黒潮大蛇行による熊野灘沿岸の海況および漁況の変化
水産海洋学会2004年度研究発表大会要旨(2004年12月4日)
久野 正博・山田 浩且(三重県科学技術振興センター 水産研究部)
目的
本州南岸の黒潮には、紀伊半島沖を東へほぼ直進する流路を取る場合と、遠州灘沖に出現する冷水塊を迂回して大きく蛇行する場合(大蛇行型)がある。黒潮流路は1991年以降13年間続いていた非大蛇行型から2004年夏に大蛇行型に移行した。これまでの事例から黒潮が大蛇行型に移行すると熊野灘沿岸の海況が大きく変化することが報告されている。ここでは、今回の黒潮大蛇行型への移行に伴って、熊野灘沿岸における海況および漁況がどのように変化したかを明らかにすることを目的とした。
材料と方法
黒潮流路の判断には、三重県科学技術振興センター水産研究部が人工衛星ノアを受信解析した「人工衛星海況速報」、気象庁観測の串本と浦神の潮位データを用いた。沿岸の海況データとして、三重県科学技術振興センター調査船「あさま」による毎月1回の沿岸定線観測結果および6月に1回、7月に3回行った臨時観測の結果を用いた。漁況データについては、三重県科学技術振興センター水産研究部とりまとめの漁獲統計資料および漁獲物の魚体測定結果を用いた。これらの資料から、黒潮流路がどのように変化し、それに伴って熊野灘沿岸の海況および漁況がどのように変化したかを検討した。
結果と考察
黒潮小蛇行が2004年2月下旬に九州南東沖に形成され、この小蛇行の東端は4月下旬に室戸岬沖、5月下旬に潮岬沖に達した。6月上旬に蛇行東端の一部が潮岬を越え熊野灘に流入し、熊野灘の水温は急上昇した。6月8日の沿岸定線観測では熊野市沖SE20マイルにおける50m水温は23.9℃(平年差+6.1℃)を記録し、6月としては観測史上(1967年~)における最高水温を更新した。6月中旬は一時的に熊野灘沿岸は冷水域に入ったが、6月下旬には蛇行本体の北上部が熊野灘にS字状に直接流入し、再び高水温傾向が顕著になった。7月に蛇行北上部が遠州灘へ移動、8月に黒潮は安定した大蛇行型となった。黒潮大蛇行の指標とされる串本と浦神の潮位差は6月下旬に急激に低下し、7月以降は潮位差の小さい状態が持続していることから、黒潮は7月に大蛇行型に移行したと判断された。8月以降、熊野灘沿岸は遠州灘から黒潮内側反流の流入が継続する海況パターンとなり、高水温傾向が持続した。
熊野灘沿岸における漁況の変化としては、黒潮が大蛇行型に移行する直前の6月中旬の低水温期にスルメイカが短期的に好漁となり、その後の高水温化とともに低調となったこと、黒潮内側反流が安定した8月にマイワシ0才魚(体長15~16cm主体)が過去10年平均の約3倍の1,183トン(中型まき網主要4港)、9月に同7倍の996トンの好漁となったことがあげられ、海況変化との関連が示唆された。