英虞湾海底泥から出現するHeterocapsa spp. H. circularisquama 出現の経年変化と越冬の可能性
平成14年度日本水産学会春季大会講演要旨(2002年4月1日~5日)
〇中西克之・畑 直亜・増田 健(三重科技セ水)
・板倉茂・長崎慶三・山口峰生(瀬戸内水研)
目的
三重県の英虞湾において,終点希釈法を用いた底泥の培養によりH. circularisquamaの底生期細胞密度を調査し,その出現の経年変化と越冬への関与の可能性について検討する。
方法
英虞湾において,1998~2001年の春~秋期に本種の赤潮頻発水域である湾奥の1定点で継続的に採泥調査を行った。また,1998年3月13日と5月1日には,英虞湾の広範囲に設けた定点(それぞれ3定点,6定点)において表層泥を採取した。採取した泥試料を用い,Imai et al.(1984)の方法にしたがって底泥懸濁液の希釈段階を調製し,25℃の温度条件下で培養後,栄養細胞の有無を光学顕微鏡下で観察し,最確数表により底生期細胞密度を算出した。調査期間中には随時,海水中における栄養細胞密度の観測も行った。
結果
湾奥の1定点において,海水中のH. circularisquama栄養細胞は初夏から晩秋の間に確認された。その出現時期と期間は年によって異なっていたが,毎年1~5月の間には栄養細胞は全く検出されなかった。海底泥中の底生期細胞は,最高で490 cells/gの密度で検出され海水中の栄養細胞密度と同様な経時変動を示したが,海水中の栄養細胞密度が低下すると海底泥から栄養細胞が出現しなくなる傾向が認められた。一方,1998年3月13日および5月1日に採取した湾口近くの英虞湾最深部の海底泥から,H. circularisquamaに酷似した栄養細胞の出現が確認された。このうち5月1日の細胞については単離培養され,種の査定の結果H. circularisquamaであることが確認された。今回の調査により,海域で栄養細胞が確認されない春季の海底泥から栄養細胞の出現が初めて確認され,本種の底生期細胞が越冬に関与する可能性が示唆された。