伊勢湾における干潟・藻場・河口域の変遷と物質循環の現状
平成14年度水産海洋学会地域研究集会講演要旨(2003年3月8日)
水野知巳(三重科技セ水)
干潟・河口域の変遷
伊勢湾域の海図(海上保安庁,水路部)を比較した結果,1890年から2000年までの110年間に湾全体で9,000haの埋立と干拓が行われるとともに大規模な浚渫が行われたことにより,干潟域を含めた5m以浅の浅海域は29,000haから18,000haに減少した。特に1955年から1975年までの20年間は,名古屋・四日市の両港湾区域を中心に年間200-400haの割合で約6,000haが埋め立てられ,湾奥の海岸線は大きな変貌をとげた。
アマモ場の変遷
愛知県と三重県の資料によれば,1955年頃には湾奥部から湾口部にかけての湾沿岸全域に11,500haのアマモ場が帯状に分布したが,1975年には松阪市以南と知多半島中部に点状にみられる程度に激減した。その後も回復傾向はみられず,2000年(三重県側・鈴鹿水産研究室)及び1995年(愛知県側・日本水産資源保護協会)の調査では,分布面積は105haと,1955年頃のわずか1/100程度に減少している。この原因として,湾奥部については浅海域自体が消失したことが考えられるが,湾央部・湾口部については採貝や小型底曳網漁業による影響も考えられた。
漁業の変遷と漁獲物による負荷回収の実態
地区別統計表によれば,伊勢湾の漁獲量は,湿重量換算では魚類(イワシ,イカナゴなど)に次いで藻類(クロノリ養殖),貝類(アサリ,ヤマトシジミ,バカガイなど)が多い。1960年代後半から1975~1995年まで年間15万トンを保持していたが,マイワシの来遊減少などにより,近年は10万トン前後で推移している。マイワシの他,漁獲量が激減した種として,ハマグリやクルマエビがあげられる。両種とも湾奥の生息域の消失により減少したと考えられる。一方,漁獲が増加した種として,アサリやクロノリがあげられる。両種は湾央部以南での採貝漁業が盛んになったことや,ノリ養殖域が湾口部を含む湾全域に拡大したことなどにより,1960年以降水揚げが増大している。伊勢湾周辺から漁獲物として回収される窒素及び隣は,それぞれ1980年以降の平均では6.6トン/日(3.3~11.0トン/日)及び0.59トン/日(0.30~0.86トン/日)となった。環境省によれば1994年の伊勢湾周辺での発生負荷は窒素118トン/日,隣11.5トン/日であるので,漁業・養殖業によってそれぞれ5.6%(範囲2.8~9.3%)及び5.1%(範囲2.6~7.5%)を回収したことになる。