窒素安定同位体比を用いたイセエビ幼生によるアルテミアとイガイの利用状況把握の試み
2007年度日本水産学会春季大会講演要旨(2007年3月28日)
松田浩一○・竹内泰介・田中真二(三重科技セ水)・渡部諭史(中央水研)
目的
イセエビ幼生(フィロゾーマ)の飼育餌料にはアルテミアとムラサキイガイの生殖腺(以下イガイ)が一般的に併用される。しかし,イセエビ幼生による餌料の摂餌量を測定することは困難であるため,各餌料の利用実態は明らかになっていない。そこで,窒素安定同位体比(d15N)を用いて,各餌料のイセエビ幼生による同化の程度を推定した。
方法
2つの餌料のd15Nを把握するため,定法により珪藻で養成したアルテミアを8月と10月に,蓄養しているムラサキイガイを8~12月にサンプリングし,d15Nを測定した。幼生の摂餌による15Nの濃縮係数を算定するため,アルテミアを餌料としてふ化幼生を30日間飼育し,その間のd15Nを定期的に測定した。さらに,アルテミアとイガイを給餌して飼育した中期幼生のd15Nを測定し,それらの値から両餌料の利用率を算定した。
結果
アルテミアとイガイのd15Nは,それぞれ-0.7~-0.5‰(平均-0.6‰),9.0~10.5‰(平均9.9‰)と異なる値をとり,幼生による利用状況を調査する手法としてd15Nを用いることは有効と判断された。ふ化幼生のd15Nは8.6‰であったが飼育日数の経過とともに低下し,ふ化後18日以降は3.1‰で一定となった。この時のアルテミアのd15Nは0.6‰であり,同化による15Nの濃縮係数は2.5‰(i.e. 3.1-0.6‰)と算定された。中期幼生(体長9~10mm)のd15Nは5.7‰であり,この時の両餌料のd15Nと上記で求めた15Nの濃縮係数から,中期幼生に対する両餌料の寄与率は,アルテミアが64%,イガイが36%と算定され,中期幼生にとってアルテミアの餌料価値が高いことがわかった。