オオイチョウタケの空調施設栽培
林業研究所 西井 孝文
1.はじめに
オオイチョウタケは、県内山間部のスギ林に9月中下旬から10月上旬にかけて発生する白い大型のきのこです。風味が良く、地元では「スギタケ」と呼ばれて珍重されています。
林業研究所では、2000年秋に大台町宮川地内のスギ林で、県内で初めて菌床埋め込みによる人工栽培に成功し、さらに、2003年秋には林業研究所構内の簡易施設を用いた人工栽培に成功しています。しかし、いずれの栽培方法も発生期間が限られる上、発生量が気温や降水量といった気象条件の影響を受けるため、通年栽培技術の開発が望まれていました。
そこで、野外の発生条件を参考に、空調施設を用いた栽培方法の検討を行いましたので、その概要について紹介します。
2.オオイチョウタケ野外発生地の調査
県内各地の林地にオオイチョウタケの菌床を埋め込んだ試験地において、気温と地温ならびに菌糸の伸長する時期を調査しました(図-1)。
その結果、どの発生地においても気温の高低にかかわらず地温は安定しており、年間を通して概ね5℃から25℃の間にあり、菌糸にとって生育しやすい環境であることが分かりました。またオオイチョウタケ菌糸は、秋から春先にかけて伸長し、秋の地温が20℃を下回ってから子実体が発生し、発生箇所は菌糸の伸長した地点から発生する傾向が見られました。
林業研究所構内の簡易施設を用いて、菌床を埋め込む時期と子実体発生時期の関係を調査したところ、12月までに菌床を埋め込むと翌年の秋に子実体発生が可能なことが判りました。
図-1. 試験地における発生状況の調査
3.オオイチョウタケ菌糸体の培養条件の調査
バーク堆肥と米ぬかを容積比で4:1の割合で混合し、含水率を62%前後に調整した後、直径32㎜の試験管に50g詰めました。118℃で30分間殺菌した後、オオイチョウタケ菌糸を接種し、温度5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃の条件下で培養しました。
接種3日後から2ヵ月間の菌糸伸長量を測定したところ、25℃で最も良く伸長しましたが、5℃の低温でも菌糸が十分伸長することが分かりました(図-2)。
図-2. 培養温度別の菌糸伸長量
次に、栄養源としての米ぬかを添加せず、バーク堆肥のみを試験管に詰め、殺菌を行わずにオオイチョウタケ菌糸を接種し、先の試験と同じ温度で培養しました。接種3日目から1カ月間の菌糸伸長量を比較したところ、20℃以上の培養温度では、雑菌汚染等により菌糸の伸長が途中で停止し、培養温度が15℃以下でないと継続した菌糸の伸長は見込めない結果となりました。
さらに、培地基材としてバーク堆肥の他に、ハタケシメジ廃菌床、スギオガ粉、広葉樹オガ粉のみを試験管に詰め、殺菌を行わず10℃で培養しました。その結果、バーク堆肥と廃菌床では菌糸伸長が良好でしたが、スギオガ粉、広葉樹オガ粉では、菌糸の伸長が著しく遅れました。
4.空調施設を利用した栽培試験
以上の結果を参考にして、空調施設内で大型の容器にオオイチョウタケ菌床を埋め込んで、野外での発生を再現してみました。
バーク堆肥、米ぬか、ビール粕を混合し、含水率を63%前後に調整した後、ポリプロピレン製の栽培袋に2.5 ㎏詰め、118 ℃で90分間殺菌しました。1晩放冷した後、オオイチョウタケ種菌を接種し、温度23 ℃、湿度70%の条件下で75日間培養し、オオイチョウタケ菌床を作製しました。
内径が縦700 ㎜、横360 ㎜、深さ150 ㎜のプラスチック製容器の底にバーク堆肥を敷き、容器上面よりみて、2/3の面積にほぐしたオオイチョウタケ菌床を敷き詰めました(図-3)。さらにバーク堆肥でオオイチョウタケ菌床を埋め込み、温度10 ℃、湿度90%の条件下で7カ月間培養し、バーク堆肥への菌糸伸長を促しました(図-4)。菌糸が容器内に十分に蔓延した後、温度20 ℃、湿度70%の条件下で1カ月間維持しました。その後、条件を温度25 ℃、湿度70%に変えて、さらに1カ月間維持した後に、この容器を温度18 ℃、湿度100%および温度21 ℃、湿度100%の条件下に移動させ、子実体の発生を促しました。
図-3. オオイチョウタケ菌床の埋め込み
図-4. オオイチョウタケ菌糸の生育状況
図-5. 容器から発生したオオイチョウタケ
その結果、温度18 ℃、湿度100%の条件下に移動した容器から2週間後に2本、合計610 gのオオイチョウタケ子実体が発生しました(図-5)。しかし、同時に温度21 ℃、湿度100%の条件下に移動した容器からは、子実体の発生は認められませんでした。さらに、子実体が発生した条件で再現試験を行ったところ、再度発生に成功しました(図-6)。
図-6. 再現試験における発生状況
5.今後の課題
この方法を用いることにより、空調施設内でオオイチョウタケの発生が可能なことが明らかになり、埋め込み時期を分散させることにより、通年発生が可能であると考えられます。
しかし、現在の栽培条件では、菌床埋め込みより発生まで、野外栽培と同じく10カ月程度要すること、容器の大きさが限られているため発生量に限界があるなど、多くの課題が残されています。
今後はさらに、菌床の埋め込み量、埋め込み方法、培養期間等の検討を行い、栽培期間の短縮、発生量の向上を目指します。
なお、この栽培方法について、平成26年3月25日に特許出願を行いました(特願2014-061416)。