心豊かな里づくり研究会第2回研修会の記録
~農林漁業体験民宿を学ぶ研修会~
1. 日時
平成17年2月2日 10:00~16:30
2. 場所
津市JAみえビル
3. 主催
心豊かな里づくり研究会(事務局:三重県農水商工部農山漁村室)
4. 参加者
心豊かな里づくりに取り組む農山漁村地域の方々 | 18名 |
大学・団体など | 6名 |
市町村職員 | 10名 |
県職員 | 21名 |
計 | 55名 |
5. 研修会の概略
午前中は(財)都市農山漁村交流活性化機構の平井慎也氏に「グリーン・ツーリズムと農家民宿」をテーマにご講義いただきました。最初、農家民宿を進めるための大前提として、グリーン・ツーリズムの考え方等について、次の3点のポイントを分かりやすく説明していただきました。①グリーン・ツーリズムは農村活性化の1つの手段であり、都市の人に農村に継続して来てもらう必要があること。②また、そのためには、地域全体で連携しながら取り組む必要があること。③そして、農家民宿は滞在時間が一番長いことから、グリーン・ツーリズムの核となること。
その後、農家民宿を開設する場合の規制等について、県知事の裁量に委ねられている部分があり地域差があることを前提としたうえで、旅館業法や食品衛生法等についてご説明いただきました。
午後からは、全国的にも先進事例として有名な、農家民宿の女性経営者2名をお招きし、事例発表をしていただきました。
宮城県からお越しいただいた渋谷文枝氏は、有機栽培の米作りや、リンゴ栽培に取り組まれる専業農家で、地域の女性達をリードする形で、グリーン・ツーリズムに取り組んでいらっしゃいます。ヨーロッパ研修や直売所での野菜類の販売を契機に地域の女性達が元気になり、農家レストラン「ふみえはらはん」の開設に繋がっていったこと、農家レストランは自分達の遊び場は自分で確保したいということで、空いていた古民家を皆で改装したことから始まっていること、農家レストランのお客さんの声をきっかけとして、農家民宿「おりざの森」が開設されたことなどを分かりやすくお話いただきました。渋谷氏の発表の中で「自分達ができることから、少しずつでもいいからやり始める。ぽんとこう一歩踏み出すと面白い事が待っています。」というお話があり、これから都市との交流に取り組もうとされる方に勇気を与えてくださるような流れでお話いただきました。
大分県からお越しいただいた矢野英子氏からは、地域の連携により取り組む安心院型農村民泊についてお話いただきました。矢野氏は、兼業農家の専業主婦でいらっしゃいましたが、安心院町グリーン・ツーリズム研究会のリーダーの方の働きかけにより、60歳の時に農村民泊を開業されました。安心院型農村民泊はそのままの民家の状態で、お家の料理に2品程度足すくらいの料理でもてなしをするというスタイルです。このスタイルは普通の主婦がお金をかけずに簡単に始められるとともに、地域のネットワークを重視していることが特徴です。普通の主婦が民家で農村民泊を開業されたという点で、非常に参考になるお話をお聞きすることができました。矢野氏は、農村民泊を開業し、都市の方々を受け入れられる中で、自分の町を見直され、「こういう良さを知らない人に、ここに来てもらって体験してもらうのが私の務めではないか」と決心されました。「今、この農泊をやって、私は、自分の60年してきた総復習をやっているような感じでございます。だから、今からも初心を忘れずに安心院の本物をずっと守り続けて、この楽しい生き甲斐を一人でも多くの方々に味わってもらえたら、と、思います」と発表の最後を結ばれました。矢野氏のお話も、また、渋谷氏と同じように、これから農家民宿に取り組もうとされる方に勇気を与えてくださるようなお話でした。
研修会の最後には、講師の3名の方を囲んで座談会を開催しました。実践者の方から直接お話を伺える貴重な機会となり、90分にわたって活発に意見が交換されました。
上記のように、今回の研修会は、グリーン・ツーリズムを推進する行政の側からの説明と、実際に、グリーン・ツーリズムの受け入れをされている農村の側からの説明という2本立てになり長時間に及びましたが、農家民宿というのは行政側からの支援と、農村の実践者の力とその両者がうまくかみ合って始めて動き出せるものだということを改めて確認することができたと思います。これから、当研究会としては、開業しようとされる個々の事例を把握し、開業に向けて支援ができるよう 、必要な手続き等についてのマニュアル作りなどに取り組みたいと考えています。
6. 研修会のポイント
1) 平井慎也氏 講義「グリーン・ツーリズムと農家民宿」10:00~12:00\
講師のご紹介
現在、(財)都市農山漁村交流活性化機構で都市交流推進部副調査役を務められる。主な業務として、グリーン・ツーリズムビジネススクールの「農家民宿開業に関わる講座」、「農家民宿運営支援講座」等の講座企画・運営・講師を務められている。同じく、人材育成事業の「グリーン・ツーリズム関連ビジネスに関する調査」にも取り組まれている。
○グリーン・ツーリズムについて
- 「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」という法律をもとに国がグリーン・ツーリズムを推進しているという形になっている。
- 都市の人が旅行するのをグリーン・ツーリズムと呼び、農村側はそれを実行していると考えられる。
- グリーン・ツーリズムは農村活性化の1つの手段。農業で生きる地域、農産物の産地化に成功した地域、こういうところは無理して取り組む必要がないということ。
- 都市の人に農村に来てもらって、消費してもらう、物を買ってもらう、滞在してもらうのがグリーン・ツーリズム。地域全体が取り組まないと継続して来てくれない。だから、キーワードは「連携」。
- 自分で作ったものを自分で売れる(一番顔の見える関係)、自分で値段をつけて売れるのだというシステムがグリーン・ツーリズム。
- 農家とか農村の方が主体的に取り組めばグリーン・ツーリズム。事業の形態は問わない。
○農家民宿はグリーン・ツーリズムの核
- いろんな、グリーン・ツーリズムに関連する施設がある中で、農家民宿というものは、一番滞在時間が長い。核になりうる地域の顔。
- 民宿だけ推進していけばいいのかといえば、地域全体で取り組む必要がある。市町村単位でも広域でもよいが連携が必要。
○農家民宿と農家民泊
- 業(不特定多数の人を泊めて料金を徴収すること)として継続的に営業する場合、保健所の許可(旅館業法の許可)が必要。業としてやらなければ、農家民泊で、許可がない。あくまで年間を通してやることになったら許可が必要になる。
○営業許可の手続き
- 農家民宿の場合、旅館業法の簡易宿所営業の許可が一般的。保健所が相談に乗ってくれるので、保健所と仲良くなるのが一番近道。
- 食事を出す場合、食品衛生法の許可が必要。朝食だけ出す場合、あくまでもお客さんが作るのを手伝いますよ、という形で、食品衛生法の許可なしというところも実際ある。
- 色々規制があるが地域差があって、全国でこうなっていますよとはなかなか言えない感がある。
○最後に
- いかに地域の皆さんと一緒になって盛り上げていくかということをやっていって欲しいなと思う。
2) 農家民宿事例発表
① 渋谷文枝氏(宮城県)13:00~13:55
講師のご紹介
宮城県内の農家レストランの草分け的な存在となる「ふみえはらはん」を経営されているほか、古民家を活用した農家民宿「おりざの森」を開業され、伝統食によるアメニティ創出のカリスマとして観光カリスマに選定されている。
- 他所から御客様が来ることがほとんどない地域だったが、今はほんとに色んな人達が来て賑やかになった。人口8300人の町に、65万人のお客さんが来ている。
- 農家の女性達が町の支援によりヨーロッパ旅行に出て、帰国してから、グリーン・ツーリズムの取り組みが始まった。町の温泉で野菜の販売を開始したことから、農家の女性達が力をつけた。
- 町長のバックアップもあり、女性達は積極的に研修会に参加するなど、元気になった。
- 交流来客者数が増加する中で、お客さんに料理を提供しようと、ヨーロッパ研修に行った女性達が5つの地区に分けて1週間交代で料理を1食千円で提供した。3ヶ月後、これを続ける人いませんか?と、言われて、手をあげたのが渋谷氏だった。
- 自宅の古民家が空家になっていたのを、牛小屋を調理場に改造し、飲食店営業の許可を取得。最初は、地域の方達の交流の場として考えていて、農家のお父さん達が改装を手伝ってくれた。その手伝ってくれた方達がお友達などに口コミで呼びかけて、農家レストランのお客さんが増えた。
- 農家レストランに食事にみえた方の要望を受けて、町役場も支援して農家民宿を開設。
- 民宿に来る方は、何もせず山を眺めたりして過ごしており、今の観光に飽き足らなくなった人達が別の接点を求めてここに来ているようだ。
- グリーン・ツーリズムというように、肩肘張るのではなく、自分の生活をもう少し楽しむために、よその人を受け入れるというような感覚でいいのではないかと思う。
- 自分達ができることから、少しずつでもいいからやり始める。ぽんとこう一歩踏み出すと面白い事が待っている。
② 矢野英子氏(大分県)14:05~15:00
講師のご紹介
大分県湯布院の北に位置する安心院町では、常時14戸の農家が農村民泊を開業されるなど、官民協働で農村民泊を推進している。矢野氏は安心院町グリーンツーリズム研究会農泊部長を務められ、ご自宅で農村民泊「龍泉亭」を開業されている。
- 安心院町では、農村活性化の1つとして、都市との滞在型交流をしようと、民間でアグリツーリズム研究会を立ち上げ、その後、農家だけでは広がりもないということで、町内に住むみんなで安心院町グリーンツーリズム研究会を立ち上げた。
- 今の会長の方から、「人を泊めてみませんか?」と声をかけられ、最初は、親戚以外の方を家に泊めることに驚きましたが、「お家の料理に1品足すくらいで、そのままの状態で迎える」ということと、役所の方の心意気なども受けて、やろうかなと思った。
- ドイツ農泊体験旅行を通じて、自分の町を見直し、自分としてこの地域に生まれて、この良いことを私一人がするのではなく、こういう良さを知らない人に、ここに来て貰って感じて貰い、体験して貰うのが私の務めではないかと決心した。
- 安心院の農村民泊はマスコミの応援を通じて全国に広がった。
- 昨年は、中高生12校が農村宿泊体験で安心院町を訪問した。安心院町の農村宿泊体験では、農村民泊を開業している14軒に加え、開業していない家庭も、研究会の指導を受けて小中高生の宿泊体験を受け入れている。それぞれの家庭でそれぞれの持ち味を生かしたものをやる。
- 農村民泊は個人経営しているが、14軒が1つであると考えている。料理について農家の主婦は悩んだが、14軒の各家庭を会費制で廻って勉強し、自分の家でとれた旬の物を提供することが一番良いとみんなで考え付いた。また、この勉強会を通じて14軒がそれぞれ親しくなったし、交流会やイベントなどでもそれぞれ一品持ち寄って、自分達で作ったものでおもてなししようということも決まり文句になった。
- 自分の60年してきた総復習をやっているような感じ。初心を忘れずに安心院の本物をずっと守り続けてこの楽しい生き甲斐を一人でも多くの方々に味わって貰いたい。
3) 座談会(15:10~16:30)
- 小中高生の農泊体験の受け入れは平成12年から実施。体験は各家庭でやるので、役場のグリーンツーリズム推進係の職員が、研究会の会長と一緒に、農泊をする家庭を全部集めて指導をした。(矢野氏)
- 家の改修を手伝ってくれた人達が5人6人と1ヶ月に2、3回来てくださったのが最初。その方が口コミで広げてくださった。(渋谷氏)
- 食事の提供をする場合、食品衛生法の営業許可が必要で、さらに、営業許可を受けた施設を運営するためには、食品衛生責任者を置かなければならない。責任者は、保健所の講習会を受けるとなれる。宿泊客と農家が一緒に調理飲食する体験型であれば、営業許可が不要になっている都道府県もある。(平井氏)
- 初期投資を抑えないと借金を返すのが大変になる。初期投資をかけてしまうとそれだけで苦しくなってしまう。(平井氏)
- 農家民宿を基盤にしてそこから自分達が何を売れるのかということを探ったほうがいい。だから、ここで儲けようというのではなく、ここを足がかりにして儲けるということを考えていただければ。(渋谷氏)
- 修学旅行生が増えると思うのですが、今常時14軒やっている方はそれなりの心構えをできるけれど、急に受け入れる家庭がどれだけ出来るか心配。事前の指導はあるが、ひとつのところが悪い印象を持たれると全体が悪い印象になるのかなとそこが悩みの種。(矢野氏)
- お客さんも移り気で、新しいもの新しいものに移る。リピーターとして帰ってこられるように新しいものを加えていかなければならないということ。そこが一番大変。若い人達の意見を聞くようにしている。(渋谷氏)
- 農村に来てもらえばいいので、入り口はグリーンであってもホワイトであってもエコであっての、呼び込むための手段で名前が変わっているだけ。グリーンにとらわれず、いろんな形で進められてもいいのでは。(平井氏)