おさかな雑録
No.84 ネズミギス 2013年5月30日
変だ。口が変だ
平成25年5月14日のこと。トラフグ産卵調査でのそりネットに、ネズミギスが入りました。ネズミギスという魚を知ってはいたものの初めて見る筆者は、その異様な形態に度肝を抜かれました。何が変って、口が変なんです。
ネズミギス 標準体長25㎝ 安乗沖産 平成25年5月14日撮影
普通、図鑑では上のような写真が掲載されます。筆者のイメージもこれで、横あるいは上から見たネズミギスは、特徴的ではありますが、特段変だとは思っていませんでした。それが、バケツの中で泳いでいたネズミギスを撮影のため横たえたとき、暴れてあおむけになった途端、鳥肌が立つほどぞっとしました。
ネズミギス 標準体長25㎝ 安乗沖産 平成25年5月14日撮影
この魚、口の形が尋常ではありません。いままでいろいろな形の口をみてきましたが、これほど違和感を感じたことはありませんでした。魚の口はふつう、上下一対の顎によって形づくられます。そして、両顎は同じような形をしていて、程度の差はあれ、閉じることができます。ところがネズミギスは口を閉じていても丸い開口部を持っていて、まるで魚ではないようにも見えてしまいます。赤矢印はネズミギスの特徴とされる一本のひげで、多くの魚では左右対称に配置されるためにきわめて特徴的ですが、このときは口の形の衝撃のあまり意識から飛んでしまいました。
ネズミギス 標準体長25㎝ 安乗沖産 平成25年5月14日撮影
次にネズミギスが口を開くと、幾分違和感が緩和されましたが、上下両顎の形はやはり変です。砂地にすむネズミギスにとっては、砂の中から食べ物を探すためなど、この形にも合理的な理由があるのかもしれません。しかし一方で、同じように口が下側についている魚はいくつも知っていますが、こんな顎の形は見たことがありません。どうしてネズミギスはこんな形の口になってしまったのか。またひとつ、筆者の中で海の不思議が増えてしまいました。
(2013年5月30日掲載 資源開発管理研究課)