スギ、ヒノキの樹皮剥ぎ被害は増えている?それとも減っている?
まずは、樹皮剥ぎ被害について説明します。スギ、ヒノキの樹皮剥ぎ被害は、角こすり部分から拡大する被害と樹木の根張り部分から拡大する被害に大きく分けることができます。
樹皮が剥がされた部分から木材腐朽菌が侵入すると材に変色や腐朽が生じ、商品としての木材の価値が低下します。
1.スギ、ヒノキ人工林における被害モニタリング調査
林業研究所では、県内5カ所(亀山、松阪、大台、大紀、紀北)でスギ、ヒノキの樹皮剥ぎ被害、林床植物の枝葉食害の状況を2010年から5年間調査しました。ここでは、亀山と大紀におけるヒノキの樹皮剥ぎ被害の調査結果を紹介します。なお、スギの樹皮剥ぎ被害はほとんど発生していませんでした。
ニホンジカによるヒノキの樹皮剥ぎ被害の年変化は地域によって大きく異なっています。また、同じ地域でも林分によって被害率が大きく異なります。
① 減少傾向の地域: 亀山
② 増減の小さい地域: 松阪、大台、大紀
③ 増加傾向の地域: 紀北
次に、2010年に発生した樹皮剥ぎ被害と目撃効率(SPUE)値の関係、林床植物(樹高0.3m以上)の枝葉食害と目撃効率(SPUE)値の関係をみてみましょう。目撃効率とは、出猟者1人あたり1日あたりのシカ目撃数を表し、数値が大きいほどシカ密度が高いことを示します。
樹皮剥ぎ被害率と目撃効率の間に明瞭な関係はみられませんが、目撃効率が1を超えると被害率は最大25%程度となります。
一方、林床植物の枝葉食害率は目撃効率が増加するにつれて食害率が100%へ収束していきます。このことから、林床植物の枝葉食害率は、シカの生息密度を示す有効な指標であると言えます。
2.シカ生息密度(生息数)のモニタリング調査
被害モニタリング調査地の周辺において、以下の3つの方法でシカの生息動向を調査しました。なお、ここでは平成23年を生息密度(生息数)の基準年としています。
①糞粒法(糞の数から間接的に推定する方法)
②ライトセンサス法(夜間にライトを照射してシカを直接カウントする方法)
③目撃効率(SPUE)(出猟報告データから出猟者1人あたり1日あたりのシカ目撃数を算出する方法)
調査方法により変動パターンに違いがありますが、5年間の調査においてシカ密度は大きく増加や減少することなくほぼ一定の値を保っていると考えられます。 この傾向は、他の調査地でも同様でした。
生息密度(生息数)の変化だけで、樹皮剥ぎ害発生の変化を説明することは難しいことが分かりました。