森林作業道の土工量を簡易に推定する手法の検討
~ 間伐促進のための森林作業道開設支援技術の開発事業において ~
林業研究所 野村久子
◆はじめに
効率的な森林整備を行うためには路網整備が不可欠であり、現在、各地で森林作業道の開設が行われています。土構造が主体の森林作業道の開設コストを安価で、維持管理が容易なものにするためには、できるだけ地形の改変を少なくすることが必要です。
そこで、机上計画の段階で計画路線の土工量を簡易に推定する手法について検討するために、県内12路線の既設作業道の調査を行いましたので、その結果と考察についてご紹介します。
(写真1)調査した森林作業道
◆標準断面を用いた切土量の推定
調査では、線形測量と横断測量を行い、717断面の横断図を作成しました。そして、作成した横断面図から切土部幅員(Wc)、盛土部幅員(We)、切土土量(Vc)盛土土量(Ve)、傾斜(θ)を測定しました。
作業道の土工量を(図1)に示すような標準断面で考えた場合、切土土量(V’)は次式で求めることができます。
Vc’=Wc・Hc/2 ・・・(1)
また図1から、切土高(Hc)を傾斜で表現すると、(2)式で表されます。(∵tanθ=Hc/(Wc + 0.3Hc))
・・・(2)
(図1)標準断面図
(1)式に(2)式を代入すると、(3)式が得られます。
・・・(3)
同様に、盛土については(4)式となります。
・・・(4)
これら(3)(4)式に、調査結果から得た幅員(WcおよびWe)と傾斜(θ)を当てはめると、計算切土土量(Vc’)と計算盛土土量(Ve’)が得られます。このVc’とVe’は、横断面図から測定した土量Vc、Veと高い相関関係がありました(図2)。
(図2) 計算土量と実際の土量の関係
このことから、既設作業道の横断面構造は標準断面と同様の構造をとっており、土工量は幅員と傾斜が分かれば、標準断面における計算式で推定できそうだということが分かります。
◆標準断面における最適なCL位置の検討
前述のとおり、標準断面の計算式で土量を推定する場合、幅員と傾斜が必要です。そこで次に幅員について検討しました。
717断面の調査結果では、幅員の平均は3.3mでした。ここでは幅員を3.0mと定義します。
幅員が一定の場合、切土部および盛土部幅員を決定するのはセンター(CL)の位置です。土砂の移動量や地形の改変が少ない道を作るためには、切土と盛土のバランスのとれた構造にする必要があります。
そこで、傾斜毎の標準断面において、CLが移動することで土工量がどのように変化するか確認し、切土量と盛土量の差の少ない断面を探索しました。
(図3) CL移動のイメージ
CLが幅員の中心にあるときを基準に、切土側へ1m移動する場合をCL+1、2m移動する場合をCL+2、盛土側へ1m移動する場合をCL-1、2m移動する場合をCL-2とし、切土と盛土の土工量を計測しました。傾斜は10度から35度まで5度刻みに、35度から40度までは1度刻みに断面を作成し、切土土量と盛土土量がどのように変化するのか計測しました。
(図4)傾斜、CL位置毎の土量変化
その結果が図4です。CLとCL+1の断面で切土と盛土の差が少ないことが分かります。
そこで、CLとCL+1の土工量を詳細に表したのが図5です。その結果、切土量と盛土量の差の絶対値が最小になる(つまり土砂の過不足が少なく移動量が少ない)のは、37度以下でCL、38度以上でCL+1の断面だということが分かりました。
(図5)CLとCL+1の傾斜による土工量変化
◆おわりに
このように、現地の傾斜によって最適な断面を選ぶことが必要であり、傾斜については、GIS上でDEMデータ(数値標高モデル)(*注1)を用いて地形解析を行うことにより、県内全域の値を把握することができます。それらのデータを標準断面の計算式に入力することで、計画線形のおよその土量を推定することが可能であると思われます。
机上計画の段階で森林作業道のおよその土工量を推定することで、およその経費をつかむことができるでしょう。作業道計画時の省力化、森林所有者との合意形成など、様々な場面で活用できるよう、今後は検証も行いながら、実用的な開発につなげたいと思います。
(*注1) DEMデータ(数値標高モデル)
地表面の形状を位置情報を持った格子で表現したもの。格子の大きさにより精度が変わる。三重県で現在使っているのは5mの格子のもの。