おさかな雑録
No.90 ミナミワニギス 2013年10月4日
みたことのない大きさも道理
ミナミワニギス 標準体長97mm 南伊勢町贄浦産 平成25年10月3日撮影
まき網の乗組員さんにほいっと渡された魚。明らかにワニギスの仲間ですが、見慣れた大きさではありません。「見たことのない大きさのワニギスが手に入った」と大喜びでその後いくつか拾い集め、ほくほくして研究所に帰りました。で、写真を撮ろうとして背鰭や尾鰭の黒い部分が気になったのですが、「大きい個体はこういうふうになるのかも」ときちんと調べることなく、写真を撮り始めました。
ところが、大小の個体を並べてみると明らかに違和感がありました。
ミナミワニギス、ワニギス 南伊勢町贄浦産 平成25年10月3日撮影
ミナミワニギス、ワニギス 背面 南伊勢町贄浦産 平成25年10月3日撮影
上に並べた4個体と、下の5個体とは尾鰭の模様に明確な違いがあります。また、背面から見ると前者は背鰭が黒く、後者は黒くありません。調べてみたら前者はミナミワニギスという別種で熊野灘での記録がなく、道理でこれまで見たことがないはずでした。
ミナミワニギスは、腹部が鱗に覆われること、背鰭が黒く、尾鰭に黒い模様があることで区別できます。
ミナミワニギス 腹部側面 標準体長80mm 南伊勢町贄浦産 平成25年10月3日撮影
ワニギス腹部側面 標準体長80mm 南伊勢町贄浦産 平成25年10月3日撮影
ワニギスは、腹部に広い無鱗域があること、上顎の先端近くに2つの切れ込みがあることで区別できます。
吻部背面 ワニギス(左)標準体長80mm ミナミワニギス(右) 標準体長83mm
南伊勢町贄浦産 平成25年10月3日撮影
さて、見たことのない大きさのワニギスは別種ということで一件落着。とはいきません。何せ、ワニギスは熊野灘における重要な餌生物で、ゴマサバの胃内容物中に頻繁に出現します。これまで、消化された魚体も耳石を使って同定してきている手前、この別種が耳石で区別できないと問題です。早速耳石を取り出して比べてみました。
扁平石 ミナミワニギス(上) 標準体長83mm ワニギス(下)標準体長80mm
南伊勢町贄浦産 平成25年10月3日撮影
上の写真のとおり、ミナミワニギスと、ワニギスの耳石は形が異なっており、ワニギスの方が耳石が大きく、より細長いことがわかりました。そして、これまで見慣れている耳石は後者のワニギスと一致します。やれやれ、これでようやく一安心。巨大ワニギス入手の喜びから、あわやこれまでのデータが台無しになるというピンチに急展開した一日でしたが、無事に貴重なデータを追加することができました。
(2013年10月4日掲載 資源開発管理研究課)