凍結保存精子を用いて人工生産したアコヤガイの成長,貝殻形態および生理状態
平成19年度日本水産学会秋季大会講演要旨(2007年9月25日~27日)
青木秀夫○・林 政博(三重科技セ水)・磯和 潔(三重栽培セ)
・川元貴由・太田博巳(近大院農)・成田光好・古丸 明(三重大院生資)
目的
アコヤガイ精子の凍結保存技術を種苗生産事業で活用するためには,凍結した精子を用いて生産した種苗の養殖生物特性を調べて,その健全性を把握する必要がある。本研究では,凍結精子を用いてアコヤガイを人工生産し,通常の方法で飼育管理した浮遊幼生および成貝(2年貝)の成長,貝殻形態および生理状態を,新鮮(非凍結)精子による種苗と比較して評価した。
方法
アコヤガイ(日本産貝,3年貝)の雄個体から精液を採取し,10%メタノール+18%ウシ胎児血清+72%海水からなる保存液で50倍に希釈し, 0.25mL容量のストローに封入した。このストローを-17.6℃/分の冷却速度で-50℃まで冷却した後,直ちに液体窒素に浸漬して保存した。解凍後に卵10万粒に対し希釈精液1mL(精液量で20μL)を媒精した。
- 浮遊幼生 凍結精子区および新鮮精子区の幼生を2Lビーカーに収容して25℃で22日間飼育した。餌料の植物プランクトンにはPavlova lutheri を用いた。飼育開始後1,8,15,22日目に幼生の殻長を測定するとともに,飼育期間中のへい死率および摂餌細胞数を求めた(n=7)。
- 2年貝 凍結精子区および新鮮精子区の試験貝を三重県英虞湾内の海面養殖施設で184日間飼育した(平均水温23.4℃)。飼育開始から約1ヶ月毎に平均重量を測定するとともに,へい死率を算出した。また終了時には各区の貝殻形態を調べるとともに軟体部の生理状態について評価した(n=5)。
結果
アコヤガイの成長およびへい死率は,浮遊幼生および2年貝とも,凍結精子区と新鮮精子区との間に有意差はなかった。浮遊幼生の摂餌細胞数, 2年貝の貝殻形態および軟体部の生理状態を示す項目についても,両区の間に有意差は認められなかった。これらの結果から,凍結精子で生産したアコヤガイの成長,貝殻の形成および生理状態に異常はなく,新鮮精子による種苗と比較して健全性に問題のないことが示された。