設定されます。
基準を超えて残留することがないよう、天候のバラツキ等も考慮し、安全性を見込んだ日数を設定します。
したがって、登録内容を守って農薬を使用している限りは1日摂取許容量(ADI)を下回っており、健康への悪影響はないものと考えられます。
一般的に、散布された農薬は風雨や光などにより分解減少し、その多くは3~10日間程度で半分以下になります。
残留農薬検査???
国内に流通する農産物等の食品については、各都道府県が地域の実情を勘案して作成した食品衛生監視指導計画に基づき、また、輸入食品については、国が輸入食品監視指導計画を策定し、計画的に監視を行っています。
まとめ
農薬を国内で製造・販売・使用するためには、様々な安全性等の試験をクリアし、登録されなければなりません。
さらに、農薬の使用方法にも基準があり、その基準を守って使用している限り、健康に悪影響をおよぼす量の農薬が残留することはないと考えられます。
しかし、それでも心配な場合は、(農薬の種類によっても異なりますが、)水洗いや調理により、残留している農薬が減少することが報告されていますので、衛生上の観点からも水洗いをしっか・閧ニ行ってください。
用語解説
一日摂取許容量(ADI)
ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量のこと。
無毒性量(NOAEL)
毒性試験を行った際、有害影響が認められなかった最大投与量のこと。通常は、様々な動物実験において得られた個々の無毒性量の中で最も小さい値を、その物質の無毒性量(NOAEL)とします。
(引用 食品安全委員会 食品の安全性に関する用語集)