おさかな雑録
「いわし」であって、「いわし」でない
マイワシ(上)、カタボシイワシ(下) 南伊勢町贄浦産 平成22年12月24日撮影
定置網の漁獲物を測定していたとき、マイワシに変な魚が混じっていることに気がつきました。マイワシのような斑点がなく、体も比較的側扁しています。この魚を見て、ちょうど一年前、まき網の選別場所で声をかけられたことを思い出しました。「変ないわしが獲れた。これ、何という魚?」。当時の自分が答えて曰く、「平子(ひらご、マイワシのこと)ではないですね。たぶんサッパだと思います。」
サッパ 標準体長11.1mm 志摩市波切産 平成22年12月28日撮影
これがサッパ。マイワシに比べ強く側扁し、体型はむしろコノシロに近い魚ですが、十数cm程度でマイワシやコノシロほど大きくなりません。瀬戸内では「ままかり」として有名な魚です。
カタボシイワシ 標準体長15.6cm 南伊勢町奈屋浦産 平成21年12月25日撮影
で、これがカタボシイワシ。平成21年当時は、この魚を見てサッパではないかと思ったわけです。これら2種の魚は、見比べれば一目瞭然、明らかに違いますが、カタボシイワシだけを目にした担当は見事に誤った答えを導き出しました。その理由は、カタボシイワシはおろか、見慣れているはずのサッパについても「模様がなくて平べったくて小さいいわし」というおぼろげな情報しか頭に入っていなかったためです。魚を標本にいただき、持ち帰って種名が分かったときの感動と恥ずかしさは今も忘れられません。
カタボシイワシ 標準体長15.6cm 南伊勢町奈屋浦産 平成21年12月25日撮影
カタボシイワシは腹鰭が9軟条であること、背鰭前方の鱗は正中線上に並ばないこと、臀鰭最後の2軟条が伸長すること、主鰓蓋骨に骨質条線がないことで、マイワシをはじめ、いわし類各種と区別することができます。
マイワシ 志摩市波切産 平成22年12月28日撮影
ちなみに、マイワシも鱗がきちんと残っていると光の加減で斑点が見えないことがあります。マイワシの特徴は主鰓蓋骨に骨質条線があることで、写真ではわかりにくいですが、実物だとすぐに分かります。したがって、体の斑点よりも頭を見る方が確実に区別することができます。
「いわし」といえば普通マイワシを指すと思われがちですが、地方によってはカタクチイワシのことを「いわし」と呼ぶこともあります。また、今回の例のようにちょっと珍しいいわし類も、広い意味では「いわし」ということができます。「いわし」という言葉で頭に浮かぶ魚は、極端にいえば人それぞれ。「いわし」であって、「いわし」でない魚も、やはり人それぞれということになるでしょうか。
ともあれ、「いわし」は私たちにとって海の恵みを象徴する、とてもありがたい魚達です。見慣れているはずの「いわし」の姿、一度じっくりとご覧になってはいかがでしょうか。
(2011年1月5日掲載 資源開発管理研究課)