子どもの人権に係わる問題を解決するための教育
若者の離職理由から見える教育課題と進路保障
~学校でできること、すべきこと~
研修概要
県立学校18校と私立学校3校から合計29人の参加がありました。
1 行政機関の調査データから見えること
最初に文部科学省と厚生労働省が出している統計から、2000年に高校へ入学した生徒を100人としたときに、10年後の2010年までに62人が退学・離職等により自分の進路を考え直さなければならない状況を経験していることを伝えました。その上で「若者の離職理由」「離職する際の相談相手の有無及び相談相手」「相談をしなかった理由」「相談による効果の有無」等のデータから見えてくる教育課題として、①「労働(働くこと)」に対する考え方、②人間関係の問題、③相談できる関係づくりの3点を取り上げました。そしてその課題を解決するために、「生徒にどんな力をつけるのか」「そのためにどんな取組をするのか」についてグループワークを行いました。
参考HP
○ 厚生労働省
「新規学卒者の離職状況に関する資料一覧」(2010)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/24.html
○ 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
「若年者の離職理由と職場定着に関する調査」(2007)
http://www.jil.go.jp/institute/research/2007/036.htm
○ 人権教育課 調査研修班(2013)
「2013(平成25)年度管理職人権教育研修会 講演記録『人権教育を根幹においた「学校つくり」』/大阪府立柴島高等学校校長 山崎為伯さん」
2 グループワーク
まず「将来、社会で働く生徒たちにつけたいのは、どんな力か」について、各自の考え(黒字)を出し合い、模造紙大の用紙に記入していきました。次にその「つけたい力」について、関係するものを整理(青字)し、最後にその整理された「力」を生徒につけるには、教科指導や分掌での取組、学校行事など、様々な観点からどのような取組(赤字)をすればよいか話し合いました。
3 全体共有
各グループで、話し合った内容の報告を全体で交流しました。報告された「生徒につけたい力」と取組の主なものは次の通りです。
①行動力
与えられたことをこなすだけでなく、自ら考え、行動できる力が必要である。
【取組】学校行事や実習などで、生徒の主体的な活動場面をつくる。また、資格を取らせることで自信を持たせ、行動できる力につなげる。教職員が生徒のいいところを見つけて誉める。
②忍耐力
苦手意識、自信の無さから仕事を辞めてしまうケースもある。自分を律する力や継続する力、自己分析して自分の「得意なもの」「不得意なもの」が何かを意識できることが必要である。
【取組】自分で決めたことを最後までやり遂げるなど責任を果たす経験をさせることで、自分の行動がどのような結果をもたらすかに気づかせる。成功体験だけでなく、失敗する機会もきちんと保障する。
③コミュニケーション力
相手の意図を理解し、自分の思いを伝えることができれば、職場での人間関係が円滑になり、助けを得やすくなる。また、困った時に相談できる関係も築きやすくなる。
【取組】「新聞の内容をまとめて発表する」等、自分の考えを伝えたり、人の考えを聞いたりする機会や、グループワーク等、他者と話す機会を増やす。また学校行事や部活動等もコミュニケーションを養う場として活用していく。
④基本的生活習慣
挨拶・場にふさわしい言葉遣い、時間を守ること、身だしなみなどを身につけさせることが、社会に出たときに重要となってくる。
【取組】 授業や部活動等で教職員が挨拶やマナーの大切さを伝え、自らも実行する。また、クラスマッチなどの行事も挨拶・マナーの実践の場として活用する。
他には「職場体験やアルバイトなど、学校外での体験が生徒の刺激となる」「まずは、教師自身が社会情勢(求人率の低下、非正規雇用の増加等)を理解したうえで、挫折から立ち直る力、生涯学び続ける力などを身につける取組をしなければならない」等の意見が出されました。
参加者の声
・学校の現状とリンクしていることなので、とても役に立つ内容でした。生徒につけたい力と問われると明確に答えられなかったのですが、知識が整理された気がします。
・生徒が進路を考え直す割合62%に対する対処法を真剣に考えることができてよかったです。体験型の講座は自分で考え、意見をまとめるなど参加できるので、一方向的な講座よりも学ぶことが多いと思います。
・グループワークで考えを皆で出し合い、関連性を見つけ、まとめていく作業が分かりやすかったです。
研修を終えて
終身雇用や年功序列は過去のものとなり、非正規雇用者が増加するなど、厳しい雇用状況は感じていても、「62/100」(高校卒業後10年間に100人中62人が進路を考え直している)という数字の意味をどれだけ意識できているでしょうか。離職理由の中には、学校では対処できないものもありますが、学校で力をつけることにより、社会に出たときに困らずに済むこと、困った時に対処できることもあります。また、離職する際に誰にも相談しなかった人が多いのは、「相談窓口の知識を持っていない」「相談するためのスキルを持っていない」「相談経験がない」ためではないかと考えられます。相談に必要な知識・スキルの学習とともに、相談し合える人間関係づくりと、教職員に相談しやすい体制づくりが重要であると考えます。