木材への塗装と色変化について
三重県林業研究所 中 山 伸 吾
○はじめに
日本では昔から、木材を身近な材料として住宅や家具・日用品など様々なものに加工し、利用してきました。しかし、木材は加工がしやすい反面、使用している間に摩耗する、手垢などにより汚れが付着する、日光などにより変色する、吸脱湿により膨潤収縮するなど、いくつもの欠点が存在します。木材表面を保護することで、これら欠点を補い、より長く快適に利用できるようにするために、木材へ塗装が施されるようになりました。また、塗装には木材の持つ見た目の美しさを強調し、付加価値を高める効果もあります。
木材塗装に用いる塗料や方法には様々な種類があり、その特徴を踏まえたうえで、材種、製品の形態、塗装の目的などに応じて、適する塗料と方法を選択する必要があります。
ここでは、まず木材塗料の種類、塗装の工程について述べ、次いでヒノキの紫外線による材色変化を塗装によって抑制することを目的に取り組んでいる試験の概要を紹介します。
○塗料の種類
木材用の塗料は、表-1のように天然樹脂塗料、繊維素塗料、油性塗料、合成樹脂塗料に大きく分類することができます。
木材の塗装はこれまで、丈夫で仕上がりの良い合成樹脂塗料のウレタン塗装が主流となっていましたが、有機溶剤を用いる問題点から、最近では水性のウレタン塗料や天然原料のみを用いる自然塗料などが注目されてきています。
○塗装の工程
木材塗装は、主に含水率の調整、木地の調整、仕上げの工程で行われています。
塗装前に木材の含水率を8~12%に調整することで、木材の持つ水分による収縮割れなどを防ぐことができます。
木地調整は研磨により、汚れや逆目、毛羽立ちを除去し、表面を平滑にする目的で行われ、木工塗装の効果を得るには非常に重要な工程です。
仕上げは大きく分けると、マイクロフィニッシュ、オープンポアー仕上げ、セミオープンポアー仕上げ、クローズドポア仕上げがあります(図-1)。
マイクロフィニッシュは、塗料を浸透させる仕上げで、自然塗料がこれに当たります。汚れや傷がつきやすいですが、補修が簡単にできます。
オープンポアー仕上げは、木の表面にごく薄い硬い塗膜を作るので、マイクロフィニッシュより汚れや傷に強い仕上げができる塗装仕上げです。
クローズポアー仕上げとは木材の導管を完全に埋め、塗装面をガラス状に仕上げたもので、一般的なウレタン塗装がこれにあたります。木質感は無くなってしまいますが、塗膜が厚く独特の高級感のある仕上げが可能です。
表-1 主原料成分の違いによる木材用塗料の分類
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図-1 塗装仕上げの種類
○試験を行った塗装方法
内装材や木製品の日焼けや色あせなど、材色変化の主な原因は光によるものであり、特に紫外線は木材成分のリグニンや抽出成分の化学結合を切ってしまい、その構造が変化することにより材色変化が生じます。材色変化の原因である紫外線を防ぐため、従来は色の濃い顔料を用いた着色塗装が一般的に施されてきましたが、木が有する本来の材色を損なう欠点があります。一方、木の色を生かしたクリアタイプや含浸タイプの塗装は、従来の方法に比べて耐久性が低く、あまり用いられてきませんでした。
そこで、当研究所で行っている塗装試験では、ヒノキの材色を生かした製品づくりを目的として、元来の材色を損なわないクリアタイプ(透明)の塗装を用い、耐久性を向上させるために紫外線吸収剤や顔料の組み合わせを検討しています。
塗料としては、表-1に示した木材塗料のうち、広く使われているウレタン塗装(合成樹脂塗料)と最近需要の高まっている自然塗料を用いました。
写真-1 屋内暴露試験の様子
○屋内暴露試験による材色変化の測定結果
ヒノキの無垢床板にクリアタイプの自然塗料、水性ウレタン塗料を塗装し、屋内に3カ月暴露した時の材色変化を無塗装の場合と比較しました(写真-1)。材色の変化は、JIS Z 8729に規定されているL*a*b*表色系によって測定しています。
ここで、L*a*b*表色系について説明します。L*は色の明るさ、a*は色の赤みの程度、b*は色の黄みの程度をそれぞれ表します。すなわち、L*の増加は明るく、a*の増加は赤、減少は緑、b*の増加は黄、減少は青の方向へ材色が変化したことになります。
図-2に3カ月後の紫外線による材色変化の測定値を計算し、材色の変化量をΔL*、Δa*、Δb*としてそれぞれ示しています。また、色差ΔE*はΔL*、Δa*、Δb*をすべて加味した場合のトータルの色の変化量を表しています。一般に、色差ΔE
図-2 屋内暴露試験による色の変化
L*a*b*表色系の表す意味を踏まえると、図-2の結果は全体的にΔL*はマイナスとなり明るさが減少、Δa*はあまり変化なし、Δb*はプラスとなり黄みが増加となっています。
その中で、水性ウレタン塗料の変化量が小さく、無塗装や自然塗料が10以上変化しているのに比べ、6程度の変化量を示し、材色変化が抑制されているようでした。ただし、水性ウレタン塗料でも紫外線が当たらない部分との違いがはっきりしており、より材色変化を抑制する方法について検討する必要があろうと考えられます。
これらの材色変化の経過は引き続き測定を続け、材色変化の抑制効果を評価したうえでさらに検討を進めたいと思います。