おさかな雑録
No.91 アオアジノエ 2014年2月18日
謎が解けた
南伊勢町奈屋浦 平成25年10月28日撮影
まき網の選別場所の床を何気なく見ると、白いものがちらほらと流れていました。通常、鱗、ちぎれた肉、皮など、選別の際に流れ落ちるものが白っぽく見えることは珍しくありません。ところが、今日はどうも様子が変だと感じました。
南伊勢町奈屋浦 平成25年10月28日撮影
近寄ってみると、どうやら虫のような姿をしています。これは寄生性の等脚類、通称ウオノエと呼ばれる仲間だなとピンときました。さらによく見てみると・・・
アオアジノエ 南伊勢町奈屋浦産 平成25年10月28日撮影
なんと!まだ生きて動いています。動画でお見せできないのが残念ですが、動いているのを確認したときは、まさに腰を抜かさんばかりに驚きました。なんという生命力でしょうか。そして、なんというおびただしい数でしょう。
しかし、この手の寄生虫は、付着していた宿主がわからないとどうにもならないと思われました。この日の漁獲主体は小さなマルアジで、生後1年未満と推定され、さすがにこの大きさのものが寄生するには小さすぎると考えられました。
なお、ウオノエ科の等脚類は、魚の体表や口腔内に寄生し体液を吸って生きていますが、人間に対しては全くの無害で、仮に口に入っても健康被害の心配はありません。また、ウオノエ類は結構な種数の宿主に寄生し、それぞれがほとんど別種と考えられています。ウオノエ自身の生活は謎に満ちていますし、宿主の生態に関する重要な情報も得られる可能性がある、とても魅力的な生き物でもあります。
さて、結局、現場では宿主についての情報は得られませんでしたが、とりあえず寄生虫だけでも標本にしておくために、落ちているものをいくつか拾い集めて持ち帰り、調べてみました。
アオアジノエ 腹面 体長14.8mm 冷凍標本 平成25年11月12日撮影
この標本は、脚がすべてかぎ状になっていることから、当初の見立てどおりウオノエ科に属する等脚類の一種と思われました。また、この個体は幼生を腹に抱いていますので成体であることがわかり、おそらく雌と思われました。しかし、やはりそれ以上の情報は、宿主がわからないとどうにもなりません。
そのままひと月ほど経ち、この寄生虫のことが頭から離れつつあったとき、突然その日がやってきました。
マルアジ 標準体長120mm 南伊勢町奈屋浦産 平成25年12月12日撮影
まったく偶然に、マルアジを測定したとき、口腔内に件の寄生虫を発見したのです!それも、このように小さな個体でした。後になってみれば、これならあの時100トン近く水揚げされた魚で、あのおびただしいウオノエの数も納得できます。
マルアジ 標準体長120mm 南伊勢町奈屋浦産 平成25年12月12日撮影
このように、鰓蓋をあけると、口腔内の相当大きな空間をウオノエが占めていました。これだけ大きなものが口の中に入っていることも驚きですが、先日、これらが体外に出てしまっていた事実にはさらに驚かされます。ウオノエ類は遊泳脚を持たないことから、泳ぎ回る力は大きくないと思われ、いったん寄生したら一生魚の口の中ですごし、出てこないものと思い込んでいました。また、マルアジの未成魚にウオノエの成体が寄生していることは、寄生の時期やウオノエの成長など、ウオノエの生活史についてのいろいろな妄想を掻き立てさせます。
アオアジノエ 左から、体長7.5mm雄、16.2mm雌、15.8mm雌(ホルマリン固定標本)
平成25年12月12日撮影
標準体長120mmのマルアジには、雌雄1個体ずつが寄生しており、雌は発生中の卵を持っていました。取り出した寄生虫をホルマリン標本と比較したところ、形態は良く一致しました。そして、マルアジに寄生していたことから、情報を検索することが可能になり、和名はアオアジノエとされていること、これまでに三重県でも確認されていることなどがわかりました。一方、これまで知られている情報と比べて、アオアジノエと宿主であるマルアジがいずれも小さいこと、それにもかかわらずアオアジノエが成熟していたことは、アオアジノエの生態を明らかにしていくうえで重要な情報と考えられます。
(2014年2月18日掲載 資源開発管理研究課)
参考:齋藤暢宏.2009.”アオアジ”のエ.Cancer,28:7-9