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平成26年05月22日

おさかな雑録

No.94 ショウジンガニ 2014年5月22日

まめごろうの大発生

 5月7日に市場調査に行った時のこと。複数の漁業関係者から、巨大なメガロパ幼生についての質問を受けました。もっとも、メガロパ幼生というのはカニ類の浮遊幼生のひとつで、一般には微小なプランクトンとして存在し、人の目には触れません。せいぜい、ちりめんじゃこの中にまじっているのが目に入るくらいでしょう。したがって、質問は「なんじゃこりゃ」とか、「かくかくしかじかの生き物がいっぱいいるのだが何か」というものでした。

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ショウジンガニの幼生 左 甲長約8mm、右 同9mm 平成21年5月11日撮影

 普通、そういった漠然とした、あるいはエビカニ類の幼生についての質問には困るのですが、今回はあてがありました。実はショウジンガニの幼生はメガロパ幼生としては珍しい大きさで、全長は1cmを優に超え、肉眼でもはっきりとその存在を捉えることができます。また、毎年行っているもじゃこ(ブリの幼魚)調査では、すっかりおなじみで、調査船「あさま」の乗組員さんからは「まめごろう」という、みごとに名は体をあらわすネーミングで親しまれているほどなのです。そして、これまでのゴマサバの胃内容物調査でも、何度か目にしたことがありました。

 ただし、市場でゴマサバの胃内容物中に認めた数は見慣れたものではなく、驚きを禁じえませんでした。「こりゃ、「まめごろう」の大発生だ!」。まき網漁業者も、おびただしい数の「まめごろう」が水面を覆いつくしていたと話してくれました。

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ゴマサバ胃内容物(赤線内が「まめごろう」)  南伊勢町奈屋浦産 平成26年5月8日撮影

 まき網で漁獲されたゴマサバを研究室で精密測定し、胃内容物を調査したところ、想像どおり、これまでになく「まめごろう」が多く食べられていました。

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2010~2014年のゴマサバ胃内容物調査における、「まめごろう」の出現データ

ただし、()内は出現日数。2014年は5月19日までの暫定値。測定日ごとの集計データを使用。「出現率」は「まめごろう」を捕食した個体の割合を、「捕食重量比」は、「まめごろう」の胃内容物全体に占める重量比を示す。

 これまで、ほぼ毎週行ってきたゴマサバ胃内容物調査では、ゴマサバは細かいプランクトンから小型の魚まで、選り好みなく何でも食べているようですから、2014年の結果はそれだけ「まめごろう」が海の中に多かったことを示唆しています。

 では、どうしてこのようなことになったのか、考えてみます。漁獲当日、5月6日の海況図を見てみましょう。

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5月6日の海況 関東・東海海況速報から

 黒潮北縁から、暖水が熊野灘に向かって流れ込んでいます。暖水自体は顕著なものではなかったようですが、これまで低水温基調にあった熊野灘に与えた影響は比較的大きかったようで、ブリの大漁や、ミズクラゲの入網など、漁況にも変化が見られました。「まめごろう」も、2014年は5月になるまでゴマサバ胃内容物に出現していなかったことから、この暖水波及によって沿岸に移送された可能性が考えられます。

 一方で、ゴマサバ胃内容物における「まめごろう」の大量出現は比較的長期間続いているため、海況の変化による一過性の増加ではなく、資源量自体が多い可能性をも示唆しています。

 しかし、残念ながら、なぜ多いのかという、肝心の部分は謎といわざるを得ません。実はショウジンガニの浮遊生活に関する情報は少なく、秋の産卵から春の沿岸来遊までの長期間、どこでどうしているのかは知られていません。一方で、あれだけ特異的なメガロパ幼生の姿をしているのですから、産卵場所近くの沿岸域で過ごすというよりは、はるか沖合いを漂っている可能性が考えられます。ショウジンガニは、磯ならどこにでもいるようなカニですが、やはり普通種でありながら大冒険的な浮遊期間を持つウナギやイセエビのように、大海原を股にかける生き物なのかもしれません。

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ショウジンガニ 甲幅約1㎝ 研究所内水槽 平成26年5月22日撮影

 4~5月のモジャコ調査で採集した流れ藻に付いていた「まめごろう」は、水槽の魚たちに食べられて全滅したのかと思いきや、ブロックの陰でしっかりとショウジンガニになっていました。

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ショウジンガニ 甲幅8mm 浮魚礁の補助ブイに生息 平成21年5月14日撮影

 この姿になれば、ショウジンガニであることは明らかですが、「まめごろう」は姿も生態も、ショウジンガニとは余りに違います。こんな記事を書いておいて、自分でも未だにちょっと信じられないくらいです。いつもながら、海の中には驚くことがいっぱいです。

(2014年5月22日掲載 企画・資源利用研究課)

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