今 旬の魚 寒ブリ
ブリは、成長に応じてモジャコ、ツバス、ワラサ、ブリと呼び名の変わる出世魚として知られています。(地方によってはハマチ、フクラギ、ワカシなどの呼び方もあります)。ワラサより約一年成長したものがブリと呼ばれ、特に冬場に脂が一段と乗り旨味が深まります。三重県では熊野灘に面した外洋域で、定置網などにより漁獲されます。刺身、塩焼き、照り焼きなど、定番の料理をあげればきりがないほどですね。
切り身で売られることも多いのですが、できることなら一度は新鮮なブリを一本丸のまま購入してみましょう。ウロコを丁寧に取り除いて3枚におろし、中落(なかおち)などを除いた後にフィレはぴっちりとラップし、冷蔵庫に1~2日保存しましょう。新鮮なものをすぐに食べることもよいのですが、しばらく保存することで引き出される熟成されたおいしさがあることも知ってほしいと思います。
魚はもともと筋肉、つまりたんぱく質の塊です。締められた後に筋肉の硬直が始まり、身はカチカチになります。コリコリとした身を味わうのは硬直中がよいのです。しかし、硬直の身には旨味成分は多くありません。硬直が解けるのと同時に、筋肉のたんぱく質が徐々にほぐれるのと同時にATP等の核酸が分解されてイノシン酸などの旨味成分が出てきます。この熟成により引き出された旨味を存分に味わっていただきたいものです。コリコリ感を楽しむのなら比較的お値打ちな脂の少なめなワラサやハマチを選んでいただき、大きなブリは少し寝かせて旨味を引き出した状態で旨味と脂の調和を楽しんでいただきたいと思います。
さて、一本をさばいた当日には前述の理由で身を食べるのはおすすめしません。その代わり、たっぷり出る頭や中骨を使って、アラ炊きやブリ大根はいかがでしょうか。アラは鮮度が低下すると特有のにおいが出てしまいますので、鮮度のよい間に加熱調理をして、骨の周りからでるゼラチン質のおいしさを堪能してください。アラ炊きには、ショウガを入れて臭み抜きをするのが一般的ですが、新鮮なブリであればあえてショウガを入れず、炊いてみてはどうでしょうか。アラは薄い塩水につけると血が抜けるので、その後アラを一度湯通しして、その後流水で内臓片、ウロコや鰓などを丁寧に取り除いてください。そうすることで、魚の臭みがかなり取り除けます。なお、魚の目玉の周りには、コラーゲンだけでなく、DHAも豊富に含まれています。残さずに食べましょう。内臓、特に胃袋もコラーゲンの塊でコリコリしていておいしいのです。よく水洗いをしてさっとゆでてさらに流水で洗い、酢の物にするのが筆者のお気に入りです。
胃袋の酢の物 白子のムニエル さて、1~2日寝かせたフィレは、いよいよ旨味が引き出されてきました。刺身として、濃厚な味わいを楽しんでもよいですし、さっぱり食べるには、フィレを斜めに薄く削ぎ切りにして、ブリしゃぶにしてみてはいかがでしょうか。煮立たせないように注意しながら昆布出汁で表面がさっと白くなった程度で取り出し、ポン酢と大根おろしで食べると、ワラサなどでは味わえないブリの醍醐味が楽しめます。鍋物に白菜は定番ですが、ブリにはあえて白菜を使わず、レタスをお試し下さい。レタスの爽やかな軽い苦味がブリの濃厚な脂を洗い流してくれて、さっぱりとした後味になります。なお、しゃぶしゃぶの後には雑炊にしてぶりの出汁を残らず味わうことを絶対に忘れてはいけません。
調理する上で、たいてい小さな肉片が出てしまいます。これらは捨てずに醤油とお酒に数時間から数日漬けておき、お茶漬けにしましょう。ブリは頭の先から尻尾の先まで楽しめる魚です。くどいようですが、一本のまま買っておいしさを堪能してください。