おさかな雑録
No.46 アミ類の一種 Lophogaster japonicus 2011年5月19日
エビではなかったのか・・・
Lophogaster japonicus 体長24mm 安乗沖海底産 平成23年5月2日撮影
写真の甲殻類は、トラフグの産卵調査で砂や砂利と一緒に採取されたもので、横幅があり、殻が固くがっしりとしています。2009年の同調査で初めてこの生き物をみたとき、変わったエビだなと思い、いくつかのエビ類の図鑑を調べましたが全く見当がつきませんでした。
その後も何度かチャレンジしてみたものの進展がなく、3年後の先日も生きた個体を目前にして頭を抱えていたところ、「これはエビではなくて、アミとかオキアミの類ではないのか」との同僚の一言がまさに光明でした。改めて顕微鏡で観察したところ、確かにアミ類の特徴を備えています。そして海洋プランクトンの図鑑を調べたところ、直ちに種の同定に至りました。
ロフォガスター属の特徴は、尾肢内肢に平衡胞を欠くこと、育房をもつこと、背甲の前縁は幅広く3本の突起を備え、目の一部を覆うこと、背甲後側隅は棘となり後方に伸びることです。
背甲の特徴から、この生き物はロフォガスター属に属することがわかります。
Lophogaster japonicus 体長24mm 安乗沖海底産 平成23年5月2日撮影
日本で確認されているロフォガスター属は2種であり、それらの区別には、第一触角先端内側の葉状片(上写真の矢印1)と、第二触角鱗片外縁(同矢印2)をみる必要があります。頭の先にあるごちゃごちゃしたところを拡大すると、
Lophogaster japonicus 体長24mm 安乗沖海底産 平成23年5月2日撮影
写真中央に見える第一触角先端内側の葉状片には一つの棘と一つの山が見えます。
Lophogaster japonicus 体長24mm 安乗沖海底産 平成23年5月2日撮影
さらに、第二触角鱗片外縁には3本の小棘がみえます。これらの特徴から、この生き物はロフォガスター属の中でも、Lophogaster japonicusという種であると同定されます。この種には和名がつけられていないため、いささか読みにくい表記になりますが、アミ類やオキアミ類では特に珍しいことでもありません。日本語でできるだけ詳しく表記するなら、ロフォガスター属の一種ということになるでしょうか。
Lophogaster japonicus 体長24mm 安乗沖海底産 平成23年5月2日撮影
この個体は雌で育房が大きくふくらんでおり、育房内には胎仔が確認できました。
Lophogaster japonicus 育房内の胎仔 体長約4mm 平成23年5月2日撮影
Lophogaster japonicus 安乗沖海底産 平成23年5月11日撮影
生きているLophogaster japonicusは、水槽内では底面に接するように定位し、時折底面を掻くような動作がみられます。ひょっとすると砂に潜るような生態を持っているかもしれません。
図鑑によると、Lophogaster japonicusは駿河湾、土佐湾の100~400mの海底付近から採集例があります。今回はそれよりも浅いのですが、海底での採集は共通しています。
2011年5月12日 奈屋浦水揚げのゴマサバ胃内容物
Lophogaster japonicusは、ゴマサバの胃内容物中にも出現します。この生き物の名前がわかったことで、重要な資源生物であるゴマサバの食性や摂餌生態についても重要な情報が加わりました。
(2011年5月19日掲載 資源開発管理研究課)