おさかな雑録
No.69 テングハギ 2012年6月4日
寄らば切るぞ
テングハギ 標準体長38cm 南伊勢町奈屋浦産 平成24年5月31日撮影
まき網の選別場所へ向かうと、何人かが選別台から手招きしています。「珍しい魚があるから」とのこと。見ると確かに見慣れない魚の姿があります。
テングハギ 頭部 標準体長38cm 南伊勢町奈屋浦産 平成24年5月31日撮影
まず、印象的なのは頭部にある角(つの)状の突起です。これだけで、ただものではない雰囲気を漂わせています。このような魚はそうはいません。なので、名前の見当も比較的簡単で、すぐにテングハギの類と思い当たりました。
現場に居合わせたまき網関係者のみなさんは、はじめて見る魚で、しかも大変印象深い外見のため、「これは大変珍しい魚に違いない、新種ではないか」と話が盛り上がりかけていましたが、筆者が「たぶんテングハギで、確かに頻繁には見ないが、珍しいというほどでもない。」と答えると多少がっかりした様子でした。
さて、問題の魚、持ち帰って調べると、角状の突起があること、尾鰭は後縁のみ白いこと、角状突起の腹側の付け根から上顎先端までの距離は、同じ点から眼の前縁までの距離より長いこと、体側背部は隆起しないことでテングハギと同定されました。
なお、ハギと名がつくとカワハギの仲間かと勘違いしそうですが、こちらはニザダイの仲間で、分類学的にはそれぞれフグ目とスズキ目に属し、かなり縁遠い間柄です。
テングハギ 尾柄部腹面 標準体長38cm 南伊勢町奈屋浦産 平成24年5月31日撮影
テングハギ、それほど珍しい魚ではないと言っておきながら、筆者もしげしげと眺めるのは初めてでした。そして実物に触れて改めて印象に残ったのが尾柄部にある鋭利な骨質板です。大きく、硬く、鋭い刃物のようなものが4個もついています。英語では外科医のメスを持つ魚と呼ばれる理由がはっきりと理解できました。
額の角といい、尾柄部の鋭い刃といい、おそらくは身を守るためや餌をとるため、他の生き物に対して武器となるように進化した形質と思われます。しかし、いったいどういう相手に対してどう使うのか、いろいろ想像はしてみるものの、なかなかこれといった見当がつきません。
本当の理由はさておき、ギラリと光る刀を身構えて凄みを利かせる侍の雰囲気を感じてしまったのは、幼い頃に見たテレビの影響でしょうか・・・。
(2012年6月4日掲載 資源開発管理研究課)