育成期におけるマハタのウイルス性神経壊死症の病理組織像
平成14年度日本魚病学会大会講演要旨P32(2002年9月15日)
田中真二(三重科技セ)・高木みづほ・宮崎照雄(三重大生資)
目的
ウイルス性神経壊死症(VNN)の病理組織像については,仔稚魚期の魚に関する報告はあるが,育成期の魚についての詳細な報告はない。本報では,育成期に本症が多発するマハタの病理組織学的観察の結果および感染実験によるウイルス感染経路解明の試みについて報告する。
方法
1994~2002年に三重県内で採取した体重45~1,400g(0~3歳)のマハタ病魚を用い,常法に従って病理組織学的観察および電子顕微鏡観察を行った。感染実験では自然発病魚の脳と眼球の磨砕濾液をウイルス源とし,これを260-400gのマハタの鼻腔に注入し,10分間静置して感染させた後,水温28℃で経過を観察した。
結果
本症の発生は主に夏~秋季(水温20℃以上)にみられ,発生期間は概ね1~2ヶ月間,死亡率は1~70%であった。病理組織学的には病魚の脳,脊髄および眼球網膜で神経細胞の核濃縮および空胞変性がみられ,壊死細胞はしばしば細胞残渣を含む円型の空隙に置き換わっていた。こうした変性細胞は嗅葉,視床下部および小脳に多い傾向がみられた。電顕観察では,病変部の神経細胞の細胞質に直径約30nmの球形ウイルス粒子が多数みられ,封入体の形成や念珠状の増殖像が確認された。またウイルス粒子が放出された後の細胞は空胞化し,空胞の周縁部にウイルス粒子が残存する像も観察された。感染実験では,鼻腔感染により自然発病魚と同様の異常遊泳と病変が再現された。また経時的採材では,ウイルス抗原は最初に嗅葉で確認され,次いで脳全体から検出された。これらの結果から,本症のウイルス感染経路の一つとして,鼻腔からのウイルス感染の可能性が示唆された。