おさかな雑録
No.83 シマハナビラウオ 2013年5月7日
ようやく出会えた
平成25年4月2日は筆者およびおさかな雑録にとって記念すべき日になりました。前回のテラオクルマ幼生と、このシマハナビラウオに一度に出会えたのですから。これらはいずれも産業的価値はそれほど大きくないと思われますが、筆者はぜひ出会いたいという強い願望をもっていた生き物たちでした。しかも、この魚は落ちている氷をもらおうと拾いあげたときに、その下敷きになっていたものを発見したので、本当に「めっけもん」という印象が強まりました。
シマハナビラウオ 標準体長7㎝ 南伊勢町贄浦産 平成25年4月2日撮影
シマハナビラウオはエボシダイ科に属します。エボシダイ科の多くの種では、幼魚は表層でクラゲなどに付随した浮遊生活を送り、成魚は深海で暮らすことが多いようですが、シマハナビラウオは採集例が少なく、生態もよくわかっていません。筆者も4年間の研究員生活でエボシダイ科の幼魚をしばしば見かけましたが、シマハナビラウオにはお目にかかったことがありませんでした。そのうえ、下に紹介するクラゲウオと一度ならず見誤ったことがあり、なんとしても本物をこの目で見たいと思っていました。
シマハナビラウオ 標準体長7㎝ 南伊勢町贄浦産 平成25年4月2日撮影
シマハナビラウオは、頭部背面の被鱗域は両眼間隔域に達すること、頭部背側面の無鱗域(赤い線で後方部の輪郭を表示)は鰓蓋上部に達することで、クラゲウオ以外のエボシダイ科魚類と区別できます。
クラゲウオ 標準体長9㎝ 南伊勢町奈屋浦産 平成24年6月8日撮影
そしてクラゲウオとは、吻がやや長いこと、側線鱗数が多いことが区別の決め手とされていますが、吻が長いかどうかは2種を見比べないとはっきりしないうえに、エボシダイ科の幼魚と成魚では体型や色が大きく変化するため、これまでに大きさの異なるクラゲウオの幼魚をシマハナビラウオだと思って拾い上げたことが何度もありました。
今回、ようやく両種を見比べることができて、それぞれの特徴を把握することができました。幼魚の時期に限られますが、クラゲウオはシマハナビラウオに比べて、体が丸く、背鰭軟条、腹鰭、臀鰭軟条が長いといえます。特に腹鰭が臀鰭始部を大きく超えること、背鰭と臀鰭の後端が下尾骨後端(標準体長の後端位置)を超えることは両種を区別するのに有効な特徴と考えられます。いつも感じることですが、図鑑などの情報では得られない多くのことが、標本を見比べることで明らかになります。おかげでこれからはシマハナビラウオとクラゲウオを見間違えなくてすみそうです。
(2013年5月7日掲載 資源開発管理研究課)