チェンソー伐倒作業の要素作業分析と生産性の推定
~間伐促進のための木質資源収穫コスト予測技術の開発事業において ~
林業研究所 野村久子
◆はじめに
現在、県内の人工林では効率的な施業を行うための集約化が進められています。森林所有者に対する 施業提案では、事前に施業にかかるコストや素材生産量を把握し、収支の見積もりを行う必要があります。林業研究所では平成23年度から、搬出間伐における収穫コストや生産性を予測するための研究を進めてきました。施業地の条件や作業方法による作業時間の違いを把握するため、県内の主要な作業システムについて調査・解析を行いました。その中から、チェンソーによる伐倒作業についての結果を報告します。
◆現地調査
調査は2012年3月から2013年12月にかけて行いました。県内で行われている搬出間伐においてチェンソー伐倒を行った5事業体の9施業地で、ビデオカメラによる時間観測調査を行いました。各調査地では事前に作業量把握のための毎木調査を行い、単木ごとに樹種、樹高、胸高直径(DBH)を測定しました。材積は樹高と胸高直径から材積表により求めました。
写真-1 調査した伐倒作業の様子
◆チェンソー伐倒作業の作業分析
1本の立木を選択して伐倒し終えるまでの時間を1サイクルとしたところ、150サイクルのデータを得ました。1サイクルの平均時間は158秒でした。
図-1 伐倒作業の流れと平均時間
*注 実線で囲った作業は1サイクル中に必ず発生し、点線で囲った作業は偶発的に発生する。
1サイクルに含まれる作業内容(要素作業)を、木探し時間、伐倒準備時間、鋸断時間、かかり木処理時間、遅延・その他時間、移動時間に分類したところ、各要素作業時間の割合はそれぞれ、木探し時間20 %、伐倒準備時間20 %、据断時間33 %、かかり木処理時間21 %、遅延時間5 %、移動時間1 %でした(図-2)。調査対象には選木有の現場と選木無の現場がありましたが、両者の木探し時間に大きな差がなかったのでまとめて解析しました。
図-2 チェンソー伐倒作業における要素作業時間の割合
また、条件の違いが作業時間にどのような影響を与えているのか調べるため、樹種別、伐倒方向別の要素作業時間を比較しました(図-3)。樹種別にはスギよりもヒノキでかかり木処理時間の全体に占める割合が高く、かかり木発生率(かかり木本数/伐倒木総数)もスギで30%、ヒノキで61%と、ヒノキで高い傾向でした。伐倒方向別には下方向への伐倒(下方伐倒)より上方向への伐倒(上方伐倒)の方が伐倒準備時間の割合が高いという結果でした。上方伐倒は、樹木を上方向へ引っ張るためのチルホールの準備等に時間をかけていたために、伐倒準備時間が増加していました。その反面、かかり木処理時間は短くなっており、伐倒方向を慎重に選び準備した結果を反映しているものと思われます。なお、傾斜の違いによる傾向は見られませんでした。
図-3 条件の違いによる要素作業の割合
鋸断時間は胸高直径に影響を受けており、調査地全体では胸高直径の1.25乗に比例して増加する傾向がありました(図-4)。
図-4 胸高直径と鋸断時間の関係
◆作業時間の推定
要素作業割合に違いがみられた、樹種別、伐倒方向別に伐倒時間を推定するモデル式を作成しました。
調査で得た150サイクルのうち、66サイクルがスギ下方伐倒、67サイクルがヒノキ下方伐倒、7サイクルがスギ上方伐倒、10サイクルがヒノキ上方伐倒でした。
図-5は上記モデル式による生産性の予測値と生産性の実測値との関係です。両者には有意な正の相関があり、モデル式によりある程度の精度で生産性の予測が可能であることがわかります。
図-5 生産性実測値とモデル式による 生産性予測値の関係
◆おわりに
伐倒作業以外の作業工程についてもサイクルタイムを予測するためのモデル式を作成しました。これらを使って、簡易で使いやすい収穫コスト予測システムを作成し、普及に努めたいと思います。