おさかな雑録
そのヨシノボリ,ナニヨシノボリですか?
ようやく自分で採集できた『トウカイヨシノボリ』です。図鑑やWEBを見るのと違い,現物を採って・見て記憶に焼き付けることは,知識を吸収する点で全然違います。 水産有用種は当たり前,希少魚や環境に関する調査もあるので,その知識も研究員は必要となります。
オス 平成22年9月6日撮影
秋の週末,指導員役として参加した溜池のボランティア調査で採集しました。どこにでもある市街地近くの溜池です。“普通のトウヨシノボリと違うなぁ,これがトウカイヨシノボリか?”と感じたものの,自信がない私。「ヨシノボリ類とまでしか分からないので専門家に聞いてみます。」と説明し,生きたまま持ち帰り,岐阜大・向井先生と三重大・淀先生に同定を依頼しました。答えはトウカイヨシノボリ。今まで間違えが多く,恥ずかしい思いをしていたので,”嬉しい!ようやく・・・”といった感想でした。
淡水域の代表的なハゼであるヨシノボリ類の分類は難しいんです。ちなみに日本には15種のヨシノボリ属が報告されています。実はフィールドで正確に同定するのは大変なんです。体色が,容器の色や魚の興奮具合,さらに繁殖期・非繁殖期で変わりやすいことも要因の一つです。
メス 平成22年9月6日撮影
多くのヨシノボリ類は,海を生活史の一部とする両側回遊性ですが,近年,その陸封個体群ではなく,一生を湖沼や池沼など止水域で生活する種が知られてきました。これが厄介な存在になりつつあります。少し前まで『トウヨシノボリ縞鰭型』とされていたものから,DNAや形態・模様の精査により,『ビワヨシノボリ』と『トウカイヨシノボリ』,さらに最近になって『シマヒレヨシノボリ』が独立種として分けられようとしています。
*両側回遊:普段は川で生活,産卵も生まれも川だけど,生活環の一部で一旦海に降り,再び川をさかのぼるもの。有名なのはアユ。
*陸封:かつては通し回遊(川と海をめぐる回遊)をしていたが,回遊を行わなくなったり,海の代わりに湖などで回遊するようになったもの。有名なのは琵琶湖のアユ。
三重には『トウカイヨシノボリ』だけではなく,『シマヒレヨシノボリ』も生息しているようです。交雑もあるようなので,更に悩ましいヨシノボリがいることになります。市民による調査や観察会レベルでは『ヨシノボリ類』でまとめてもいいけど,研究機関による調査ではそうもいかない場合も・・・。悩みの種が増えちゃいました。どれも大きくならないから,観察しにくいんです。どこにでもいる身近なヨシノボリでこれほど苦労させられるとは,トホホです。
春になると水に親しむ機会も増えます。ヨシノボリは簡単に採集できます。1種類と思っていても,何種類も混じっていることがあるので,プラケースの横から眺めてみて,観察してみてはどうでしょう。
(2010年12月16日掲載 鈴鹿水産研究室)