おさかな雑録
ところ変われば人変わる
スジアラ 南伊勢町奈屋浦産 平成23年1月7日撮影
奈屋浦の市場で魚屋さんに声をかけられました。「あの水槽に泳いでいる魚、何?」。一目見て、ハタ科であることがわかり、そして自分にはそれ以上のことがその場で断言できないことを悟りました。「たぶん、「ます」の仲間だと思うんだけど」。と魚屋さんに言われ頷くことしかできません。ハタ科の魚はお互いに特徴がよく似ている上に多種多様で、さらに滅多にお目にかかれないため、日頃から非常に覚えにくいと感じていました。できれば一人でこっそりじっくり観察したかったところでした。
スジアラ 南伊勢町奈屋浦産 平成23年1月7日撮影
しかし現実はというと、魚屋さん達がどやどや集まってきて井戸端会議が始まっていました。「これ、このあいだテレビで見たぞ。「あかみーばい」とか何とかいう、沖縄で高級魚らしい。」「おう、それやそれや。」とだんだん話が盛り上がってきます。
ハタ科の魚は温暖な海域では種数が増え、沖縄ではこのあたりよりずっとたくさんの種類を見ることができます。この地域ではハタ科の魚を何でも「ます」と呼ぶように、沖縄では「みーばい」と呼び、やはりどちらの地域でもハタ科は高級魚とされています。なかでもスジアラは「あかじん」と呼ばれ特別扱いの超高級魚であるという知識はあるものの、情けないことにきっちりとした姿が頭に浮かびません。苦し紛れに、「スジアラという高級魚があるが、この魚がそうとは言い切れない。よく似ているが尾鰭の形がちょっと違うように思う。」とお茶を濁すのが精一杯でした。
スジアラ 南伊勢町奈屋浦産 平成23年1月7日撮影
で、写真を撮って帰ったわけですが、調べるとすぐにスジアラであることが分かりました。スジアラの特徴は、尾鰭後縁が湾入すること、胸鰭が淡色であることです。よもや大本命の超高級魚に遭遇できるとは思っていなかっただけに、うれしい誤算といえば聞こえはよいですが、自分の放った苦し紛れの返答はお粗末の一語に尽きます。毎週魚を触らせてもらっている研究者として、歩く魚図鑑を目指してはいるものの、道はまだまだ遠く険しいといわざるを得ません。
さて、このスジアラですが、おそらく単に「ます」として売られていったことでしょう。沖縄ではスターでも、滅多に訪れることのない南伊勢では主役はおろか、名前も知らない端役扱いになってしまいました。同じ品でも、ところ変われば、人変わるといったところでしょうか。
(2011年1月19日掲載 資源開発管理研究課)