第5回国際アワビシンポジウムに参加して
水産研究部水産資源育成グループ 研究員 竹内泰介
シンポジウムの名称 | 5th International Abalone symposium (第5回国際アワビシンポジウム) |
---|---|
シンポジウムの概要 | 当シンポジウムは3年に1度,世界中のアワビ類研究者が集まり,研究成果の発表,技術課題に関する議論を行なうことを目的に開催されています。 |
日時 | 平成15年10月12日~10月17日 |
場所 | 中華人民共和国山東省青島市 |
主催者 | 中国海洋大学 |
シンポジウムの開催されたFUAN HAI Hotel |
シンポジウムが開催された青島市の人口は750万人と中国では中規模の都市です。会場となったFUAN HAI Hotel (黄海飯店)は市中心部からバスで20分程度の静かな住宅地に立つホテルで,会場は広く落ち着いた雰囲気で参加者同士がリラックスして交流できるよう配慮されていました。 |
参加者は中国58名,オーストラリア38名,メキシコ26名,その他チリ,ニュージーランド,アメリカ,南アフリカ,タイなど17カ国から,総勢226名と世界中から研究者が集まり,まさにアワビに関する最大の国際会議でした。日本からは大学,独立行政法人水産総合研究センター,宮城県や千葉県など水産試験場,企業の方々など総勢25名のメンバーが参加し,アワビに関する日本の関心の高さを実感しました。会議では109件の口頭発表,60件のポスター発表があり,多くの研究者の方々の先端の研究成果を知ることができました。
私は会議2日目に 「The effect of salinity on survival of fertilized egg, veliger and juvenile of Japanese abalone, Haliotis discus discus and H. gigantea:クロアワビとメガイアワビの生残に及ぼす塩分の影響」について発表しました。県内で産する2種のアワビの初期生活史において,卵や浮遊幼生は低塩分に対する耐性が低く,着底後には塩分耐性が大幅に高まることを明らかとしたこと,鳥羽地区の塩分データとアワビ類の塩分耐性から,当地区における天然のアワビ類の減少原因として伊勢湾から流入する低塩分海水の影響は可能性が低いと考えられたことなどを報告しました。 |
シンポジウム会場にて |
基調講演されたH. Roy Gordon氏によれば,「現在世界中でアワビ類の資源量の減少が起こっている。世界各地で養殖が盛んになったことにより2002年には22,760トンと総水揚げ量は増加しているものの,世界のアワビ類の天然資源の漁獲量は,現在かなり減少しており,問題となっている。」とのことです。またアワビ類の資源減少原因に直接言及した発表として,P. L. Haaker氏らは,エルニーニョなど地球規模の温暖化にともなう海水温の上昇がアワビ類の活力低下や疾病の増加を引き起こし,その結果アワビ類が減少している可能性がある,と発表しており,興味深い報告であると感じました。この研究は現在三重県で行なっているアワビ類の資源と環境に関する研究と関連しているため,意見交換等を行なっていきたいと考えています。またポストシンポジウムツアーや,会議の合間にはアワビの減少に関する仮説について多くの検討を行なうべきだと,オーストラリア,タイなどの研究者と意見交換ができ,交流を深めることができました。現在水産研究部で研究を進めているアワビ類の生態については,オーストラリアなどの外国が詳しい研究を行ない,たくさんの興味ある研究を蓄積しています。これら海外の進んだ研究を取り入れて,研究部における研究内容の充実を図っていきたいと考えています。
会場から見た青島市街中心部