ニホンジカの捕獲方法について
三重県林業研究所 福 本 浩 士
1.はじめに
近年、三重県ではニホンジカの個体数が増加し、農林業への被害が深刻化しています(写真1)。ニホンジカの被害を軽減するためには、①個体数管理(狩猟や有害駆除により個体数を管理する)、②生息地管理(ニホンジカの餌場となっている森林伐採跡地や耕作放棄地を適切に管理する)、③被害管理(林地・林木や農地を柵等により物理的に防護する)が重要です。
三重県では、平成14年に三重県特定鳥獣保護管理計画(ニホンジカ)を策定しました。その中で、ニホンジカの生息密度を3頭/km
ニホンジカの捕獲については様々な方法があります。くくりわな、はこわななどの従来の捕獲方法に加えて、ニホンジカを大量捕獲する取り組みが進められています。そこで今回は、ニホンジカの捕獲方法についてまとめてみました。
写真1 ニホンジカに剥皮されたヒノキ
2.ニホンジカの捕獲方法
1)くくりわなによる捕獲
構造が簡単であり、設置しやすく、安価なため、現在、最も普及している捕獲方法の一つです(写真2)。九州森林管理局発行のシカ捕獲マニュアル-くくり罠編(暫定版)によると、設置個所は①管理が行いやすい林道周辺のシカ道(利用頻度が高いほど良い)や遊び場、②ニホンジカが寄ってくる造林地のシカネット沿い、③ニホンジカが寄ってくる捕獲柵や牧柵(牧場)沿い、④嗜好性の高い植物を誘因餌として設置した場所が良いとされています。また、わなを設置する際、ニホンジカの足がわなに着地するようにわなの周囲に枝や石などを置き誘導する、わなの上に細かい葉などを置き、わなが見えないようにすると効果的があるようです。
写真-2 くくりわなにかかったニホンジカのオス
2)はこわなによる捕獲
はこわなとは、箱の中に獣が入り込んで餌をくわえて引いたりすると、出入り口が半自動的に閉まることにより獣を閉じ込めて捕獲するわなのことです(大日本猟友会 2012)(写真3)。ニホンジカは警戒心が強いため、はこわなの中に入り込むまで時間をかけて馴らす必要があります。最近では、スマートセンサーを利用して、獣種や頭数を判別できるシステムが兵庫県立大学を中心とした研究グループにより開発されています。
写真-3 はこわなにかかったニホンジカのオス
3)囲いわなによる捕獲
囲いわなは、はこわなと同様に、獣が入り込んで餌をくわえて引いたりすると、出入り口が半自動的に閉まることにより獣を閉じ込めて捕獲するわなのことです(大日本猟友会 2012)。はこわなに似ていますが、天井部分が無いことが大きな違いです。
北海道洞爺湖中島では、大規模な囲いわな(総延長361m)を用いたニホンジカの大量捕獲に関する試験が行われています。高橋(2005)によると、稼働日あたり捕獲効率は44.8~56.5頭/日であり、限られた期間に多数のニホンジカを捕獲する必要がある場合や長期にわたり継続的に捕獲する必要がある場合には有効な捕獲方法であると考えられています。大分県では、森林内の立木と漁網を利用した低コストで持ち運びが容易な囲いわなの研究が進められています。
4)ドロップネットによる捕獲
ドロップネットとはワイヤーで吊り下げた網を設置したわなに、餌でニホンジカを誘引し、網の下にシカが入ったら網を落としてニホンジカを捕獲する方法です(兵庫県森林動物研究センター 2010)。兵庫県では「兵庫方式シカ捕獲技術(仮称)」として開発され、新型シカ捕獲装置マニュアル(Ver.2)も作成されています。
福井県小浜市では「小浜式大型捕獲網」が開発され、「OBAMAビーストキャッチ」として商品化されています。三重県では、農業研究所を中心として大台町において小浜式大型捕獲網によるニホンジカの大量捕獲実験が行われています(写真4)。
写真-4 小浜式大型捕獲網による捕獲実験
5)アルパインキャプチャーシステムによる捕獲
アルパインキャプチャーシステムは、布または網の幕を地表に折りたたんでおき、この中にシカを誘引し、重りの落下により幕を立ち上げて囲い込むわなのことです(高橋 2005)。北海道や東北地方で試験的に実施されてきたアルパインキャプチャーシステムの稼働日あたり捕獲効率は0.9~5.8頭/日とされています(高橋 2005)。システム的な欠点も徐々に改良されており、少人数で捕獲を行う際には簡便で安全な方法と考えられています。
6)シャープシューティング法による捕獲
シャープシューティング法とは、「給餌等により近距離に誘引して全個体を狙撃する」「給餌場は実施地域内に複数設置し、警戒心を高めぬように留意しながらローテーションで捕獲する」「アニマルウェルフェア(動物福祉)への配慮ならびに撃ち残し個体の逃走を防ぐ目的から、狙撃部位は頭部または頸部(中枢)とする」などを条件とする捕殺方法です(濱崎ら2011;鈴木2011)。現在、北海道など一部の地域でシャープシューティング法が試行されています。シャープシューティング法を効率良く行うためには、「同一方法による一定期間以上の継続的な餌付け」「100メートルの距離からの連続射撃により、複数個体の頭部に命中させることが可能な射撃技能」「逃げ始めた個体を追い討ちできる程度の開けた面積」などの条件が求められています(濱崎ら2011)。シャープシューティング法導入の可否判断は冷静に行う必要があり、仮に導入するとしても組織・体制の整備が不可欠であり、人材の育成も必要であることに留意が必要です(鈴木 2011)。
引用文献
大日本猟友会(2012)狩猟読本.
濱崎伸一郎・小泉 透・山内貴義(2011)生物多様性保全に向けたニホンジカの個体数管理.哺乳類科学51:181-185.
兵庫県森林動物研究センター(2010)新型シカ捕獲装置マニュアル(Ver.2).
九州森林管理局(2010)シカ捕獲マニュアル-くくり罠編(暫定版).
高橋裕史・梶 光一(2005)ニホンジカの大量捕獲法.森林防疫.54:28-34.
鈴木正嗣(2011)ニホンジカの個体群管理に関わる新たな手法と体制の確立を目指して.第122回日本森林学会大会公開シンポジウム講演要旨集.