ヒノキ人工林の樹冠疎密度と林内照度
林業研究所 野々田 稔郎
◆はじめに
間伐が実施されない過密人工林の問題として、林内照度の低下、下層植生衰退に伴う林床の裸地化、土壌浸透能の低下等の現象が報告されています。特にヒノキ林は、落葉が細片化して流亡しやすいので、その傾向が顕著です。このため、林内光環境を改善し下層植生の侵入・生育を目的とした間伐が行われています。
林内光環境は、樹冠を通過して林床に到達する光の大小で決まるので、樹冠疎密度(樹冠の混み合い度)が重要な因子となると考えられます。樹冠疎密度の高い又は低いとは、林内から上空を見たときの樹冠内の空隙量の大小によって決まり、枝葉が樹冠層に占める割合が80%、空隙が20%の時に、樹冠疎密度は0.8と表されます。樹冠疎密度が低い場合は、樹冠内の空隙量が大きく、太陽光が林内に入りやすいので、林内照度も大きくなります。これとは逆に、樹冠疎密度が高いと樹冠層の空隙量も小さく、林内照度も小さくなります。また、後述するように、樹冠疎密度は、立木の過密程度と密接に関係するので、林内光環境を改善するための間伐を行う上で、重要な管理指標となるものと考えられます。このことから、ヒノキ林における樹冠疎密度と林内光環境の関係を検討してみました。
◆間伐と樹冠疎密度の関係
立木密度、樹冠疎密度、林内照度の関係は、以下のように整理されます。
・立木密度:高→樹冠疎密度:高→林内照度:小
・立木密度:低→樹冠疎密度:低→林内照度:大
このことを図-1の模式図を用いて説明すると、図-1(a)のような立木密度の高い林分では、樹冠層においても枝葉が互いに触れ合い、空隙がほとんど無い状態であり、写真-1左に示すように、林内から空がほとんど見えません。この状態を「樹冠閉鎖」と言い、樹冠疎密度が高いと表現され、林内照度は低くなります。
樹冠閉鎖状態の林分が間伐されると、図-1(b)に示すように、立木密度が低くなるとともに、樹冠層から間伐木の枝葉が除去されます。写真-1右に示すように、間伐木が占有していた場所が空隙となるので、樹冠疎密度は低くなり、林内照度は間伐前より高くなります。
間伐後、時間が経過すると、残存木は図-1(c)に示すように成長し、これにともない枝葉を伸ばして間伐により生じた樹冠層の空隙を徐々に埋めていきます。やがては、間伐前と同程度の樹冠疎密度となって樹冠が再び閉鎖する「樹冠再閉鎖」の状態となります。
樹冠の再閉鎖は、樹冠層の空隙量が再び小さくなるので、林内照度は間伐直後より低下します。また、枝葉が互いに触れあい干渉するので、枝葉の伸長は抑制され、同時に幹の肥大成長速度も低下します。これは、間伐による効果(間引きの効果)が無くなったことを意味し、樹冠疎密度が、間伐実施後に次回の間伐時期を判断する重要な指標となる理由です。
図-1 樹冠閉鎖の模式図 写真-1 間伐前後の全天空写真
(a): 樹冠閉鎖状態の人工林 左:間伐前(樹冠疎密度は高い)
(b) :間伐により樹冠が開放された人工林 右:間伐後(樹冠疎密度は低くなっている)
(c) :時間経過に伴い樹冠が再閉鎖した人工林
◆樹冠疎密度を表す「樹冠投影面積係数」
樹冠疎密度は、樹冠層に占める枝葉の面積率で表されますが、目視により判断しなければならず、個人の熟練度により、データがばらつく可能性があります。そこで、樹冠疎密度を新たな指標で表すことにしました。この指標は、以下のとおり樹冠投影面積を用いるので、樹冠投影面積係数Kcと言うことにします。
①図-2(a)に示す枝張り半径BL(4方向)を測定し、平均枝張り半径BLaを単木ごとに求める。
②平均枝張り半径BLaを円の半径と仮定し、単木ごとの樹冠投影面積Caを計算する(図-2 (1)式)。
③単木ごとの樹冠投影面積Caを合計し、調査プロット面積Paで除してKcを求める(図-2 (2)式)。
樹冠投影面積係数Kcは、図-2(b)の枝葉の重なった面積を除かず、(2)式により求めています。したがって、過密な(枝葉の重なりの多い)林分では1<Kcの場合があり、樹冠疎密度と異なりますが、樹冠(枝葉)の混み合い度を直接表す指標なので、樹冠疎密度と同じ意味を持つものと考えられます。
◆樹冠投影面積係数と相対照度
県内6箇所のヒノキ人工林において、調査プロットを設定(プロット面積:100~400㎡ )し、毎木調査、林内相対照度を測定するとともに、樹冠投影面積係数Kcを求めました。林内相対照度とは、林内照度と林外照度の比を表します。調査林分の概要は表-1に示すとおりであり、林齢37~53年生、立木密度は500(本/ha)のような低密度な林分から1800(本/ha)と密度の高い林分を対象として調査しました。同表には樹冠投影面積係数Kcとともに、林分の過密程度を表す収量比数Ryを併記しています。RyとKcの関係は、やや、ばらつきますが、正の相関関係が認められ(相関係数R=0.69)、立木の過密度が高い(収量比数が大きい)林分ほど、樹冠疎密度を表すKcも高くなっています。
図-3に樹冠投影面積係数Kcと林内相対照度の関係を示します。同図には、従来から相対照度推定に利用される収量比数Ryとの関係も併せて示しました。収量比数Ryを用いても、精度よく相対照度の推定が可能(R 2=0.548)ですが、樹冠投影面積係数Kcを用いると、より精度良く相対照度の推定(R 2
Kc = a・ρ + b・H + c(a、b、cは係数)
によりKcを求めることが可能なようです。今後は、データ数を増やして推定精度の向上と現場適用を検討したいと思います。
図-2 樹冠投影面積係数の定義 表-1調査林分(ヒノキ林)の概要
図-3 樹冠投影面積係数、収量比数と相対照度の関係 図-4樹冠投影面積係数Kcの推定