木材の利用環境と耐候性について
林業研究所 中山伸吾
◆はじめに
我が国において木材は身近で加工がしやすい材料であったことから、柱や梁といった構造部分はもちろん、床などの内装や外壁にも木材は多く使われてきました。
しかしながら、戦後になると防火に対する基準が厳しくなり、木材を外壁として利用することが非常に困難となったことや、施工後の狂いが少ないサイディング材など取り扱いが容易な外壁材が次々と出てきたことにより、コストがかかりメンテナンスの必要な木材が外壁に使われない時代が続きました。
しかし、平成12年の建築基準法の改正により、一定の性能を満たせば木材を外壁に利用できるよう基準が緩和され、木材を使用する機会が増加しました。
ところが、木材を外壁に利用しようとする場合、紫外線や雨風によって損傷や劣化を受け、建物の寿命を短くする要因となってしまいます。伝統的な工法による住宅については、軒や庇(ひさし)をうまく利用して紫外線や雨を防いだり、痛んだ個所について交換できるように作られており、正しくメンテナンスを行えば100年以上経過しても建物自体に問題は生じないことは実証されています。
しかし、近年は意匠性を重視し、外壁に木材を使うリスクを考慮していない設計がなされたり、こまめなメンテナンスがなされない案件も見受けられるようになりました。
そこで、設計やメンテナンスの重要性をわかっていただけるよう、外壁に木材を使用した建物の経年変化について事例を紹介したいと思います。
◆事例紹介1
三重県林業研究所には、木造の外壁をもつ建物が4棟存在しており、それぞれ築後18~23年経過しています。
<<林業研究所の木造外壁建築物>>
木材試験棟 |
平成3年築 |
再塗装歴 有 |
木材加工棟 |
平成5年築 |
再塗装歴 有 |
資材庫 |
平成6年築 |
再塗装歴 無 |
きのこ棟 |
平成8年築 |
再塗装歴 無 |
建物の外壁はスギ材(きのこ棟はヒノキ材)を利用しており、建築時に木材保護塗料で塗装してありました。しかし、現在では太陽光が当たる方角や軒や庇の有無、再塗装メンテナンスの違いによって、大きく状態を変えています。
最も変化の激しいところは、資材庫の南側壁面で、ここは太陽光を遮るものがなく、軒も短いため雨が直接当たる環境にあります(写真1)。
あいじゃくりの横張りをしており、再塗装などのメンテナンスも行われていないため、板反りが大きく釘が抜けていたり、板が痩せてしまっている部分も見受けられます。但し、腐朽はしていません(写真2)。
写真1 資材庫南側壁面
写真2 資材庫南側壁面の板材状況
同じ資材庫の外壁でも東側壁面の庇の裏側などでは塗装もはっきり残っており、南側壁面のような大きな損傷は見られません。これは、太陽光の紫外線や雨風の影響をほとんど受けていないためです。
木材は、乾燥と吸湿を繰り返すことによって表面に割れが生じ、そこから内部に進行したり、紫外線によって木材中のリグニンなどが分解され退色するなど、気象的な要因が表面劣化を生じさせることから、これらの要因をできるだけ排除することで建物の寿命を延ばすことができます。
また、再塗装などのメンテナンスによる手入れも非常に重要な措置となります。資材庫とほぼ同時期に建てられた木材加工棟は、一度外壁を木材保護塗料で再塗装しており、それから数年経過していますが、釘抜けなどは見られるものの、板材に大きな損傷は見られません(写真3)。
写真3 木材加工棟南側壁面
また、軒や庇を大きくするなど、雨風や紫外線に対する対策を施したきのこ棟については、18年経過した現在においても特に補修する必要がなく、設計の段階で木材に対する配慮がなされることは非常に重要であることがわかります(写真4)。
写真4 きのこ棟全景
◆事例紹介2
外壁の塗装について、塗料の違いによる色の変化を調査する機会があり、油性保護塗料、水性保護塗料、植物油系自然塗料で塗装されたヒノキ材の外壁について、約4か月経過した後の色差を測定しました(表1)。
表1 塗装外壁の4か月経過後の色差
調査が短期間であるため、はっきりとした差は見られませんが、塗料の種類や色の有無、面している方角による違いが出始めています。特に、無塗装の材は白色化とともに反りや割れ、表面の痩せ、釘抜けなどが塗装した材に比べ多く見られ、設置された環境によっては、短期間で木材表面の劣化が進行することが確認できました。
平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定され、公共建築物を中心に外壁に木材を使おうとする建物が今後増加する可能性が高くなりました。
最近では屋外使用タイプの木材保護塗料の種類も増え、その性能もかなり向上しています。しかし、使用環境によっては効果の持続性に大きな違いが出ることや、定期的なメンテナンスは必ず必要になることを理解したうえで、建物の規模や用途に合わせ、設計段階から対策をとっておくことが建物の寿命を延ばし、維持にかかるコストを抑えることにつながります。