人権教育推進管理職研修会 森 実さん講演 「管理職として自校の人権教育をどのように進めるか」(前編)
(2010年9月作成)
大阪教育大学教職教育研究開発センター教授である森実さんは、1980年代後半の「せいかつ」編集以来、いろいろな形で三重県の人権教育に関わっていただいています。
近年では、「人権問題に関する教職員意識調査」や人権学習教材「わたし かがやく」、そして2010(平成22)年3月発行の「人権教育ガイドライン」の監修もしていただいています。 今回は2010(平成22)年6月に開催された、人権教育推進管理職研修会(小中学校長対象)においてご講演いただいた内容の一部をお届けします。 ( 6/1の講演資料はこちら )
1 三重県の教職員意識調査から
(1)「三重の先生はまじめだが…」
三重県の教職員意識調査が以前ありましたが、私も関わらせていただきまして、とても面白かったです。また、ありがたかったのは、「このアンケートに答えることを通して、教職経験を振り返ることができた」というようなことを、自由記述で書いてくださっている方が多かったことです。
私があの調査結果を見て一番感じたのは、三重県の先生はまじめに同和教育に向き合おうとされているということでした。ただ、私からすると、もうちょっと楽しみながら同和教育を、あるいは人権教育をしてもいいのではないか、というところもありました。
今日も少しその結果を紹介したいと思っていますが、みなさん校長先生方ですので、管理職として関心のありそうな所を中心に話させていただきます。
(2)若い教職員の困っているポイント
「新任の頃に、どんな課題に直面しましたか」と、20代から50代の方までに聞いた結果、何が一番多かったのかというと、「授業が思うようにできない」でした。
その後は、「的確な判断ができない」「クラスがまとまらない」「子どもの気持ちがわからない」という3つが並んでいる感じです。
新任の頃は、自分の思うように授業ができないというのが大きな悩みだということですが、これを世代別にみるとどうなっているのかというのが、次のグラフです。
一番高かった「授業が思うようにできない」というのは、左から二つ目、bです。
この項目はどちらかと言えば若い人が高いとはいえ、そんなに大きくは変わらないと言えます。
それに対して、他の多くの項目は若い人が高くなっています。例えば、「クラスがまとまらない」というのも20代の方が飛び抜けて高くなっています。また「人権や差別に対応できない」も、他の年代に比べて20代が高くなっています。さらに「的確な判断ができない」というのも、若い人の方の比率が高くなっています。
「クラスがまとまらない」「人権や差別に対応できない」「的確な判断ができない」というのが、特に最近の若い人が困っている項目だということが言えるかと思います。管理職の方々が、最近増えている若い先生たちに接するポイントはこの点だということです。
(3)支えは先輩や同僚
次は、「新任の頃に直面した課題を解決する上で、何が役に立ちましたか」という質問です。
一番多いのは「先輩や同僚」で、9割の人が挙げていますが、これは大変なことだと思います。私は、こういうタイプの調査や質問そのものを他で見たことがないのですが、同じ職場で支えてもらっているということが如実にわかる結果で、三重県の教育現場はしかるべき力を備えているということを表していると思っています。
その次は3割の人が「担当している子ども」です。これが2番目であるということは、三重県の先生方は子どもから学ぶという姿勢を持っているということです。これは、一番多い「先輩や同僚」に支えてもらったということと、セットになっていると思います。もしも先輩や同僚に支えてもらっていなかったら、若い教員はなかなか子どもから学べないからです。
(4)中堅リーダーの育成
第3位の書籍に次いで、4位が校園長や教頭となっています。オリンピックでいえば、銅メダルから外れているけれど、入賞はしているというところです。
先日、三重県のある校長先生と話をしていましたら、その方は「私は、毎年、一人ずつ中堅リーダーを育てることに努めています」と言われるのです。中堅の先生が、若い先生を指導し、引っ張っていくことをめざされていました。「今年はこの先生」と決めたら、いろんな所で応援して、その人が力をつけることで学校のリーダーとなっていってくれることを追求して、だいたいうまくいっているのだそうです。毎年そういう先生が成長していきますので、数年すれば中堅リーダーが育ち、それなりの層をなすようになるということです。
もしも、ここにおられる皆さんもそんなふうにされているとしたら、校長が直接動かなくても、若い先生が先輩や同僚から聞ける体制を職場として作っているわけですから、別にメダルがなくても悲観することはないです。
では、年齢別はどうかということですが、右のグラフをご覧ください。
ここでも、年齢で変わらない項目と、変わる項目とがあります。年齢によって一番変わらない項目は、トップの「先輩や同僚」です。
今の20代の先生方から見ても、やっぱり同じ職場の先輩や同僚が力になっているということですから、三重の学校現場、教育現場が、いかに力を持っているかということをそのまま表しているということです。
次の項目を見ると、若い人ほど校園長や教頭を頼りにしているという結果です。50代では1割強なのに対して、20代では3割を超える方が、校長先生など管理職のサポート、アドバイスが役に立ったと答えているわけですから、校長として頼りにしてもらっていると、喜ぶべき結果かもしれません。一方で、先ほどの「中堅を育てる」という路線から考えると、ひょっとしたら、逆かもしれません。中堅が育ってないのかなと心配になる面もなくはないという結果です。
でも、いずれにしても、若い教員がいろいろな課題に直面しているけれども、三重県の場合は学校現場、同僚や先輩が大きな力になってそれを克服しており、管理職はそれをさらにサポートする役割を果たしている様子がうかがえるということで、学校として誇れる状態ではないかと私は思っています。
(5)子どもの現実に即して同僚から学んでいくスタイルを
次に「人権教育に取り組む上で困っていることはどんなことですか」という質問です。
一番多いのは「時間的ゆとりがない」という項目で、次が「課題が多すぎる」、三番目、四番目が「間違わないか不安」「人的配置が少ない」というものです。
では、管理職は困難の原因になっているのかというと、右から3つ目です。これは意外でしたというと怒られるかわかりませんが、もう少しあるかというふうに私個人は思っていました。ですからこれは、みなさんにとっては誇れるというか、自負してもいい結果ではないかと思います。
この結果から見る限り、「時間的なゆとりがない」から始まって、「人的配置が少ない」というあたりに特に注目すればいいということかと思います。
これを年齢別に見たのが右のグラフです。
「時間的なゆとりがない」という項目ですが、それほど年齢による大きな差はありません。
ところが、「間違わないか不安」という項目は、20代では半数以上がこれに○をつけています。年齢が上がるにつれてどんどん減っていき、50代の方では2割弱という数字になっています。
ですから、若い先生方にとっては、このあたりがとてもポイントになっているということです。その一方で、3つ目、4つ目の項目について見ると、「課題が多すぎる」という項目を、むしろ逆にベテランの先生方が選んでいます。
いろいろな人権教育について言いますと、部落問題についての基本的な事柄、女性差別に関する基本的な事柄、子どもの権利に関する基本的な事柄というのを、若い先生が子どもの現実に即して、同僚から学んでいくというスタイルを各学校がとっていけるかどうかが、きわめて大きいのではないかと思っています。
三重県の教育委員会が新任者研修で、集合研修をどのくらいやってみえるか知らないのですが、少なくとも調査結果から見る限り、同じ職場にいる同僚からの声が圧倒的に強いのだということを、私たちは再確認していいのではないかと思います。
2 「人権教育ガイドライン」
ガイドラインは、人権教育をやっていこうとする教職員の後ろ盾になるものです。
このタイミングで、人権教育の基本方針を改定し、さらにそれを具体的に推進するためのガイドラインをつくっている都道府県というのは少なく、敬意を表するに値すると思います。
もちろん、現場におられる皆さんにとっては、もうちょっと書きようはないのかと思われるかもしれません。靴の上からかくみたいな文章になっている面があるかもしれませんが、しっかり読んでいただければ、その中に込められた願い、あるいはその思いというのは、受け止めていただけるのではないでしょうか。これをつくった人は、こういうことも言いたかったのだろうと推測していただいて、現場で先生方に伝えていただければと思います。