三重県における梁桁材の流通状況について
-木材加工業者と住宅建築業者へのアンケート調査から-
三重県林業研究所 福 本 浩 士
はじめに
三重県内のスギ・ヒノキ人工林では、これまでの柱材生産を中心とした施業(伐期50年生程度)から、省力化や付加価値向上等を目指した林齢100年生以上の長伐期施業へと転換する傾向にあります。とくに肥大成長の良いスギでは、長伐期化によって中・大径丸太生産に移行しつつあります。このため、これらの中・大径丸太を梁桁材に利用することが期待されています。
平成19年には建築基準法が改正されるとともに、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保に関する法律が公布されたことから、木造住宅の主要構造部材である製材品についても、強度、含水率などの性能を厳格に担保することが求められています。
そこで林業研究所では、県内産スギの梁桁材への利用拡大を図るために、効率的な乾燥技術の開発に取り組んでいます。また、三重県内における梁桁材の流通状況についても調査を行っており、今回は梁桁材の生産者である木材加工業者と利用者である住宅建築業者に対して行ったアンケート調査の結果を紹介します。
梁桁材の生産状況
県内の木材加工業者に対して梁桁材の生産に関するアンケート調査を行い、77の事業者から回答をいただきました。そのうちの53事業者(回答全体の68%)が梁桁材を生産していることが分かりました。生産量で樹種の内訳をみると、図-1のようにスギが76%で最も多く、次いでヒノキの18%でした。ベイマツとアカマツは少なく、それぞれ4%と2%でした。また乾燥方法については、図-2のようにスギは人工乾燥のみを実施している事業者がやや多い傾向にありましたが、その他の樹種では天然乾燥のみを実施している事業者、人工乾燥のみを実施している事業者、天然乾燥と人工乾燥の両方を実施している事業者がほぼ同数でした。人工乾燥を行う時の乾燥温度について調査したところ、100℃以上の高温乾燥を行っているのはスギ、ヒノキ、アカマツでは30%程度であり、ベイマツでは全く行われていませんでした。これらのことから、三重県では梁桁材の生産はスギを中心として行われており、天然乾燥と人工乾燥の両方の方法が広く行われていました。また、人工乾燥については、乾燥温度100℃未満の乾燥方法(中温乾燥、低温乾燥)が多くの事業者で行われていることが分かりました。
図-1 三重県で生産されている梁桁材の樹種割合 | 図-2 各樹種における梁桁材の乾燥方法 |
梁桁材の利用状況
平成20年度「三重の木」住宅建築推進事業補助金に交付申請のあった住宅建築業者に対して、梁桁材の利用状況に関するアンケート調査を行い、15事業者の調査結果をまとめました。その結果、表-1のように使用している梁桁材のスギの割合は年間着工数10棟未満の小規模な事業者(以下、小規模事業者)では平均86.1%、年間着工数10棟以上の中・大規模な事業者(以下、中・大規模事業者)では平均43.3%でした。人工乾燥材の利用割合は、小規模事業者では平均27.8%、中・大規模事業者では100.0%でした。また、JAS(日本農林規格)認定工場で生産されたJAS規格適合製品の利用割合は、小規模事業者では平均31.4%、中・大規模事業者では平均95.0%でした。これらのことから、小規模事業者はスギの天然乾燥材を利用している傾向があるのに対して、中・大規模事業者はスギ以外の人工乾燥剤(カラマツ集成材、ホワイトウッド集成材、ベイマツ無垢材)など利用している傾向があるのが分かりました。また、中・大規模事業者は含水率や割れなどの性能が保証されたJAS規格適合製品を多く利用していることも分かりました。
表-1 三重県内にける梁桁材の利用状況と割れの許容値
スギ梁桁材の利用拡大に向けて
スギの梁桁材への利用拡大のためには、表面割れや内部割れの少ない品質が保証された製材品の生産が必要となってきます。そこで、梁桁材製品の表面割れ及び内部割れの長さと幅の許容値についても調査を行い、表-1にその結果をまとめました。表面割れの長さと幅、内部割れの長さと幅に関しては、中・大規模事業者の方が小規模事業者よりも許容値が小さい傾向がありました。表面割れの許容長さは、最大200cm、表面割れ許容幅は最大5.0mmでした。
内部割れについては、最大許容長さ4.0mm、許容幅3.0mmでしたが、内部割れを外観から判断することが難しいことから、許容値を設定することが難しいという意見をいただきました。
スギの梁桁材への利用を拡大するためには、スギ以外の人工乾燥材と同等の品質を保証する必要があり、スギ梁桁材の乾燥技術の確立が不可欠です。このため林業研究所では、平成20年度から「スギ梁桁材の効率的乾燥技術の確立に関する研究」として、県内に広く普及している蒸気式高温乾燥機や蒸気式中温乾燥機で実施可能な乾燥スケジュールの開発を行っています。含水率20%以下で表面割れや内部割れが少なく、製材品の色が天然乾燥材に近い人工乾燥材の乾燥方法を確立するために、人工乾燥と天然乾燥を組み合わせた方法など(写真-1、2)、様々な乾燥スケジュールで試験を実施しているところです。
写真-1 スギ梁桁材の人工乾燥試験 | 写真-2 スギ梁桁材の天然乾燥試験 |
前処理として蒸煮・高温低湿処理を行い、表面割れの発生を抑制する |