人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」実践事例紹介~2012年度「気づく つながる つくりだす」活用のための連続講座(第3回)より~
三重県教育委員会 人権教育課 調査研修グループ
三重県教育委員会は2012(平成24)年3月に人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」(以下「指導資料」)を発行しました。この指導資料は、各学校の実態に応じて編集加工して利用することを念頭に置いたものです。2012年度に実施した活用のための連続講座(第3回)においても、それぞれの学校・クラスにおける課題や生徒の様子等をふまえて、様々に工夫した実践が交流されました。
ここでは、講座で参加者から報告された活用事例を紹介します。実践内容は、授業や教職員研修におけるものなど様々です。効果については、報告された内容だけでなく、人権教育課として「こんな効果も期待できる」と考えたことも付け加えています。
(1)生徒の実態に応じてワークシートを編集加工した実践
「できなくても仕方ない?」(障がい者の人権 P.26)
「ケガをしたAさん」という設定を、授業者がよく知っている障がい当事者に変更した。
効果 日常生活で困るポイントなどを、授業者の経験も含めて生徒に伝えることができ、より具体的に考えやすくなります。
「できなくても仕方ない?」(障がい者の人権 P.26)
「できると思う理由」「できないと思う理由」を考える際、「本人」「引率教員」「友だち」等の立場を割り振り、その立場から考えるようにした。
効果 立場を設定することで、「理由」について具体的に考えやすくなり、それを出し合うことで多角的な観点を共有することができます。また感情面も、それぞれの立場からより現実的に想像しやすくなります。
「安心して出かけたい!」(障がい者の人権 P.28)
状況がイメージしやすいよう、手書きのイラストをワークシートや感想用紙に添えた。
効果 状況がイメージしやすいだけでなく、見た目の印象が柔らかくなり、生徒にとってなじみやすくなります。
「自分のことを伝える」(部落問題 P.44)
「私は・・・」という10の項目を、「私の長所は」「私の得意なことは」「私が嬉しかったことは」「私が今がんばっていることは」等、具体的に変更した。
効果 「私は・・・」だけでは10項目も思いつきにくい生徒にとって、書きやすいシートになります。また授業者として書いてほしい(生徒どうしの関係を深めるきっかけになりそうな)項目について、書かせることができます。
「自分ネットワーク」(障がい者の人権 P.52)
自分を支えてくれている、または自分が支えているネットワークを「学校」と「地域・家庭」に分けて考えるようにした。また、ネットワークが「どうしたら広がるのか」「どうしたら切れてしまうのか」についても考えさせるようにした。
効果 「学校」「地域・家庭」と場面を設定することで、生徒がイメージしやすくなります。また、ネットワークが広がったり切れたりすることについて考えさせることで、日常の自分の言動や他者との係わり方について見直すことができます。
(2)学習の進め方を工夫した実践
「もしも世界がこんなふうなら」(障がい者の人権 P.27)
教室をレストランに見立て、活動を行った。お客役の生徒は目隠しをして、物を食べる体験をした。従業員役の生徒は、入店から席への誘導、食事に至るまでのサービスをする活動にした。
効果 体験活動を取り入れることで、生徒たちが「障がいの社会モデル」について実感をふまえて考えられるようになります。生徒の一人が次のような感想を書いています。「最初は単なる遊びだと思ったけど、文章を読んで考えたり、他の人の意見を聞いたりして、『障がいとは何か』『障がいとはどういうことか』と深く考えることができた」
「安心して出かけたい!」(障がい者の人権 P.28)
事前学習として、三重県健康福祉部の出前授業によるユニバーサルデザインについての学習とアイマスク体験を行った。
効果 体験活動を取り入れることで、生徒がユニバーサルデザインの重要性について考えやすくなります。生徒の一人が次のような感想を書いています。「アイマスクを付けても、最初は動かなかったから何とも思わなかったけど、動き出したらものすごく怖くなった。点字ブロックがよくわかって、目の見えない人にとっては本当に重要なんだなと思った」
「『女性』『男性』のイメージって?」(女性の人権 P.38)
教職員研修で、ワークシートを資料として性差別をテーマに研修した。「レディースデー」「女性専用車両」等、身近にある事例を取り上げてグループ討議も行った。出された意見をまとめたものを後日配付し、教職員間で共有した。
効果 身近な事例について話し合うことで、職場でのさまざまな場面や言動について振り返り、普段から感じている疑問や気になること等を出し合う機会にもなります。
「関係ないよ! そんなこと」(部落問題 P.45)
自分が相談を受けたら、「関係ないよ」だけでなく、どんなふうに答えるかをグループで考えた後、その発表を劇形式で行うようにした。
効果 劇形式にすることで、見ている生徒がイメージしやすくなるとともに、演技として実際に話してみることで、演技する生徒はさらに深く考えられるようになります。
「もし、友だちがデートDV被害を受けていたら?」(女性の人権 P.69)
全学年対象に行った保健講座でのデートDVについての学習をふまえて活用した。ワークシートの設問に答える際には「あなたの隣の子の話として考えて」と呼びかけた。
効果 保健講座とつなげて人権学習を行うことで、その人権問題をより日常的な、自分と係わりのある課題としてとらえやすくなると考えます。
「もし、あなたが採用面接官なら?」(部落問題 P.74)
生徒がファシリテーターを務め、出された意見やアイデアをホワイトボードに書き込みながら進めるグループワークを行った。
効果 ホワイトボードを用いて、討議内容を可視化しながら話し合うことで、議論がしやすくなります。模造紙でも同様の活動は可能ですが、ホワイトボードは消すことができるため、気楽に記入でき、メモ的な記録がしやすくなるという利点があります。また、この活動を通じて、発言しやすい雰囲気をつくったり、人にわかりやすく話したりするなどのコミュニケーション技能の育成も期待できます。
「いきいきと働ける職場を!」(子どもの人権 P.94)
「課長」と「あなた」の会話を教職員が寸劇にし、それをビデオ撮影し、生徒に提示した。
効果 映像化することで、よりわかりやすく伝えることができます。特に「書類をぶつける」等のアクションを見せることができると、文字で読ませる以上に実感を伴って伝えることができます。
「インパクトをもって『場(設定)』を共有する」うえで、ロールプレイや演劇的な手法を用いることは有効です。ただし、「差別やいじめをなくしたい」という目的意識がしっかり伝わるよう、留意する必要があります。例えば、いじめ問題の学習として劇を行うとき、笑いを誘うような雰囲気・内容が出過ぎると、「いじめは、ふざけて扱ってもよい問題だ」というメッセージを間接的に児童生徒に届けてしまうことになりかねません。ある学校では、教職員で劇を行った際、被害者役をした先生が本当に泣いてしまうほどの真剣さだったといいます。児童生徒が演じる場合にも、同様に真剣さをもって臨ませることが大切です。
(3)その他 ~“キラリと光る”取組~
保護者向けの広報に補助資料の情報を使った記事を掲載し、保護者啓発に活用した。
効果 学校の取組を理解してもらううえで効果的であることに加え、学校での人権学習とリンクさせた発信ができれば、保護者と生徒が人権について話し合うきっかけづくりにもなります。
ワークシートを用いた人権学習のLHR前に、教職員研修で模擬授業を行った。そこでの気づきや課題点をもとに、ワークシートを修正し、LHRを行った。
効果 時間配分や設問数を、生徒の実態に合わせて修正することができるとともに、授業者は授業展開のイメージがつかみやすくなります。また人権学習の内容を全教職員で共有することで、学校全体で取り組みやすくなります。
教職員の指導のもとに、人権委員の生徒が中心となって授業案をつくり、ファシリテーターとして授業を進めた。また学習テーマと時期をクラスごとにずらして行うことで、授業案をバージョンアップさせていった。
1~3組 | 4~6組 | 7~9組 | |
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5月 | 部落問題 | 障がい者の人権 | 外国人の人権 |
6月 | 障がい者の人権 | 外国人の人権 | 部落問題 |
7月 | 外国人の人権 | 部落問題 | 障がい者の人権 |
効果 人権委員が授業案をつくることで、より生徒目線での学習につながります。また人権委員の認識の深化や成長も期待できます。上記(実施時期の例)のような形態で行うことで、幅広く様々な人権問題を学習できるほか、前回の授業での反省をもとに授業案に修正を加えながら、よりよいプランにしていくことができます。
今後、より多くの実践を集約し、実践事例のデータベースとして充実させていきたいと考えております。ご協力をよろしくお願いします。