おさかな雑録
No.82 テラオクルマ 2013年4月11日
青い幼生
定置網は先週に引き続きクラゲの選別に苦労していました。漁業者に尋ねるとクラゲの量は先週より増えているのではないかとのこと。その選別場所に見慣れない小さなエビが落ちていました。見つけたときは特に何ということもなく、とりあえず持ち帰ったのですが、研究室で改めて見てハッとしました。目の覚めるような青い体。体型はクルマエビ類。3年前に聞いた「テラオクルマの幼生は青く、外洋で浮遊している。」という情報が鮮明によみがえりました。
テラオクルマ 頭胸甲長 10mm 南伊勢町贄浦産 平成25年4月2日撮影
早速標本を詳しく観察したところ、やはりテラオクルマの幼生であることがわかりました。テラオクルマはクルマエビ属に属し、以下の特徴により同属他種と区別できます。
テラオクルマ 頭胸甲長 10mm 南伊勢町贄浦産 平成25年4月2日撮影
額角側溝(赤矢印)は長く、額角後方隆起の末端とほぼ同じ位置に達します。
テラオクルマ 頭胸甲長 10mm 南伊勢町贄浦産 平成25年4月2日撮影
尾節には通常3本の可動棘(赤矢印)があります。この個体には4本の棘がありますが、もっとも付け根側の1本は可動かどうか確認できませんでした。
テラオクルマ 頭胸甲長 10mm 南伊勢町贄浦産 平成25年4月2日撮影
額角下縁には2本の棘(赤矢印)があります。以上のように、この個体は幼生ですが成体と同じ特徴によって同定が可能でした。
テラオクルマ 頭胸甲長 50mm 南伊勢町奈屋浦 平成22年1月15日撮影
こちらは3年前にまき網で漁獲された成体のテラオクルマです。4年間の市場通いでお目にかかったのは後にも先にもこの時だけなので、比較的珍しいエビであると思われます。当時初めて見るエビが獲れたと問い合わせたのが中央水産研究所の阪地英男博士で、その時に冒頭の情報を教えていただきました。その時以来、プランクトン調査で見つからないかと期待していたのですが、よもや定置網でお目にかかるとは、思ってもみませんでした。改めて幼生と並べてみると、確かに情報通りではありますが、本当によく似ていない「親子」です。色だけならまるで反対で、事前の情報なくしてはこの出会いはなかったかもしれません。阪地博士にはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
(2013年4月11日掲載 資源開発管理研究課)