木質バイオマスの利用と現状について
三重県林業研究所 中 山 伸 吾
○はじめに
地球温暖化防止対策のひとつとして、化石燃料への依存を減少させ、代わりに太陽光や風力、バイオマスなど再生可能エネルギーを導入する動きが拡大しています。
その中でも、木質バイオマスは必要に応じてストックしておくことが可能なため、太陽光や風力のように天候に左右されることなく、安定したエネルギーの供給が行えることから、今後さらに伸びていくことが予測されます(図1)。
そこで、木質バイオマスの利用と現状などについて紹介したいと思います。
図1.木質バイオマス発電設備導入量の推移
出所:自然エネルギー白書2012(環境エネルギー政策研究所)
○木質バイオマスの種類
木質バイオマスは、発生源によって製材工場等残材、建設発生木材、林地残材等に分類することができます。しかし、その利用状況については大きく偏っており、樹皮やノコ屑などの製材工場等残材は製紙原料や燃料、家畜敷料等に利用され、住宅などを解体する時に発生する建設発生木材は製紙原料や木質ボード原料等に利用されています。これに対し、間伐材や枝条等の多くは、発生量は多いのですが、そのほとんどが利用されず、林地残材となっています(図2)。
図2.木質バイオマスの発生量と利用状況(推計)
農林水産省「バイオマス活用基・{計画」(H22)
○林地残材の燃料利用
ほとんど利用されていない林地残材の活用を図るため、平成24年に再生エネルギー固定価格買取制度(FIT)が始まりました。この法律は、再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付けるもので、木質バイオマス発電に関しては買取価格が、①未利用材32円/kwh、②製材廃材24円/kwh、③パルプ廃材(黒液)17円/kwh、④建築廃材13円/kwhと4段階に設定されています(表1)。
表1.再生可能エネルギー固定買取価格(H24年度)
未利用材が32円/kwh と高い買取価格になった背景には、搬出・利用に相当のコストがかかる一方で、取引価格が低いことから利用が進まなかった未利用材を積極的に搬出し、利用を促進することで森林の健全化を図ると同時に、継続的に木質バイオマスを供給するために必要となる間伐材等の収集・運搬・加工など、山村地域で生まれる新たな雇用による林業の振興と言った副次的な効果を狙ったものと思われます。
○木質バイオマスの発熱量と含水率
燃料として木質バイオマスを利用する際、問題となってくるのが発熱量です。木材の発熱量は、含まれる水分量に大きく影響を受け、水分10%の木材と50%の木材を比較した場合、10%と同じ発熱量を得るために、50%の木材は約2倍の量を必要とすることになります(表2)。
林地残材など未利用材は、製材工場等残材や建設発生木材と比べて水分を多く含むため、燃焼前にある程度乾燥させておく必要があります。チップの品質が、発電コストに大きく影響することからも、木質バイオマスを利用するには含水率の管理をしっかりしなければなりません。
表2.木材の水分と発熱量
*1)湿量基準含水率(WB):生木の重量に対する水分量
*2)乾量基準含水率(DB):全乾状態の重量に対する水分量
○木質バイオマス発電の現状と課題
総務省のバイオマスの利活用に関する政策評価書によると、国内における建設発生木材等を原料とする木質バイオマス発電施設は、平成14年には26施設でしたが、平成20年には144施設と大幅に増加しました。さらに、再生エネルギー固定価格買取制度の施行により、未利用間伐材を利用した発電施設が稼働を始めたり、各地で建設が計画されています。こうした動きの中で、木質バイオマス発電に対するいくつかの課題が明らかとなってきました。
課題の一つとして、原料である未利用材の調達が計画通りに継続していけるのかということが挙げられます。特に、施設の規模が大きくなると、連続運転に必要な原料の調達が間に合わず、稼働率を抑えることになる事態が生じ、計画通りの運転ができなかった事例がいくつかみられます。
また、原料のチップの価格は、需要と供給によって大きく変動する可能性を秘めており、発電された電気の買取価格が高めに設定されているとはいえ、支出のうち原材料費の割合が高い木質バイオマス発電は、発電コスト面においてリスクを背負うことになります。
これら課題の解決については、小規模分散的に発生する林地残材等を効率的に収集し、まとめていく仕組みづくりが必要です。また、小規模な事業体でも原料の供給に参画できるよう、買い取り価格の固定化など、木質エネルギー原料の公正な市場の確立が求められます。
現在は、山林の経営が木材販売のみで成立することはかなり困難な状況にあり、伐期の延長や間伐の繰り返しが行われ、皆伐後の再造林も実施がなかなか難しい状態です。この状況の中で、木質バイオマスの利用を通じ、次世代の資源を造成していくための利益を山林に還元することで、新たな資源の造成に結びつく仕組みを考えていかなければなりません。
また、木質バイオマス発電の直接燃焼によるエネルギー効率は20%程度と低いため、大量に発生する熱をいかに利用できるかがカギとなってきます。そのため、公共施設や民間の事務所、工場等での利用を見込んだ計画を立てるなど、社会全体がバイオマス利用に向けて取り組むことが重要です。