ベニテグリ(あかごち)の天ぷら
底びき網漁業は漁船から伸ばしたワイヤー等に連結した漁網を曳航する漁法で、三重県南部の沖合底引き網のさかなは秋から春にかけて水揚げされ、多くは深海性の魚でアカザエビ類(手長えび、スカンピ)やアンコウなど多種多様です。これらの魚の多くはそのおいしさがあまり知られておらず、比較的お手頃で取引されています。
さて、今回の主役はその中でも筆者おすすめの魚、ベニテグリです。
ベニテグリ(尾鷲産)
ベニテグリは、スズキ目ネズッポ科に属する「めごち」の一種。深海性なので色は鮮やかな朱色です。
体長は大体25cmまでで、天ぷらネタにすると鮮やかな色と大きな鰭がとても映えます。下処理をして、天ぷらネタでいう松葉の形にしましょう。
他のメゴチ類にはない特徴としてぬめりがなく扱いやすいことが上げられます。
身質はむっちりとしていて弾力があり、噛み締めるとジワッと肉汁が広がる等、まるでフグのよう。
頭を落として松葉にすれば天ぷらネタのできあがり!
天ぷらの作り方
・調理した魚の身に軽く塩を振り、10分くらい下味を付ける。
・にじみ出た水を捨て、水道水で簡単に水洗いした後キッチンペーパーなどで水を取り除く。
・小麦粉をうすくふりかけ、なじませておく。(衣が薄い方が好みの人はこの工程は省いてください)
・尾鰭を持って、身を衣にくぐらせ、油の中に投入する。(160~170℃位)
・きつね色になったら完成
なお、小麦粉を米粉にかえるとパリッとした食感になります。米粉は製菓用の細かいものをお使いください。
卵は、メカブ、アカモク、ガゴメコンブ、モズクなどフコイダンを含む海藻を水戻しして濾したネバネバの液でも代用ができます。フコイダンは加熱すると粘性がなくなるので、パリッとした食感になります。
個人的に天ぷらネタとして最高の部類に入ると思うのですが、漁獲量が安定していないこと、知名度がないこと等から国内で広く流通することがあまりありません。沖合底引き網の水揚げ市場がある尾鷲等の地元で手に入るだけの希少な魚だそうです。価格も魚のおいしさから考えても「不当」に安く、筆者が入手した日にはキロ当たり650円でした。さかな屋さん曰く、その日は特に水揚げが少なく通常の2-3倍の値段であるとのこと。普段の値段の安さに驚かされます。
おいしい魚が安い値段で手に入ることは消費者としてとてもうれしいことです。しかし、燃油の高騰等による経営難により離職される漁業者が後を絶たない現状を鑑みると、ベニテグリのような価値のある魚がお手頃すぎる価格で売られているのが残念に思います。皆さんが魚の価値を認めてその魚に対するニーズが生じれば、必然的にその価値に見合った価格に落ち着くはず。もっともっと高値がついても不思議でない魚なのです。
水産研究所は、魚の価値を向上させるための研究を行い、おいしい魚を市民の皆さんに知っていただく活動を行っています。(そしていつかこの魚が適正な価値に評価されることと思います。それまではお得な価格を楽しんでください!)
( 水産資源育成研究課)