おさかな雑録
No.102 スマ 2015年10月28日
この子どこの子
先般、旬のおさかな情報の最後に、おまけの問題として出した答え合わせをさせていただきます。問題は、以下の画像で示されている魚の名前を答えるものですが、実際には画像だけで判断するのが難しい、言い換えれば意地悪な問題でした。
南伊勢町贄浦 平成27年10月14日撮影
旬のおさかな情報で紹介していたのはヒラソウダで、マルソウダとの見分け方も記事の中で示していましたので、ヒラソウダとマルソウダはまず含まれていると予想されるでしょう。問題は最後の2尾で、カツオ類の幼魚と思われますが、上の1尾と模様や顔つきが少し違うように見えます。この魚を手に取ってみたところ、両顎に歯がありました。
第一印象では、スマかなとも思ったのですが、特徴である腹部の暗色斑がみられず、断定できませんでした。その上、スマに歯があるかどうかがきちんと頭に入っていないのに、歯があるならハガツオか、イソマグロではないかと早合点してしまったのが誤りでした。
ハガツオ 南伊勢町贄浦 平成21年7月15日撮影
イソマグロ 南伊勢町贄浦 平成24年9月6日撮影
研究所に戻り、ハガツオ、イソマグロの幼魚の画像と比較しましたが全く違います。ハガツオは成魚と同じような細い縞模様がみられ、イソマグロは顔つきや側線の状況が異なっていました。
スマ 南伊勢町贄浦 平成21年7月15日撮影
それで、再度スマが浮上し、写真を探し出して見比べると、上の写真の小型のものは今回の幼魚とよく似ていました。また、改めて今回の幼魚の腹部をみると、暗色斑ができつつあるようです。さらに図鑑によれば、スマには歯があることが特徴とされていました。初めから図鑑を見ていれば・・・。特徴の明瞭な種が多いグループだけに、慢心があったのかもしれません。基本を怠ったことが失敗で、今回の教訓となりました。一方で、スマの特徴の一つである腹部の暗色斑は、18cm前後の幼魚では完成していないこと、幼魚の体側には暗色横帯がみられ、成魚とは全く異なった模様をしていることがわかりました。なお、幼魚と成魚とで模様が異なるのは珍しいことではありません。
スマ 標準体長41㎝ 南伊勢町贄浦 平成23年10月19日撮影
スマはカツオ・マグロ類としては小型で、比較的沿岸性が強いと考えられています。成魚では腹側の暗色斑で一目瞭然。産地ではお灸の跡に見立てて「やいと」、「やいとがつお」と呼ばれることが多いようです。また、カツオのように大群を作ることもないようで、定置網などでポツポツとみられる、どちらかというと珍しい魚です。一方、身質は小型の割に赤みが深く、味わいもしっかりとしていて非常に美味しいといわれています。希少なものでもあるので、値段も高めと思って間違いないでしょう。知る人ぞ知る名魚として、頭の片隅にでも置いておくとよいと思います。
ところで初めの問題ですが、上から順に、
マルソウダ、マルソウダ、ヒラソウダ、
ヒラソウダ、マルソウダ、(下の頭部背面写真参照)
ヒラソウダ、スマ、スマとなります。
マルソウダ(上)とヒラソウダ(下)の頭部背面 赤丸は右側鰓蓋上部の暗色斑
南伊勢町贄浦 平成27年10月14日撮影
ただし、このマルソウダは、左側面では鰓蓋上部の暗色斑は頭部と連続しないように見える。(一番上の写真、下から2個体)
なお、実際にも、今回の問題のようにマルソウダとヒラソウダの特徴が分かりにくいことがあります。特に鰓蓋上部の暗色斑は、表面が擦れて一部が消えていることがありますので注意が必要です。したがって頭部背面と連続していればマルソウダと判断できますが、離れていてもヒラソウダと断定はできません。体側の被鱗域と合わせて判断する必要があります。また、今回気がついたのですが、マルソウダとヒラソウダでは、前者は体側背側面の暗色横帯の幅が広くみえます。案外、パッと見の雰囲気による区別の方が当たっているかもしれません。ただし、今回のように両方混じっていれば良いのですが、どちらか一方しかないときは、雰囲気による区別は困難です。正確に魚を見分けていくには、雰囲気と、それぞれの魚の特徴、両方を検討することが大事だと思われます。
(2015年10月28日掲載 企画・資源利用研究課)