おさかな雑録
No.85 黒潮 2013年6月14日
黒潮ってどんなところ?
黒潮は日本の太平洋側を流れる海流で、沿岸域よりも水温が高く、紀伊半島の沖合では東向きに強い流れとなっています。黒潮は栄養分やプランクトンが少なく、それ自体が沿岸水とは大きく異なる性質をもっているだけでなく、高い水温や強い流れによって沿岸水にも影響を与えるため、沿岸から沖合域を生活の場とする海の生き物に大きな影響を及ぼすことがあります。したがって、古来より漁業者はその動向に注目し、今や黒潮の情報は漁業にとってなくてはならないものとなっています。どこをどのように黒潮が流れているのか、人工衛星の画像では黒潮の流路がはっきりと認識できることがありますが、それは温度を色に変換しているから。黒潮と言っても海水であることに変わりはなく、温度を見ることができない人間の目ではその境界を認識することは簡単ではありません。
人工衛星による海面水温分布画像(複数画像の合成) 平成25年5月8日撮影
当研究所では、沿岸定線観測を行っており、原則として調査船「あさま」は毎月黒潮域まで航海しています。今いる場所が黒潮であるかどうかは表面や水深200mの水温、流れなどのデータを確認すれば比較的簡単に判断できますし、毎月調査している研究員や調査船の乗組員たちにとっては珍しくもないことなので、「黒潮を目で見る」ことについては特段の意識を払っていなかったところでした。しかし、新しい博物館が展示資料の収集のため、黒潮の写真を入手したいと再三乗船し撮影に挑戦していることから、今回改めて黒潮を見つめなおしてみました。撮影については素人ですが、画像には確かに黒潮が写っているはず。たくさんの写真を並べてみましたのでじっくりとご覧ください。
10時7分 流向96°流速1.5ノット 平成25年6月4日撮影
もうそろそろ黒潮と思われるとき、上のような帯状の模様が海面に見えました。これはと思って撮影したのですが、流速が黒潮の半分ほどしかありません。これは単なる潮目(性質の異なる水塊の境界)で、黒潮との境界ではないと判断されます。
10時10分 流向111°流速1.6ノット 平成25年6月4日撮影
今度は前方に黒っぽい海域が出現。こんどこそと思ってシャッターを切りましたが、流速は変わりません。今度も黒潮の境界ではなかったようです。
10時16分 流向105°流速2.1ノット 平成25年6月4日撮影
そうこうしているうちに流速が増えてきました。すでに黒潮との境界に突入しているようなのですがそれと示すような模様はありません。強いて言えば、前の画像と比べて波が荒くなり、すこし波の頭が白くなっているところがあります。実際に乗船していると、黒潮域では船の揺れ方が変わり、より大きな力で揺さぶられるように感じますが、これは乗っていないとわからないこと。写真では伝えきれません。この後、あれよあれよというまに流速が増し3分後には3.1ノットに達しました。
10時37分 流向92°流速3.2ノット 平成25年6月4日撮影
ここは黒潮の真っただ中。しかし、当たり前といえば当たり前ですが、画像を見ただけでそれとわかるようなものではありません。次は、黒潮域からの脱出時に再挑戦です。
12時22分 流向92°流速3.2ノット 平成25年6月4日撮影
まだ黒潮域にいる状態。黒潮域、それも境界付近は波が荒いようです。
12時22分 流向92°流速3.2ノット 平成25年6月4日撮影
今度は前方を撮影。比較的波の静かな海域が近づいています。
12時23分 流向76°流速2.6ノット 平成25年6月4日撮影
流速が急に低下し、波も穏やかになりました。この2分後には1.3ノットに低下し黒潮域から脱しました。結局、これが黒潮だという境界を示すことは難しいということになりましたが、改めて、黒潮域では波が高くなるということを目の当たりにしました。黒潮域では水深200m以上の厚みを持った強大な流れがあり、そのパワーはやはりすごいということが実感できました。
なお、今回は乗船しなかった博物館の挑戦はまだ続くようです。熱心な学芸員さんたちの成果については、開館後に実際に行って確かめてみてはいかがでしょうか?
(2013年6月14日掲載 資源開発管理研究課)